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朝鮮民主主義人民共和国の巻
 《旅後》北朝鮮を徹底解剖する!

注意!!  写真の上にマウスポインタをあてると、坂田光永の独断と偏見に満ちた解説が表示されます。解説が長いところは、表示が出たあと写真の上でポインタを動かしてみてください。ちょこちょこ動かしている間は、表示が消えないと思います。見たくない人は、絶対に写真にマウスを会わせないように気をつけてください!


平壌にやってきた修学旅行生とはいチーズ。「写真を撮ってもいい?」と聞くとワーッと集まってきた無邪気な感じの子たちです。撮ってから「ほらごらん」と液晶画面を見せると、「わーすげぇー」と爽快な笑顔。北朝鮮の子どもたちは文明の利器にあまり欲を示さない、と聞いてましたけど、私はまぎれもなく「これぞ子どもの好奇心」という気がしました。

 北朝鮮を分析するのは難しい。それをうまく伝えるのはもっと難しい。というのは、日本じゃ北朝鮮への偏見が強すぎて、批判をすると言葉が一人歩きしがちだし、誉めたら誉めたで逆にうさんくさいと思われますから。

 だからまず、北朝鮮への偏見を取り除くために、日本人がかかえる3重の誤解を解いてから、分析を始めます。ちょっと長いですが。

 ご存知テポドンはミサイルではありません。1998年8月31日発射した未確認飛行物体、あれは人工衛星です。アメリカの公式見解は「弾頭部分に人工衛星を搭載したものだったが、軌道乗せに失敗した」(1998年9月14日)というものです。ミサイルだったと思っているのは、日本人ぐらいのもんです(=誤解@)。

 「ミサイルだ!」「たいへんだ!」と騒いだ日本人も、人工衛星だったと聞いてホッとすることでしょう。しかし、人工衛星を打ち上げるというのは相当な技術が必要です。単にミサイルをぶっ放すよりも、物を軌道に乗せるほうがよっぽど難しいわけです。そしてそれは、核弾頭を軌道に乗せる、つまり大陸間弾道ミサイルの技術に応用できるものです。人工衛星打ち上げが仮に成功したとしたら、北朝鮮は一気に「大陸間弾道ミサイルを飛ばす技術を持った国」になります(=誤解A)。かたや日本がH2Aロケットを頑張っているのも同じ理由なんですが、案外北朝鮮のほうが進んでいるのかも??

 ただ、だからといって、人工衛星を飛ばす権利は北朝鮮にもあります。問題は、なぜ日本がテポドンをミサイルだと誤解したかという点です。理由はただ、在日米軍が日本政府に「ミサイルが飛んできた」と通報したからというのに尽きます。ごくごくはじめの段階ですけどね。これが火付け役になってテポドン騒動になったわけです。で、米軍はそれをあとで訂正しなかった。アメリカは本当は事前に人工衛星打ち上げを聞いていたという話もあります。でも、日本にはミサイルだと言った…。ここにテポドン騒動の本質があります。つまり、日本人がテポドンをミサイルだと思い込んだのはアメリカの戦略だった、ということです(=誤解B)。関係あるかどうか分かりませんが、その後の新ガイドラインなどの議論は、アメリカにとって実にメリットが大きいものでしたね。

 ピースボートに乗船した私の仲間たちは、初めて目にする北朝鮮の風景、特に「万景台学生少年宮殿」の子どもたちの演舞に驚きました。その後の展開も「子どもたちは勉強熱心だ」「みんな家族を大切にしていますね」などなど賞賛の言葉であふれかえりました。

 現地の人からは「一人はみんなのため、みんなは一人のため、というのが社会主義」という説明もありました。また環境問題については、「資本主義でないわが国に環境問題は起こり得ません」とも聞きました。「いじめなんてありません」「犯罪なんてありません」とも聞きました。それを聞いて「いい国じゃないの!」と思った人も多かったでしょう。「かたや資本主義で個人主義の日本はダメだ…」と思った人も多かったでしょう。

 しかし、それがすべてでもない、とだんだん分かってきました。これまで持っていた北朝鮮の悪いイメージの反動として、今度はプラス面ばかり見えてしまうことにも、気がついてきました。

 ○礼儀正しい
 ○演歌のような歌
 ○素朴な農村風景
 ○清貧な生活
 ○家族を大事にする
 ○通勤ラッシュのないのんびりした朝
 ○タテマエ重視の社会
 ○集団主義的
 ○とてつもない公共事業
 ○「偉大なる領袖」への尊敬
 ○メディアがほとんどない
 ○アメリカへの厳しい言葉

 こうやって、北朝鮮で得たイメージをざっと書き上げてみました。そして、私はそれを左の表で整理しなおしたんです。実は、上に並べたイメージは、上の3つが、その次の3つが、そしての順になっています。あくまで私の感じた北朝鮮です。

 好き、嫌い、という視点だけではなくて、「日本と似ている」「似ていない」という視点を入れることで、初めて見えてきたものがあります。日本に暮らしていると分かりにくいことですが、日本と北朝鮮はよく似た社会だということです。欧米人から見ればまだまだ日本は「礼儀正しい」し「集団主義的」だと思います。演歌は朝鮮半島がルーツだし、公共事業に至っては同じ国のようです。そして今は似ていないような気がする点も、実はひと昔前は日本もそうだった、ということはたくさんあります。かつては「偉大なる天皇」を崇拝していたわけですから。

