2007-01-03 14:01:04

プレコックス感

テーマ:プレコックス感
「プレコックス感」という言葉があるが、これは「対人接触性」とは異なると思っている。プレコックス感は別に診察していなくても、極端に言えば、バスでたまたま一緒に乗り合わせているぐらいでも、表情を見ると感じ取ることができる。

プレコックス感は、その人の写真だけでわかるものか?
という質問には、やはり写真だけだとかなり精度が落ちるといわざるを得ない。ただ、その人の様子がわかるビデオだとかなりわかると思う。こんな風に考えていくと、プレコックス感は単に平面的なものではなく、おそらくその場の3次元的なものが関与しているのだろう。短くて良いが時間的な推移も必要なのかもしれない。

ある人が統合失調症に罹患したとして、プレコックス感はいつ出てくるのだろう?
少なくとも発病した瞬間は、プレコックス感はないと思う。例えば、非常に稀だが、「昨夜11時から突然様子がおかしくなりました」などと言う主訴で初診する患者さんがいる。何年何月何日の何時何分に発病したなどと、詳細な発病時間がわかるような患者さんがごく稀だがいるのだ。そんな人は、必ずと言っていいほどプレコックス感がない。もしプレコックス感があるとしたら、実はそれ以前に発病しており、いったん寛解して2回目の増悪なんだろうと思う。きっとプレコックス感は病気の進行につれて顕在化してくるものなのだろう。病気の流れ的には、急激な発病(普通、この場合は緊張型)の場合、最初はプレコックス感もなく、興奮や幻覚妄想状態だけなのだが、次第にそのような急性期の症状が消退していくうちに、プレコックス感が見えてくる。こういう経験をしていると、ひょっとしたら服薬したために、あるいは治療を行ったためにプレコックス感が出てくるのではなかろうか?と思ったりもするものだ。

いつだったか、もう15年以上前であるが、「男性の神経性食思不振症」の患者さんを診察してほしいと言う依頼があった。行ってみると、ひとめプレコックス感があるような患者さんで、拒食の原因は昏迷~亜昏迷によるものと思われた。カルテを見ると幻覚妄想もあるように書かれているし、主治医が統合失調症の存在に気がつかなかったのは、相当に謎なことであった。主治医は内科医だったのだが、その総合病院では名医で有名な人だった。専門外というのは、つまりそういうことなんだろう。その子は暴れたりせず、おとなしく療養していたので、統合失調症のイメージとは異なっていたのに違いない。こんな風に考えていくと、どうやら治療を行わなくても発病して時間がたってしまうと、プレコックス感が顕在化するようなのである。だから薬物による影響はあまり考えなくて良いような気がしている。上の例をみてもわかるように、プレコックス感は専門外の人には感じ取れないものであることがわかる。プレコックス感は、精神科医や、精神科に従事する人には感じられるという内容を書物で見ることがある。しかし、精神科の病棟婦長クラスでも、あんがいこの感覚が乏しいと思うような経験を僕はよくしている。プレコックス感は感じ取れる人は極めて限られていると思う。

初めて診た時、プレコックス感が非常に感じられたのに、後になってそんな風に感じられないことが稀にある。たぶんこのような人は統合失調症とは異なるのだろう。僕の場合、こんな風に感じることが1~2年に1回くらいある。境界性人格障害の人はプレコックス感がない。躁うつ病の人も同様である。境界性人格障害の人は、病状的には不安定だが、疾患的には非常に安定している病気であり、経過中、これは統合失調症なのかもしれないと思えるような場面がほとんどない。もしあったらそれは誤診なんだと思う。とにかく、境界性人格障害の人を年始に来ている神社の雑踏に放り込むと、もう判別がつかない。健康な人々の中にまぎれてしまうのである。

どんな患者さんの時に、後でプレコックス感が感じられなくなるのだろう?
最近経験したのでは、アスペルガー症候群の男の子。最初、入院させた時、幻覚が持続しており、表情、疎通性の点からも、この子は統合失調症だと思った。たぶん、あの子はほとんどの精神科医が最初は統合失調症と診断すると思う。僕はプレコックス感も感じた。ところが、入院してしばらくすると、ちょっと目の動きが統合失調と違うような気がし始めた。幻覚・妄想もあり、強力に抗精神病薬治療を行っているのだが、時間が経っても、プレコックス感は薄れていくばかりだった。彼の関心事は、歴史上の事件で「織田信長がある時にそうしなかった」ことで、しきりに僕にその質問をしていた。強迫思考がひどいのである。こういうのを見ても、アスペルガー的なのがわかる。

彼は日記帳をつけており、ある時、それを僕に見せてくれた。この時の内容はもうあまり細かいところまで覚えていないのだが、僕の感覚ではあまりにも統合失調症的ではなかった。この時、この子はやはりアスペルガー症候群であると確信した。彼は現在はもう退院している。もともと県外から入院しに来た患者さんで、今はデイケアに通院しているらしい。彼に最も合った薬はセロクエルだった。退院時は600mgほど処方していた。アスペルガー症候群はしばしばSSRIが処方されるが、この子の場合、SSRIは合わなかった。強迫に対してはカタプレスが有効だった。セロクエルに加え、カタプレス、リボトリール(ランドセン)くらいを併用していた記憶がある。

