2008-09-01 02:42:09

頭部外傷から統合失調症になるのか?

テーマ:精神疾患
頭部外傷が原因で統合失調症になるかといえば、

答えは「ならない」。(大本営発表)
しかし、それと独立事象で統合失調症になることはある。

この大本営というのは「100人に聞きました」の統計みたいなもので、いわゆる通説である。ほとんどの精神科医が「ならない」と答えるであろう。

統合失調症の原因として周産期の脳へのダメージが悪いなどと言っているのに、出生後の頭部外傷ではそういう風にならないと言うのは、ちょっと矛盾すると思わない? ずっと幼少時の脳のダメージはどう扱うんだ?とか。

どの程度以上のダメージが影響を及ぼすと決めにくいし、この調査自体がうまくできないのだと思う。また、統合失調症による精神症状なのか、あるいは頭部外傷後遺症による精神病状態なのか診断できないなら、調査の信憑性を著しく欠くものになる。ちょっと大本営の擁護をすれば、出産前後は脳の成熟度が十分でないので、この時期に脳障害を受けるのと、学童期くらいに受けるのとでは全く意味が違うと言えば言える。(参考

かつて頭部外傷を起こした人が統合失調症になった場合、普通の統合失調症の人と症状が少し異なる。一般には緊張型~非定型病像の人が多く、激しい興奮、暴力行為などが出現しやすい。こういうことを調査した論文があるかもしれないが、僕は読んだことがないので今日の記事は経験的なことから書いている

殺人事件を起こすような統合失調症の人は、たぶん破瓜型の人は少なく、緊張型が多く、妄想型がこれに準じるように思う。破瓜型の人はそこまでの爆発的なエネルギーが集約できないような気がする。

しかし、病型としての破瓜型は確率的には圧倒的に高いので、統計的には「破瓜型が多い」になってしまうのかもしれない。

一般に統合失調症は長患いになると、次第に崩れて破瓜型っぽくなる。だからうちの外来に通っているかつて殺人事件を起こしたおじいちゃんは今はまるで破瓜型に見えるが、事件当時は緊張型の色彩が強かったように思う。というか、間違いなく緊張型であったであろう。

また、僕は約2名殺した人もある時期長く診ていたことがあるが、この人もかつては典型的な緊張型であった。この人はいつまで経っても症状が生々しく、拒絶的で薬物変更にも頑として応じず、一生、退院できそうになかった。一般に、緊張型統合失調症は良い時は良いが、悪い時は断然悪いのである。緊張型だからこそ、大きな事件を起こした後、短い期間で治療が奏功し退院する展開になるのである。

かつて医療観察法が施行される前、緊張病症候群から殺人事件を起こし措置入院になるが、たった1~2年くらいで退院するということが見られた。このような人は激しい時は激しいけど、良くなると人が変わったように良くなるからである。破瓜型に比べ欠陥症状も目立たず社会適応もそこまで悪くない。

被害者から見ると、まるで八百長である。精神病がよく理解されていないと、不信感を持たせるところは確かにある。世間を震撼させるような事件を起こした人が、なぜそんなに早く退院させるんだという話にはなる。確かにかつては措置入院の決定は2人の精神科医に任されていたし、退院もその時の主治医が決めることができた。その主治医は例えば4年目だって良いのである。全く規定はなかったから。また退院後の通院指導や服薬も特に監視の義務はなかった。まさにアフターケアはないも同然だったのである。今の医療観察法は、その批判を受けた法律になっている。

結局、例えば緊張型の患者で院内の規則的な服薬により、たいして欠陥症状も残さず良くなる人がいたとしても、退院後きちんと服薬するかどうかはまた別な話なのである。いくら薬に反応性が良く、寛解しやすい病型であったとしても、服薬しないなら再発の確率は高まる。統合失調症の人で薬を信用せず、すぐに飲まなくなる人は、どんな病型であれ予後不良だ。

稀に緊張型の人で薬を完全に止めてしまっても、ほとんど悪化しない人もみられる。これは本来、挿間性の精神病だったか、ストレスの受止め方が病前より変化し再発しにくくなったためであろう。これはある意味、欠陥症状の残遺といえるが、元々神経質だったり、いつもくよくよ考えこむようなタイプの人がいくらか大雑把になり、それが幸いして社会適応が改善することはある。このような人の疾病の理解はさまざまで、誤診されて薬を飲まされていたと思う人から、薬のために病気が治ったと考える人もいる。このあたりは個人差があるが、統合失調症の人の場合、やはり考え方に偏りがあるなど柔軟性を欠き、改善してからも「良くなっているが、相当に変わっている人」と周囲から思われていることも稀ではない。これは広い意味の陰性症状に含めるのであろうが、実際、陽性症状的なケースもあるのではないかと思う。

