「悪法」推進議員は誰だ!(3) 八木秀次(高崎経済大学教授)、花岡信昭(ジャーナリスト)、百地 章(日本大学教授)
明るいリベラルと「監視世界」
八木 その河野太郎氏ですが、彼は消費者庁の設置を提言した自民党の「消費者問題調査会」の会長代理も務めていますね。
花岡 消費者庁の設置は福田政権の目玉政策とされましたが、いったいどのあたりが目玉だったのか理解に苦しみます。結局、食品のさまざまな問題をいいことに、官僚が既得権益を増やしていくだけに終わりかねない政策です。
何か問題が起きると、それに乗じて統制色を強くしようという傾向が最近強くなっているように感じられてなりません。「官製不況」などという声も上がりましたが、それもわからぬでもない。
八木 「消費者問題調査会」の会長を務めた野田聖子氏がWebサイトに経緯を書いていますが、事務局長が後藤田正純氏で、事務局次長が山内康一氏です。本来は後藤田氏と森雅子氏が消費者問題に関わる議員勉強会を開いたのが、プロジェクトチームの先駆けだったと記されていますね。後藤田氏は、国家統制的な動きがあるときには最近よく聞く名前になっています(笑)。
花岡 自民党のなかにはまず野中広務氏から、古賀誠氏、二階俊博氏という、古典的ラインといっていいつながりがあります。自民党のなかにある、差別される人たちや弱い人たちに光を当てることが政治の要諦だと考える流れですね。考え方はよくわかりますが、時にそこに長年のしがらみができることもある。
それに対して、先ほどの河野氏・後藤田氏などの新しいラインが誕生しつつあると考えてもいいのかもしれません。
八木 その新しいラインは、日本、国家、歴史、などというものへの思い入れが希薄なように感じられますね。また、社会のあり方や人間のあり方を上から「設計」して理想の社会をつくろうという「設計主義」的な考え方が見え隠れします。彼らの頭のなかにあるもので、国のあり方を変えようという発想だと思うんです。
自分たちは何か新しい、いいことをやっていると思っているのかもしれませんが、大多数の国民からは遊離している。民主党の若い世代にも、そういう感覚の人は多いと思いますが。
百地 民主党の若手にも国益だとか国家ということを主張する人は結構いますが、その「国家」の中身がない人が多い。つまり彼らの思い描く日本には歴史も伝統もなく、確たる歴史観がないわけです。あの党は大部分がそういう人たちと、もともと社民寄りでそもそも国家意識がない人たちの寄り集まりです。
八木 本来、自民党の結党精神は自主憲法制定にあった。だから党内でも、ある世代まではいまの憲法に対する違和感を大前提としてもっていたんだと思います。しかし河野太郎氏や後藤田正純氏の世代になると、完全に憲法教の信者になっている。先ほどの佐藤幸治氏の考え方に通じるところがあって、日本国憲法が前提とした価値観でもって俺たちがこの国を変えてやる、という発想があるんじゃないかと思います。
花岡 そのせいかどうか、いまの自民党の河野氏や後藤田氏の世代は、何か「明るいリベラル」のようになってしまっていますね(笑)。あっけらかんとしてね。国家観を勉強する機会もなしに議員になったということもあるでしょうし、だいたい二世・三世という人たちは選挙が楽ですから、かっこいいことをいっていればいいということもある。はっきりいえば、『朝日新聞』に出ているようなことを主張しておけば、世間の人は納得するという感覚でずっと来てしまう。自民党とは「保守の真髄は何か」とか「国家とは何か」ということをとことん追い求めた政党だと僕は思いたいのですが、いま自民党を支えている若い人たちは、保守というものを軽く見ている傾向があるような気がしますね。
八木 とくに二世・三世議員の場合には思想チェックがないですからね(笑)。まだ公募で候補者を選ぶ場合は、執行部がしっかりしていれば、その際にチェックできるわけです。だから、安倍晋三氏が候補者選定に力を振るっていたときは、稲田朋美氏のような方が出てきたりするわけです。ただ執行部にそういう見識がなくなって、当選しやすそうな人を次々に候補者に担ぐだけになれば、保守を軽く見る傾向はさらに強まりますね。