余談だが、紆余曲折あった後、障害年金が受給できるようになったのは良かった。彼の診断はアスペルガー症候群で間違いない。おそらく、アスペルガー症候群の患者さんが統合失調症と誤診されて入院している人も少なからずいるのではないかと思っている。誤診されたからと言って、治療はあまり変わらないのがとても精神科的なんだけど。

コメント

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1 ■誤診

「誤診されたからと言って、治療はあまり変わらないのがとても精神科的なんだけど。」

どこにいっても治療的には変わらないのが、精神科的なのでしょうか。。

すると、セカンドオピニオンなんて意味なく思えてきちゃいますね・・・。

2 ■それは疾患による

僕は診断は非常に重要と思っています。診断が違っても、することがほとんど変わらない場合もあると言うことです。

3 ■副作用?

はじめまして。
長男(高校一年生)は中学三年生のときに統合失調症と診断されました。その後、別のドクターに発達障害の二次障害と言われました。
発病当初は幻聴や独言もありましたが、ジプレキサ5ミリで落ち着きました、が受験目前という事で、薬の量は増えていきました。薬が増えると幻聴がひどくなる、と本人は訴えましたが、一番多い時は、ジプレキサ5ミリ+リスパダール3ミリを服用していました。
その後、発達障害と診断してくれたドクターと共に三ヶ月かけて減薬した結果、幻聴はなくなり、頓服で使用していたレキソタンも飲まないで2ヶ月が過ぎました。現在はジプレキサ2.5ミリのみ服用しています。
抗精神病薬の量が多すぎると、かえって幻聴や不安感の副作用がおきる事はあるのでしょうか。

4 ■抗精神病薬と副作用は

抗精神病薬の副作用は、時に精神症状が悪化したのか、区別がつかないことがあります。だから、抗精神病薬の量が多すぎるとかえって悪くなるのではないかという考え方はないわけではないです。しかし、一般には患者さんには抗精神病薬に対する不安感や恐怖感があるので、副作用を過大評価する傾向はあります。

長男さんの場合、当時、非常に精神症状が動いている時だったので、追いかけて薬を増やしてもうまくいかないように見える場面だったのかもしれません。もしジプレキサが本当に合わないのなら、今の2.5mgでもうまくはいかないと思います。(病状を2.5mgでも悪化させるということ) つまり、僕の感覚では当時は誰がしてもそういう風だった可能性が高いということです。

普通、いったん統合失調症と診断を受けても、あとで発達障害と診断された場合は、後者が正しいことが多いようです。この逆とは大違いです。なぜなら、統合失調症なら、時間が経てば経つほどそれっぽくなることが多いからです。

5 ■無題

お返事、ありがとうございます。
今までの疑問が解決しました。何気ない事でも、主治医には聞きづらいことってあるんですよね。
これからもお世話になります。よろしくお願いいたします。

6 ■禁煙した方が…

私は統合失調症で、病歴は7年ほどになります。
薬の遍歴はリントン→リスパダール→ジプレキサで、
現在はジプレキサ7.5㎎を服用しています。
ところでタバコは抗精神病薬の血中濃度を下げるようですが、
私はタバコを1日に2箱すっています。
禁煙した方がいいでしょうか?
なお、症状は安定しており、
副作用はとくに感じていません。

7 ■ジプレキサとタバコ

タバコによりジプレキサは血中濃度が下がるといわれており、影響の大きい組み合わせです。2箱も吸っていれば、急な禁煙はかなり難しいとは思いますが、少しずつ禁煙するのが良いと思います。2箱をやめれば、ジプレキサは4mgくらいでも良いのではないかと思います。

参考
http://ameblo.jp/kyupin/entry-10015211175.html

http://ameblo.jp/kyupin/theme-10002518007.html

8 ■禁煙しようかな

さっそくの回答ありがとうございました。
すこしずつ禁煙してみようと思います。

9 ■ありがとうございました。

とても参考になりました。

>誤診されたからと言って、治療はあまり変わらないのがとても精神科的なんだけど。
の部分ですが、わたしもそういう感じですね。調子がよいと抗不安薬と抗うつ薬と睡眠薬で何年もなんとかやってこれたのですが、やはりメジャーがあると非常に精神的に安定しますね(わたしの場合は)。ときどき、「最初のクリニックで『一人で部屋で空想していたりすることがある』といって出されたように、ずっと少量のメジャーを続けていたら十年後の現在はどうなっていただろうか」と考えたことがあります。今後ももしも何かで診断が変わったとしても、わたしの問題点は変わらないと思うので、使われる薬物は今のような組み合わせだろうなぁと思います。

10 ■プレコックス感

どんなんでしょう~~分からないーー分かりたい!!ドクターはひょっとするとワーカーホリックですか??私はアルコール・アディクション分野にいましたが・・

11 ■ワーカホリック

一時的に、日々の診察は忙しいし、鑑定はあるしで、自らそのようなワーカホリックの状況に追い込むことがあります。

基本的に、仕事自体は好きなので、普通の人より仕事の部分で無理が効くのかもしれません。自分ではワーカホリックではないと思っています。病識がないといいましょうか?