結果的にほとんど必要がなくなった場合、最初からそれが必要ではなったと思う人では、当時の副作用の酷さから、無駄な薬物治療をされたと考え、かつての主治医を本当に憎む場合もあるだろう。これは結果論であり真実はわからないものであるが、いかなる診断であれ、かつての薬物治療が明らかに間違っていたという証拠はないと思う。なぜなら、精神科の治療は対症療法だからである。精神医療に大きな疑問や不信感を感じる人々は、結果的にこのような病状経過を辿った人である。

その意味では、精神科の薬物治療は、誤診とか誤処方というのとはちょっと違うのではないかと思うのである。特に薬物は臨床症状に対して相対的に処方されるものだし、精神疾患と薬には決定的な適応のようなものがなく、境界など存在しないからだ。

僕は一般の精神科医より、平均すれば少ない量で治療しているように思っているが、急性期に必要とあれば結構な量の抗精神病薬を処方することもある。近く、そのような治療経過だった人を紹介したい。

例えば、ある患者さんが真の診断が統合失調症ではなく、広汎性発達障害であったとしよう。その人に抗精神病薬を使ったことが間違いと言う判断にはたぶん裁判でもならないと思われる。その薬物療法は医師が必要と判断して、そうされた可能性が高いからだ。かなりの副作用が出ているのにその処方が続けられたとしたら、興奮性や暴力性などでそうせざるを得ないケースもあるが、やや要領が悪かったとは言わざるをえない。それでもなお、それは医師の裁量の範囲である。

実際、仮に裁判で、ある発達障害にリスパダールを8㎎処方されていて、副作用がでまくっていたのに継続されたなどと訴えても、裁判的には問題にならないと思われる。なぜなら、リスパダール8㎎はコントミン換算で800㎎にしかならないからである。病状が悪かったので、そういう処方になったと言われたら終わりだ。これも医師の裁量だからである。今回、福島県立大野病院事件の裁判では、一般的に行われている医療と同じようなものであれば、それを医療過誤だとはいえないという判決が出ているのを見てもわかるであろう。

このような考察から、精神医療では誤診、誤処方を証明することは非常に難しい。まあコントミン換算で3000mg処方していたとしたら、話は別で誤りは他の文脈になる。

明らかな誤診・誤処方とは、ヘルペス脳炎なのに、それが診断できず他の治療を続け、死亡するか明らかに重い後遺症になったケースや、テグレトールなどで重篤な副作用が出ているのにそれを軽視し死亡したり失明した場合などである。

向精神薬は副作用がなにがしか出るのが普通であり、それこそ薬理作用が出ていることを証明している。

参考
エストロゲンと精神疾患
ウェールズタイプの統合失調症の寛解
①頭部外傷から統合失調症になるのか?
②統合失調症の寛解という意味
③社会的な目線での統合失調症とアスペルガーの共通点
④精神疾患と暴力、触法性
⑤2ちゃんねるとアスペルガー
⑥発達障害は統合失調症の免罪符ではない
⑦赤


(続く)

コメント

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1 ■統合失調症

かつは遺伝でした。ボクシングは関係ないといえることですね。
頭蓋骨陥没も。
ちっともよくならない体はどうしたら楽になれるのですか?

2 ■具体的には

考え方に偏りがある 相当かわってる
と見られるて 具体的にどんな感じなのでしょうか。

3 ■夫の場合

 夫は以前統合失調症と診断されましたが、この間の入院では、担当医から「病気によるものか、性格的なものか、分からない状態」と言われました。私の躁鬱の鬱期には、「こんな自分は生きていてもしょうがない、死ななきゃ・・・」と思うのに対し、夫は「殺される」と思うそうです。病気の時は私が「浮気をしているから離婚する」だの、被害妄想的なことを言います。

