市民感情を物差しにすれば、昨年1月の一審判決より、きのう言い渡された二審判決の方が、あの悲惨な事故を引き起こした代償としては妥当と受け止める人が多いのではないだろうか。
2006年8月25日の夜、カブトムシ捕りをして帰宅途中の5人家族の車が福岡市の博多湾に架かる橋の上で飲酒運転の車に追突され、その衝撃で橋の欄干を破って海に転落、3人の幼児が水死した事故の刑事裁判である。
元福岡市職員の被告は、飲酒運転の厳罰化を求める世論の中で01年の暮れに刑法に新設された危険運転致死傷罪と、道路交通法違反(ひき逃げ)の併合罪で起訴され、検察側から懲役25年を求刑されていた。
一審福岡地裁判決は「脇見が事故原因」という弁護側の主張を認めて危険運転致死傷罪を適用せず、業務上過失致死傷罪と道交法違反(酒気帯び運転、ひき逃げ)の罪で懲役7年6月とした。
今度の福岡高裁判決は、脇見が原因と認めた一審判決の事実認定を「誤り」として破棄し、検察側主張を認めて危険運転致死傷罪を柱とする量刑判断を行い、懲役20年とした。
刑法二〇八条に規定された危険運転致死傷罪は、アルコールまたは薬物の影響のために「正常な運転が困難な状態」で車を運転した場合に適用される。
ただ、「正常な運転」とは何か、どのような基準で「正常な運転が困難な状態かどうか」を見分けるのか-など、適用の是非が判断しにくい罪であることは否めず、ほかの裁判でも下級審と上級審でしばしば判断が分かれている。
重い刑罰を定めた罪だけに、裁判でしっかりした法理論に基づく慎重な判断が求められるのは当然だ。
一方で、多くの人を納得させ得る判決でなくてはなるまい。
この意味で、「3人の尊い生命を奪っており結果は重大。証拠隠滅まで画策しており、悪質だ」として一審より重い罰を科した今回の判決は、市民感覚と落差のない判断と言えるだろう。
この悲しい事故をきっかけに飲酒運転を憎む世論がいっそう高まり、道交法改正による罰則の強化や飲酒運転への同乗罪の新設などに結び付いた。
危険運転致死傷罪の新設を含む近年の一連の厳罰化に伴い、飲酒運転による死亡事故の発生は激減した。一方、厳罰化の副作用も現れた。厳罰を恐れ、現場から走り去るひき逃げの増加である。「逃げ得」は看過できず、ひき逃げに対する罰が厳しく改められた。
飲酒運転を許してはならないし、重大な結果を引き起こせば、誰もが危険運転致死傷罪など厳罰に問われる。このような社会で暮らしていることを、私たちは常に自覚しておかなければならない。被告に言い渡された重い判決を、決して人ごととは思うまい。
=2009/05/16付 西日本新聞朝刊=