12 ■分かりました。

プレコックス感が今日の記事で分かりました。70歳の統合失調症の男性患者さんの面倒を見ていて、距離感の難しさを感じていました。これが中井先生の言う距離感かなーーなんて思いながら,でも何なんだろうか~変な感じ。。。薬物・覚醒剤などでやられた脳の人は、統合失調症同のような病態になりますガ、統合失調症の人のような違和感はないんですよ。きっとそれですよね。と勝手に解釈。そうすると私が見ている17歳の僕はやっぱり統合失調症ではないです。

13 ■分かりました

わかりましたといわれても、僕は答えようがないです。(笑)
若い人は、明らかに統合失調症であるならともかく、微妙なケースでは、統合失調症と決めつけない方が良いです。なぜなら、周囲の人がそう考えていた方が予後が良いように思うからです。
以下の項を参照して下さい。
http://ameblo.jp/kyupin/entry-10019726394.html

14 ■無題

 私は仕事でカウンセリングをすることがあります。
あまり詳しくは書けませんが,医療関係ではなく法律関係の相談ごとと一応なっています。
 しかし,相談者はほとんど一人の固定客に限られていまして,その方は自称統合失調症です。
障害者施設にも不定期に通っていらっしゃるようです。
 年齢はは44歳,新聞配達と障害者年金で暮らしています。
 一時は毎日のよう来庁されていた時期もあり,相談の内容は,福祉行政への不満??が主であり,それも延々とまるで政治家のような口調でしゃべりつづけるのです。
 私が主に担当で,たまに嘱託でこられる方が対応されます。
 私は,毎回同じようなことを延々と聞かされるのは承知していますが,初めて相談を受けられた方は,びっくりして「話しが止まりません。どうしたら良いでしょうか」と泣きついてこられます。
 長くなりましたが,要するにこの相談者は若いときに統合失調症の診断を受け,その治療を受けてこられたのは事実のようです。それは,目が話しをされるときにいつも右上を向いていることから,たぶん抗精神薬を長年服用されていたのだなあという感じを受けるのと,話の内容は,細切れというか部分部分は了解可能ですが,全体的には主題の一貫性がないというか,結局何がいいたいのか分からないのです。後段については相談を受けた者がみな異口同音に同様の感想を述べます。
 私が彼から受ける印象は,躁的な気分に支配され終始不満に生きている人というものです。
統合失調症というのはやっぱりそれはそれとして認めざるを得ないのでしょうか。この種の鑑別は私の仕事ではありませんし,素人が勝手なことで治療に口出しもできないことは承知していますが,なんべんも来られると,次第に情が移ってきまして,この人,治療次第ではもう少し良くなるんじゃないかな,とか思ってしまうのです。
 ちなみにリーマスかデパケンは服用されていないとのことです。20代から今に至るまで,主に筋注と言われることからしてハロマンス等の抗精神薬の治療を受けて来られたようです。眼球が上を向くなどの副作用のため,副作用止めも併用されてきたようです。
 上記のような方は見る人が見ればプレコックス感を感じることができるのでしょうか?

15 ■>>肥

こういう人はそれなりにしかならないケースもありますが、44歳なら工夫次第でかなり改善する可能性があります。44歳は決して手遅れではない年齢です。ただ、この人のように旧来の治療を長く続けてきた人を非定型に変更するのはそれなりにリスクがあります。うまくいかず全般が崩れることもあるからです。僕は定型を非定型に変更するリスクを軽視してはならないという認識があります。

>>上記のような方は見る人が見ればプレコックス感を感じることができるのでしょうか?

内容からすれば、そういうものもあると思いますね。

16 ■無題

ありがとうございます。
僕は話しを聞いてやることしかできませんが,それでも最初のころに比べて笑顔が多くなってきたような気がします。

17 ■カタブレスは?

kyupin先生
親切な方のアドバイスで、やっと又見たい所にたどり着きました。  早速ですが、30の息子は強迫思考が強いアスペで昔は他害行為もあったので薬が増えて、ルボックス200.バレリン400.
ツルハラ50.トリフェジノン2.を服用していますが、177センチですが100キロ近くなり血圧も140以上あり、時々自律神経がおかしくなったと言って頭をもんだり背中をさっすったりしてあげないといけません。上記に、強迫の強いアスペの人に
カタブレスとセロクエル・リボトリロールを処方された記事がありますが、カタブレスは降圧剤だと思いますが強迫にも効果があるのでしょうか?
よろしくお願いします。

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