4 ■かいろさんへ

kyu先生からは精神科医としての回答コメントがあるかもしれませんが、
私の投稿ネームmarcianaはアスペルガー症候群と言った変わり者の私の事を友人が感じたままに付けたニックネームである。
marcianaはスペイン語で火星人と言った意味。
変わっている人を一般の人達から見ると得体の知れない宇宙人の様に見えると言った事で、
変わっている人達(アスペルガー症候群)のを分かり易く例える代名詞として『宇宙人』と言った言葉が使われている。
アスペルガー症候群の特性として、ある部分では学者的な論述をすると言った事で、
賢い宇宙人と言った事を意味して、タコ型宇宙人でお馴染みの火星人と言ったニックネームmarcianaを友達が付けたのでした。(^w^)

5 ■はるか昔

私は頭部に怪我(切った)をしました。検査結果は異常無しでした。
私は統合失調症ではないですが、今の症状のなかに(例えば頭痛とか)その時の後遺症があったりするのだろうか?と、ふと思ってしまいました。
改めて再検査した方がいいのでしょうか?

6 ■別の文脈

患者同士で話すと、どうみても支離滅裂という処方が時々あるんですけどね…。本人も家族も、妥当性の判断やまして裁判なんかする能力ないし。

>まあコントミン換算で3000mg処方していたとしたら、話は別で誤りは他の文脈になる。

こんどそのあたりをくわしく。期待します。

7 ■リスク

わたしは低出生体重児として生まれました。過去ログを見ましたが、生まれたときから病気になるリスクを背負ってきたのかと思うと、これまでの人生は何だったんだと思いました。

8 ■>>かっちゃん

貴方は多少は精神症状にボクサーだったことが影響しているかもしれません。これはいつか機会があったら「ボクサー」というエントリをアップしたいと思っています。

9 ■>>かいろ

平均的ではないということです。

妙にこだわりが強いとか、例えば魔術的思考なども含みます。

10 ■裁判する気はなくても

いわゆる自死遺族の中には、自殺した家族は鬱病だといって精神科で治療をうけていた、治療すれば治る病気のはずなのに何故自殺したんだ、みたいな感じで精神科に不信感を持っている方もいるようです。

だけど、例えばその自殺した人が自分がかかっていた医者を信頼していたならば、家族がはたから見ていてその治療方針を不信に思っていたとしてもどうしようもありません。

本人よりも家族の方が不信感を抱きやすいと思いますよ。

私も5年前に姉を自殺で亡くしたので、なんとなくそういう自死遺族の気持ちがわかるのです。私は姉より早く精神科にかかっていただけに、電話で姉の話を聞くたびに、そんな治療で大丈夫なのか、と不安に思っていました。全然良くな
る気配がなかったし。

今も私の心に残る大きな傷ですね。
だからって私の場合は自分の主治医に対して特別不信感は持っていないですが。
持っていたらとっくに通院も服薬もやめていると思いますし。

11 ■>>ヨーコ

貴方のご主人はお酒を随分飲んでいたことはないですか?あるいは頭の怪我など。

12 ■>>marciana

それは面白いネーミングですね。何か意味があるとは思っていましたが・・

13 ■>>ころ助

その程度の頭部打撲ではほとんど臨床的意味はないと思います。

14 ■>>Lith

僕は現在ではあんがい奇妙な処方は少ないという見解です。これは過去ログで出てきますので参照してください。

もし、3000㎎が必要な局面があったとしても、ずっと継続的には必要ではないだろうという意味が1つあります。長い期間治療していると次第に薬が減らせるケースが多いからです。

15 ■>>じゅんこ

リスクがあったとしても影響がない人もいます。

まあ、疾患が発生したら、その後の良い治療選択をする方が過去を悔やむよりはずっと意味がありますし、発展的だと思います。

16 ■確かに

 kyu先生のご指摘どおり、入院前は失業中ということもあり、毎日のように午前中からお酒を飲んでいました。
 入院前の訳の分からないことを言ったりしたのが、病気によるものなのか、飲酒によるものなのかはっきりしない点もあるのですが、おとなしく入院したので、自分でもおかしいと感じていたのだと思います。
 今は就職も決まり、なんとか無事に通っています。毎日祈るような気持ちです。

17 ■気になることが…

文中の言葉で気になった部分があるので質問させて頂きます。
統計的に、統合失調症の病型で一番多いのは破瓜型なのでしょうか?
私のイメージでは妄想型が多くて、次いで破瓜型かなという感じなのですが。

