最初の晩餐
 
 
 
 
 
阿頼耶さん
 
 
 
 
 
 
 

「はあ・・・」
 

 大きな溜め息をつく少女が1人、眠れない夜を過ごしている。

 原因は、彼女が想いを寄せる少年にあった。

 すでにお互いの想いは伝えあった。

 16歳の誕生日には、深くて熱い大人のキス。

 そこから先が・・・。
 

「・・・シンジ。やっぱり、アタシ、怖いよ・・・」
 

 惣流アスカ・ラングレー。16歳と4ヶ月の春。

 悩み多き思春期の乙女であった。
 
 
 

 少年は、あたたかく優しい眼差しで少女を見つめてくれる。

 その中に、いつの頃からだろうか、男の欲望を感じ取るようになった。

 その熱を帯びた視線は、アスカの心を熱くするが、いい知れない不安をも呼び起こす。

 女は、本能的に知っているのだ。それが痛みを伴うということを・・・。

 シンジが、ちょっとでも次の段階にいこうとする素振りを見せると、アスカの身体は反射的に強張ってしまう。

 日々成熟へと近付いていく肉体。すでに身体の方は着々と準備を整えている。

 しかし、心の準備は遅々として進まないのだ。

 すでに体格的には歴然と差ができている。

 男として成長しているシンジと、女として成長しているアスカ。

 恐らく、シンジに無理矢理求められたら、アスカは抵抗できないだろう。

 シンジがその欲望を必死で押さえてくれているのも気付いている。

 シンジが自分を選んでくれたことは嬉しい。自分もすでにシンジを選んでしまっているから。

 お互いしか入り込めないような、そんな関係になれるかもしれない・・・。

 しかし、雰囲気に流されてなんとなく、というのはいやだった。

 何の準備もせずに、不幸な結果は招きたくない。

 愛する人と初めて愛を交わす時を、きちんと準備をして、最高の状態で迎えたいとアスカは思う。

 問題は、アスカの本能的な恐怖心だけなのだ。

 どうしたら克服できるんだろう・・・。

 思い余ったアスカは、ミサトに相談することにしたのだが・・・。
 
 
 

「・・・ねえ、ミサト。初めての時って、その、やっぱり痛いものなの?」
 

 そのあまりにも真剣な様子に、ミサトはおちゃらけるのも忘れ真面目に答えた。

「そうね・・・。個人差はあると思うけど」

「・・・ミサトはどうだった?」

「うーん・・・。どうだったかなあ? あまりにも昔のことだから・・・。って嘘よ。初めての時って忘れられないわよ。

 そりゃ辛かったけどね・・・。 でも、好きな人とひとつになる喜びに比べれば、耐えられないことではないわね」

「・・・好きな人とひとつになる喜びか・・・」

「それにね、アスカ。出産の痛みに比べればなんということはないらしいわよ。私もまだ経験ないからなんとも言えないけどね」

 そういうミサトはすでに妊娠2ヶ月。おなかが目立たないうちに挙式しようということで、6月に結婚式を予定している。

 しかも、式場の都合のため、よりによってシンジの誕生日の前日だったりする。

「ねえ、アスカ?そんなに考え込まないでいいのよ。シンジ君だってきっと優しくしてくれるわよ」

「ど、どうしてそこでシンジが出てくるのよ!」

「あら?私が結婚したら二人っきりになるのよ?二人とも引っ越すつもりがないみたいだから、てっきり一緒に住むんだと思ってたんだけど」

「あ・・・」
 

 そうだった。ミサトは結婚と同時にマンションを出て行く予定だ。

 その後どうするか聞かれていたが、シンジとその話をするのが怖くて避けていた。

 二人っきりで住むということは、当然あっちのことも考えなければならなかったから。

「ねえ、アスカ。シンちゃんの年頃で我慢するのってけっこうつらいものらしいわよ?

 なにせ同じ家の中に好きな女の子と住んでいるんだからね。
 
 まあ、アスカが怖がる気持ちもわかるけど、ちょっち勇気を出してみたら?」

「・・・うん。それはわかってるんだけど・・・。きっかけが・・・」

「(やれやれ・・・。シンちゃんもお預け食って可哀想にね・・・。)  まあ、ともかく、準備はしておくのにこしたことないわね。

 きちんと診察を受けて、薬出してもらっておきなさい。いい女医さん紹介してあげるから。

 いい女というものは、バースコントロールだって完璧にやるものよ」

 ミサトは、嬉しそうにおなかを撫でる。

 そう。欲しい時に生むのがいいのだ。子どもにとっても、親にとっても。

「うん。わかってる」
 
 
 
 