左翼的な人びとが「この人たちはかわいそう」などと大々的にキャンペーンを張っているときに、「国家主権から考えればそれは断じて間違いだ」などと主張すると、あっという間にマスコミから叩かれて、大多数の国民を敵に回す可能性すらある。
そうなると、保守的な見地からの反論・異議申し立ては、よほど信念がないと難しいと思います。
百地 人権擁護法案のときも、「人権」といわれただけで、政治家としては反対しにくいというんです。
人権擁護法案とは、新たに人権委員会という独立行政委員会を設け、つねに人権侵害がないか目を光らせ、人権侵害の申し立てがあれば出頭要求や立ち入り検査をして国民生活の隅々にまで介入・干渉することを可能にする法案です。人権救済の対象としては、「思想・信条」「社会的身分」など「いっさいの差別」が含まれますから、やろうと思えば範囲は際限なく広げられ、権力乱用の危険も高い。
場合によっては、北朝鮮による拉致や中国政府による人権侵害を批判することも「民族差別」として追及されかねません。まさに思想言論の自由を弾圧することが可能な法案なのです。
2002年に提出された際には自民党の野中広務氏や古賀誠氏、二階俊博氏などが中心となり、2008年に提出しようとした際には、それに太田誠一氏や塩崎恭久氏などが加わっていました。太田氏の突出ぶりは異常でしたが、公明党は、これまた党を挙げて全力で推進していますね。
しかし、このような法案でも、うっかり反対したら「おまえは差別を支持するのか」と糾弾されかねない。やはり勇気が要りますよ、保守派というのは。
花岡 人権擁護法案は国民の大きな反対運動によって断念されましたが、まだ終わっていません。もし人権擁護法が成立したら、それこそジョージ・オーウェルの小説『1984年』に描かれたような監視世界になってしまう。人権を擁護するという名目で、人権を平気で奪う社会になりかねないわけです。
百地 答申が出ている以上、推進するべきだと、いまだに法務大臣が述べている。性懲りもなく何度も出てくるのは法務省の省益が懸かっているからです。人権擁護法案が通れば、それだけ予算が増えますから、法務省としては何としても権益を確保したいというわけです。
八木 その河野太郎氏ですが、彼は消費者庁の設置を提言した自民党の「消費者問題調査会」の会長代理も務めていますね。
花岡 消費者庁の設置は福田政権の目玉政策とされましたが、いったいどのあたりが目玉だったのか理解に苦しみます。結局、食品のさまざまな問題をいいことに、官僚が既得権益を増やしていくだけに終わりかねない政策です。
何か問題が起きると、それに乗じて統制色を強くしようという傾向が最近強くなっているように感じられてなりません。「官製不況」などという声も上がりましたが、それもわからぬでもない。
八木 「消費者問題調査会」の会長を務めた野田聖子氏がWebサイトに経緯を書いていますが、事務局長が後藤田正純氏で、事務局次長が山内康一氏です。本来は後藤田氏と森雅子氏が消費者問題に関わる議員勉強会を開いたのが、プロジェクトチームの先駆けだったと記されていますね。後藤田氏は、国家統制的な動きがあるときには最近よく聞く名前になっています(笑)。
花岡 自民党のなかにはまず野中広務氏から、古賀誠氏、二階俊博氏という、古典的ラインといっていいつながりがあります。自民党のなかにある、差別される人たちや弱い人たちに光を当てることが政治の要諦だと考える流れですね。考え方はよくわかりますが、時にそこに長年のしがらみができることもある。
それに対して、先ほどの河野氏・後藤田氏などの新しいラインが誕生しつつあると考えてもいいのかもしれません。
八木 その新しいラインは、日本、国家、歴史、などというものへの思い入れが希薄なように感じられますね。また、社会のあり方や人間のあり方を上から「設計」して理想の社会をつくろうという「設計主義」的な考え方が見え隠れします。彼らの頭のなかにあるもので、国のあり方を変えようという発想だと思うんです。
自分たちは何か新しい、いいことをやっていると思っているのかもしれませんが、大多数の国民からは遊離している。民主党の若い世代にも、そういう感覚の人は多いと思いますが。
