小沢一郎代表の辞任表明を受けて行われた民主党代表選は、鳩山由紀夫幹事長が岡田克也副代表との一騎打ちを制し、新代表に選出された。鳩山氏は、次期衆院選での“選挙の顔”として、党勢の立て直しに早急に取り組むことになろう。
代表選は、両院議員総会で行われ、衆参国会議員二百二十人による投票の結果、鳩山氏が百二十四票、岡田氏が九十五票を獲得した(無効一票)。大方の予想通り、鳩山氏が過半数を得たが、岡田氏とは二十九票差にすぎなかった。自前の組織を持たない岡田氏は善戦したが、剛腕と称された小沢代表の下で調整役として党内の融和に努めてきた鳩山氏の手腕へ、党の信頼回復が託されたといえよう。
当選後の決意表明で、鳩山氏は「戦いの相手は自公連立政権。全員野球で日本の大掃除をやろうではないか」と党内の一致結束を訴えた。
「小沢院政」危惧
鳩山氏は勝利したが、永田町を離れると事情は異なっていた。小沢氏辞任表明直後に共同通信社が実施した世論調査では、次期代表にふさわしいのは岡田氏が23・7%でトップ、鳩山氏は16・9%で二位だった。党員・サポーターを対象に岡山、長野などの県連が行った事実上の予備選である電話調査でも岡田氏がリードした。
今回の代表選の結果とのギャップは明らかだ。岡田氏のまじめでクリーンなイメージ、若さが評価されたともいえようが、こればかりとは思えない。鳩山氏の背後に小沢氏の存在を感じた人が多かったからではないか。小沢氏の進退に関連して、鳩山氏は幹事長として「一蓮托生(いちれんたくしょう)」と述べていた。
その鳩山氏が、小沢氏の辞任を受けて代表選に出馬したことへの違和感はどうしても残る。しかも、代表選の結果に影響を及ぼす日程の決定に小沢氏が強くかかわり、党内最大の小沢氏の支持グループが鳩山氏を推したのだから「小沢院政」への懸念は募る。
鳩山氏は小沢氏の処遇について、新執行部の一員として迎える考えを記者会見で述べている。鳩山カラーがどこまで出せるか、危惧(きぐ)せざるを得ない。
西松問題総括を
鳩山民主党にとって、大きな試金石となるのが、西松建設の巨額献金事件である。小沢氏辞任のきっかけとなった、この問題について民主党は党としてのきちんとした総括をしていない。
小沢氏が辞任したのは、事件やその後の対応に国民の理解が得られず、党内からも批判の声が上がってきたからだ。小沢氏は「政治資金の問題で一点のやましいところはない」と繰り返し、十分な説明をしてこなかった。しかし、最大野党の党首が一企業から巨額の献金を受け、その企業が検察から摘発されたことに、国民の失望は大きいと言わざるをえない。
西松建設が公表した事件の内部調査報告書で、献金のために利用した二つの政治団体がダミーだったと認めたことも小沢氏にとって不利になろう。献金の隠れみのにするためにダミーの政治団体をつくり、西松が資金として約十一億五千万円を負担していたという。
代表選でけじめがついたわけでは決してなく、献金問題をうやむやにしてはならない。党として説明責任を果たしてこそ、新しい民主党のスタートを切ることができ、有権者の信頼回復につながるだろう。
深まらぬ政策論議
政権をかけた次期衆院選へ向け、党としての首相候補を選ぶ代表選でもあった。各候補は政権獲得へ向けた構想を示す格好の場だったが、短期決戦で政策論争は深まらず、むしろ党内の亀裂を恐れるあまり、議論を避けたようにも思えた。
日本経済の再生や少子高齢化時代の労働・雇用の在り方、医療、保険といった社会保障制度改革など国民生活に直結する課題が山積している。安全保障やグローバル社会における国際貢献など、日本の将来にかかわるテーマも選挙の争点になろう。
政権奪取に挑む鳩山民主党としては、党内論議を踏まえ基本政策を明確にすることが急がれる。与党との対立軸を示し、政権担当能力をアピールしていくことが必要だ。