 特に進展もなく2ヶ月が過ぎた。

 暖かくミサトを送り出した日の深夜のこと。

 翌日にはシンジの17回目の誕生日を控えていた。

 アスカは誕生パーティーの料理の下ごしらえを終え、風呂に入っていた。

 シンジは、何をするというわけでなく、リビングで風呂が空くのを待っている。

 二人っきりの夜は別に初めてではない。

 ミサトが帰ってこれなかった夜などは何度もあったのだから。

 しかし、これからは、毎日がそうなのだ。

 シンジはすでに自分の我慢が限界に近付いていることを自覚していた。
 

「やっぱり、別々に暮らした方がいいよな・・・」

 このままでは、きっとアスカの心の準備ができる前に、アスカを傷つけてしまいそうだ。

 明日にでも、ミサトに引っ越すことを相談してみよう。とにかく物理的に距離を置くしかない。

 今晩一晩だと思えば、なんとか頑張れるだろう・・・。

 そんなことを考えているうちに、入浴を終えたアスカがバスルームから出てきた。

 ふわりと柑橘系の甘い香りが漂う。

 アスカは大きめのパジャマを来ていた。

 いつの頃からだろう。アスカが無防備に肌を見せることをしなくなったのは・・・。

 しかし、その見事な曲線は、いくら隠したところで容易に想像することができる。

 シンジはなるべく見ないように視線を反らせながら、切り出した。

「・・・アスカ、やっぱり僕引っ越すことにするよ・・・」

「えっ?どうして・・・?」

「やっぱり、高校生の男女がふたりっきりで住むのは、その、いろいろ問題があると思うし・・・」

「・・・・・」

「明日にでも引っ越し先見つけてもらって出て行くから・・・」

「あ、明日って・・・。明日はシンジのお誕生日よ・・・」

「うん・・・。パーティーは昼からだろ?だから、夕方には終わるだろうし・・・」

「・・・どうしても、一緒じゃだめ?」

「・・・ごめん。今は、だめなんだ・・・。でも、いつか、また一緒に暮らしたい・・・」

 プロポーズとも取れるシンジの言葉。それだけ大切に思ってくれている証拠だ。

「そう・・・」

「じゃあ、僕もお風呂入るから・・・。アスカ、先に寝ちゃってていいから」

 そう言ってシンジはバスルームへと消えていった。

 いつもは、シンジが風呂から上がってくるのをアスカが待っていて、二人はお休みのキスをしてから別々の部屋に入るのだ。

 しかし、今夜のシンジはそれすら避けようとした。

 少しでも触れてしまったら、それが導火線となって欲望が爆発してしまいそうだったから。

 シンジは本気で出ていこうとしている・・・。

 アスカは、シンジの決意を感じ取り、ついに自らも決心した・・・。
 
 
 
 

 シンジがバスルームから出てきた時、リビングにアスカの姿はなかった。

 アスカの部屋の灯りもどうやら消えているようである。

 シンジは少しホッとすると自分の部屋に入っていった。

 真っ暗な部屋の灯りを点けようとした時だった。

「待って!灯り点けないで・・・」

 シンジの部屋の中に、アスカがいた。

「ア、アスカ・・・! どうして・・・?」

「・・・一緒にいたいの。シンジと一緒に・・・」

「だ、だめだよ・・・!僕、もうこれ以上我慢できないから・・・!」

 シンジは必死に叫ぶ。

 アスカは、そっとシンジに近付いた。

 何も身に付けない、生まれたままの姿で・・・。

 薄暗い部屋の中でも白く際だつ肌。

 その優美な曲線は、強烈なインパクトをシンジの網膜に焼き付ける。

「ア、アスカ・・・」

 全身の血がざわめき、逆流する感覚。

「・・・しなくていいよ」

「えっ?」

「・・・もう、我慢、しなくていいよ」

 アスカはそっとシンジの手を取ると、自分の頬に触れさせた。

 シンジは両手でアスカの顔を挟み込み、真剣な眼差しでアスカを見つめた。

 潤んだようなアスカの蒼い瞳は、慈母のように優しく、シンジを包み込む。

「本当に?本当にいいの?本気でいいの?大丈夫なの?」

 くどいほど念を押すシンジに、アスカはクスっと笑いながら頷いた。

 次の瞬間、シンジはアスカを抱き締めていた。

 アスカの身体は一瞬だけ固くなったような気がしたが、すぐに柔らかくその身を委ねてきた。

「アスカ、アスカ、アスカ・・・!」

「ごめんね・・・。今まで待たせちゃって・・・」

「・・・ずっと、ずっと、こうしたかった・・・!」

 シンジは、そっとアスカを抱き上げると、ふわりとベッドへと運んだ。

 蜂蜜に朝焼けの光を映したような髪が、サラっと音をたてて広がる。

 そこで、はたとシンジは重大なことに気付いた。

「ア、アスカ・・・。僕、何も準備してない・・・」

 こんな大切なことを、この瞬間まで忘れていたなんて・・・。

「大丈夫よ。ちゃんとお薬飲んでるから。安心していいよ・・・」
 
 

「・・・ごめん。ありがとう・・・」
 
 
 
 

 その夜、2人は愛する人とひとつになる喜びを味わった。
 

「アタシね・・・。シンジしか知らない身体で死にたいな・・・」

 痛みを超えた喜びの中で、アスカが甘くささやくと、シンジも静かに答えた。

「・・・僕も、一生アスカしか知りたくないよ」

 いくつもの眠れぬ夜を超えて、やっと手にした、僕の人生で最高の贈り物だから・・・。
 
 

 二人は、初めて味わう喜びの中で、永遠の愛を誓った。
 
 
 
 
 

終わり
 
 
 
 
 
 
 
 

 あとがき

 ・・・またもしょーもないお話ですみません(笑)。

 なんか、おちゃらけで書き始めたのに、けっこうマジメなHの話になってしまいました。

 まあ、子どもが子ども生むことないように、きちんと教育して実践させましょう(爆)。

 はて、タイトルの意味がわからないとおっしゃる?

 つまりですね、朝食がA、昼食がB、夕食すなわち晩餐がCということで・・・(核爆)。

 ・・・夜食がDかな(ウソウソ)。

 キリストの最後の晩餐とは一切関係ないです。ひっかけただけ(笑)。

 意味不明なタイトルは毎度のことですので、お気になさらないよーに(笑)。
 


 阿頼耶さんからまたいいお話をもらいました。

 ‥‥うーむ、これって前回もらったお話の続編‥‥アスカサイドのお話にあたるのでしょうかな。

 やはり、晩餐は愛があるのが一番ですね。人として性には愛が伴うのが最高に美しいのでしょう<謎

 いいお話でしたよね‥‥読まれたみなさん、ぜひ感想メールを送ってください〜。

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