18 ■精神医学の進歩とそれに携わる方々に敬意を表して

私は生まれつき脳梁脂肪腫があり、その部分(運動・感覚野だそうです)の脳梁が欠損しています。
また、その他に広汎性発達障害と診断されています。診断されたのは今年ですが、児童期から精神科のお世話になっております。

さて、脳神経外科・神経内科・精神科いずれの先生も、昨年まではずっと「脳梁脂肪腫と発達障害は無関係」と仰っていましたが、今年になって「やはり関連性があるという研究報告がありました」と、精神科の先生から伺いました。医学の進歩の現場に立ち会えたような感覚で、心強く思えました。

エントリの、頭部外傷から統合失調症になるのかどうかも、いずれは明らかになると信じています。そしてそれが、一人でも多くの患者さんを救いますように…(‐人‐)

19 ■アルコールや薬物依存症の場合

それらの後遺症によって、統合失調症状態に陥る人も少なくないですね。
これらの場合は、脳機能の損壊が大きく影響しているように思うのですが。

20 ■いまいち納得行かない・・・。

(みみずきん)さんには悪いけど、何でもかんでも発達障害にくくり付けて一つにして考えるやり方には納得出来ない。
これは、心療内科と言った新しい部門がなかった時に『自律神経失調症』と内科医が言って片付けていたのと同じ様に思う。
発達障害と言った定義は広い意味の言葉を差すには差すと思うが、
脳の病気や外傷など明らかに脳の病変が分かっていてそれで発生したと考えられる発達障害と脳の中枢系に問題があると言ったのは分かっているが、発生原因は特定されていない発達障害とは分けて考えて頂く方が、
原因が特定されていない発達障害にとって新たな発見となる研究が出来ると思います。
脳の外傷による統合失調症と言ったのがあるとkyu先生のご意見の様ですが、脳の外傷による脳機能の損傷と言った事で『高次脳機能障害』と言ったのがありますが、
この一種に統合失調症と言ったのがあった場合、
時と場合によっては脳神経外科の先生と共同で治療に当たられると思うのですが、如何ものなのでしょうか?
そうすると示している状態は統合失調症ではあるが、
原因はあまりはっきりと分かっていない統合失調症と脳の外傷による統合失調とは分けて考える方が良いやり方だと思ってしまうのですが、如何なものなのでしょうか?
精神科領域には診断基準はあって病名は付けられるのだが、厳密に言えば曖昧なものが沢山あり、
これがある意味では患者を苦しめていたり、治療方法の発展が望めなかっりと実に複雑な感じがします。(-_-;)

21 ■ピンとこない

多様な価値観と格差社会では 平均の基準がピンと来ませんし
平均が無くなって来てるのでは?

こだわりがある 魔女的て
物を作る人は こだわりがあるし 魔術的な部分もあるっと思います
こだわり職人
魔術的なスペシャリストて 言いません?

22 ■訂正

↓魔女ではなく 魔術的

23 ■無題

余計なことかもしれませんが、
「魔術的」じゃなくて、「魔術的思考」(精神医学用語)のことだと思いますよ。

24 ■marcianaさま:

>発達障害と言った定義は広い意味の言葉を差すには差すと思うが、
>脳の病気や外傷など明らかに脳の病変が分かっていてそれで発生したと考えられる発達障害と脳の中枢系に問題があると言ったのは分かっているが、発生原因は特定されていない発達障害とは分けて考えて頂く方が、
>原因が特定されていない発達障害にとって新たな発見となる研究が出来ると思います。
ええ。仰る通りです。
ですから、「脂肪腫や脳梁欠損は脳の機能には影響しない。無関係である」と、お医者様方に長年言われ続けたのが、最近では「関連性が見い出せるという研究報告もある」と聞いて嬉しかったのですよ。

25 ■なるほど。

精神医学用語に 魔術的思考 妙にこだわりが強い て あるんですね
教えてくださり ありがとう。

仕事や社会的に いい方に表れれば いい仕事をしそうに思います

26 ■みみずきん様

有り難うございます。
原因解明が成されて来まして良かったですね。(^w^)
その他脳の中枢系に問題はあるが・・・と言ったものについてもある研究者が、サプリメント治験の所まで研究を進めていますが、今は時期早々と言った事でコメントを差し控えます。

27 ■>>marciana

頭部外傷の急性期は脳外科で治療を行いますが、慢性期には脳外科医の手を離れるのが普通です。

普通は、慢性期の精神病は精神科で治療をすることが多いと思われます。

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