百地 民主党の若手にも国益だとか国家ということを主張する人は結構いますが、その「国家」の中身がない人が多い。つまり彼らの思い描く日本には歴史も伝統もなく、確たる歴史観がないわけです。あの党は大部分がそういう人たちと、もともと社民寄りでそもそも国家意識がない人たちの寄り集まりです。
八木 本来、自民党の結党精神は自主憲法制定にあった。だから党内でも、ある世代まではいまの憲法に対する違和感を大前提としてもっていたんだと思います。しかし河野太郎氏や後藤田正純氏の世代になると、完全に憲法教の信者になっている。先ほどの佐藤幸治氏の考え方に通じるところがあって、日本国憲法が前提とした価値観でもって俺たちがこの国を変えてやる、という発想があるんじゃないかと思います。
花岡 そのせいかどうか、いまの自民党の河野氏や後藤田氏の世代は、何か「明るいリベラル」のようになってしまっていますね(笑)。あっけらかんとしてね。国家観を勉強する機会もなしに議員になったということもあるでしょうし、だいたい二世・三世という人たちは選挙が楽ですから、かっこいいことをいっていればいいということもある。はっきりいえば、『朝日新聞』に出ているようなことを主張しておけば、世間の人は納得するという感覚でずっと来てしまう。自民党とは「保守の真髄は何か」とか「国家とは何か」ということをとことん追い求めた政党だと僕は思いたいのですが、いま自民党を支えている若い人たちは、保守というものを軽く見ている傾向があるような気がしますね。
八木 とくに二世・三世議員の場合には思想チェックがないですからね(笑)。まだ公募で候補者を選ぶ場合は、執行部がしっかりしていれば、その際にチェックできるわけです。だから、安倍晋三氏が候補者選定に力を振るっていたときは、稲田朋美氏のような方が出てきたりするわけです。ただ執行部にそういう見識がなくなって、当選しやすそうな人を次々に候補者に担ぐだけになれば、保守を軽く見る傾向はさらに強まりますね。
左翼的な人びとが「この人たちはかわいそう」などと大々的にキャンペーンを張っているときに、「国家主権から考えればそれは断じて間違いだ」などと主張すると、あっという間にマスコミから叩かれて、大多数の国民を敵に回す可能性すらある。
そうなると、保守的な見地からの反論・異議申し立ては、よほど信念がないと難しいと思います。
百地 人権擁護法案のときも、「人権」といわれただけで、政治家としては反対しにくいというんです。
人権擁護法案とは、新たに人権委員会という独立行政委員会を設け、つねに人権侵害がないか目を光らせ、人権侵害の申し立てがあれば出頭要求や立ち入り検査をして国民生活の隅々にまで介入・干渉することを可能にする法案です。人権救済の対象としては、「思想・信条」「社会的身分」など「いっさいの差別」が含まれますから、やろうと思えば範囲は際限なく広げられ、権力乱用の危険も高い。
場合によっては、北朝鮮による拉致や中国政府による人権侵害を批判することも「民族差別」として追及されかねません。まさに思想言論の自由を弾圧することが可能な法案なのです。
2002年に提出された際には自民党の野中広務氏や古賀誠氏、二階俊博氏などが中心となり、2008年に提出しようとした際には、それに太田誠一氏や塩崎恭久氏などが加わっていました。太田氏の突出ぶりは異常でしたが、公明党は、これまた党を挙げて全力で推進していますね。
しかし、このような法案でも、うっかり反対したら「おまえは差別を支持するのか」と糾弾されかねない。やはり勇気が要りますよ、保守派というのは。
花岡 人権擁護法案は国民の大きな反対運動によって断念されましたが、まだ終わっていません。もし人権擁護法が成立したら、それこそジョージ・オーウェルの小説『1984年』に描かれたような監視世界になってしまう。人権を擁護するという名目で、人権を平気で奪う社会になりかねないわけです。
百地 答申が出ている以上、推進するべきだと、いまだに法務大臣が述べている。性懲りもなく何度も出てくるのは法務省の省益が懸かっているからです。人権擁護法案が通れば、それだけ予算が増えますから、法務省としては何としても権益を確保したいというわけです。
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