 私たちはつい、北朝鮮との違いを強調しがちです。社会主義だから、という理由です。でも、みんなが同じ服を着る社会、企業が国に守られて競争のない社会は社会主義のようなものです。すごくネガティブな表現ですが、日本と北朝鮮は五十歩百歩なんです。

 では、その五十歩ぶんの違い、かつての日本っぽさがなぜ北朝鮮ではいまだに残っているのか、ということが気になります。なぜ北朝鮮の社会はあんなに団結が強いのか。北朝鮮の特徴を考えてみます。

 @ 社会主義・計画経済である
 A いわゆる発展途上国である
 B 儒教的・非民主主義的である

 大雑把にいって3つの特徴があると思います。そして、それぞれにプラスとマイナスの両面があるはずです。

 話がそれますが、このことは北朝鮮の環境問題を考える上でも役に立ちます(右図参照)。「社会主義だから環境にいい」なんて必ずしも言えません。あとは実際に現場を見るしかない。

 話を「団結」に戻しますが、しかしこれだけで、北朝鮮の人々がこんなに団結していることを説明できるとは思いません。

 その答えは板門店に行ったときに見えました。私は板門店に行ったとき、北朝鮮の人のアメリカへの強い敵意を感じました。「アメリカ帝国主義」という表現を繰り返し用い、言い聞かせているようでもありました。

 人々は、共通の敵を前にすると団結します。これは歴史が説明してくれます。モンゴル帝国から攻められ日本人は初めて「日本」を意識した。アメリカと戦争をしながら「天皇万歳」と叫んだ。それが今の北朝鮮です。北朝鮮は、仮想敵国の前に空前の団結を維持しているのだと思います。

 そう考えると、いろいろと分かってきます。あれほど強く「偉大なる領袖」を支持する理由。欲もなく、貧しさに耐えられる理由

 子どもたちが先生の言う事をよく聞くのも、理由は同じです。彼らは、自分のために勉強するんじゃありません。「共和国のために勉強しよう!」小学生が使っているノートにはそう書いてあります。祖国を強くして敵に勝つ! それが子どもたちの勉強への動機です。

大同江から眺めた主体(チュチェ)思想塔。金日成が唱えた主体思想を形にしているらしいです。170メートルとのこと。平壌のシンボル、ひいてはこの共和国のシンボルなのでしょう。

 今後北朝鮮はどこへ行くのか。少なくとも、南北統一への痛切な願いを感じることができた私は、その実現のために尽力したいと感じました。

 しかし南北統一の前にやらなければならないことは、北朝鮮とアメリカの和解です。38度線をはさんで対峙している両国の和解と国交正常化は、南北統一の大前提。さいわい、それは徐々に進んでいるようで、米朝協議は断続的にですが続いているし、韓国の金大中政権がアメリカにはっぱをかけたりもしています。韓国と北朝鮮との差は激しいですが、韓国も田舎に行けばまだまだ閉鎖的らしく、北の社会と近いかもしれません。

 問題は、アメリカと和解することによる北朝鮮国内の影響です。仮想敵の消滅によって人々の団結が薄れることは間違いないでしょう。貧しさにも耐えられなくなるはずです。

 東欧のように民主化運動が起きるかといえば、すぐには起きないかもしれません。東欧の人々はラジオを聞いて西側の暮らしを知ったといいます。かたや北朝鮮は情報統制がすごい。もちろんマスコミはありませんし、私がホテルで見たTVニュースも延々「偉大なる将軍」の動きを紹介していたにすぎません。しかし、私の出会った学生は日本のアニメや大統領制の意味を知っていました。それに、数は少ないにしても来訪者が途絶えることはありません。情報を完璧にシャットアウトするのは不可能です。

 この国にも、人々の団結が薄れ、指導者の権威も薄れる時代がやがてやってくるということです。北朝鮮経済を支えている人民の「愛国労働」も、生産性低下は避けられません。このままでは、和解したら瓦解する??というシャレにもならない状況が起こりえます。

 イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズ風にいえば、伝統的権威が失われたものを無理やり結束させるのではなく、民主主義による新しい団結を創り上げるしかないと思います。民主的に選ばれた代表こそが権威を持てるのだし、「みんなで国の将来を決めよう」という民主主義の仕組みだからこそ生まれる団結もあるはずです。(日本はそうなっていないじゃないか、という人もいるでしょう。それは日本は民主主義が不十分だからです!)

 共和国のみなさん! 将来の国際的な和解を見越して、今のうちに民主主義を確立しておいたほうがいい! そして、国を開く準備を始めましょうじゃありませんか!

2001年9月12日 坂田光永

◇参考文献 全哲男『銃声なき朝米戦争』(社会評論社・1999年)
  アンソニー・ギデンズ『第三の道』(佐和隆光訳・日本経済新聞社・1999年)

《1日目》南浦港→平壌市内→学生少年宮殿
《2日目》板門店(38度線)
《3日目》平壌外国語大学→大同江
《4日目》朝鮮革命記念館
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