Love's A Loaded Gun
第弐話 Killing Machine
by しムす
初版:2004/11/20
改訂:

Killing Machine

殺人機械
お前を狂気の縁まで連れて行く
殺人機械
お前がかつて見たことも無い
殺人機械
憎悪と悲嘆の跡だけを残す

爆発が起こったのは、深夜の三時頃だった。鉱山自体は三交替で動いているので、三の方の勤務の社員が坑内に居たが、施設管理を行うセクションを始めとする昼勤のスタッフ達は、緊急連絡の電話で叩き起こされた。
松島たち鉱山近傍の住宅に居住している昼勤のスタッフは、取るものもとりあえず、事務所に集合した。

「鉱山西側山林8番鉄塔で爆発があり、鉄塔が倒壊した模様です」
「送電系統がやられました。緊急電源に切り替わっています!」
事務所は蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。
「浮き足立つな!」
駆けつけてきた総務部長が一喝して、それぞれに指示を始めた。
「工務課長は被害状況のチェックと復旧に注力しろ。ただし、テロの危険もある。準備完了したら報告して指示を仰げ」
「松島!」
「はい」
「NERV側との窓口となり、必要と思われる措置を直ちに実施しろ。対策本部としての権限を付与する」
「ありがとうございます」
これで、松島は事実上、何の制限もなく鉱山の全ての資源を利用することが可能になった。

松島は、事務棟の地下に設けられた、NERVの要員が詰める保安司令部に向かった。
保安司令部では、それぞれ担当者がフル回転していた。
「送電線がやられた模様です。爆発です。工務課の要員を送り込んで、直ちに状況確認と修復の必要があります」
松島が一応報告する。
「そうね、でも、破壊工作をした連中も、武装している可能性もあるから・・」
ミサトはモニタを覗き込んでいる日向に向かって尋ねる。
「動かせるのは?」
「第2分隊は先ほど準備完了。どこへでも出せます」
この鉱山には、シンジの『神殿』を管理する看守たちとは別に、武力攻撃に備えた保安隊がNERVから派遣されている。第2分隊は今日の当直だった。
「とりあえず、第2分隊で復旧担当の人たちを援護させて、被害状況の確認に向かわせます。指示をお願い」
ミサトの指示を受けて、松島は、構内用のPHSを取り出し、工務課に指示を出す。
「工務課復旧チームを、保安本部の第2分隊が護衛する。工務課員は、第2分隊長の指示に従って行動せよ」
「了解」
訓練どおり、短い応答。松島は、訓練が無駄ではなかったことに、複雑な思いを抱く。
「構内設備の復旧は通電後どれくらいの見込みですか」
日向が松島を振り返って、言った。
「どうしても一時間はかかると思います。安全確認とか、通電開始までのチェックに人手が要るので」
「構内設備の方にも人手が取られるわけね」
「そちらは協力会社の担当をかき集めることになるでしょう」

山道を、人員を満載したバンが駆け上がっていく。暗闇の中で、ヘッドライトだけが頼りだ。保安隊第2分隊の副長が、緊張した面持ちでハンドルを握っていた。
一瞬、何かが光った。銃撃だ。フロントガラスを赤熱した物体が貫通していく。
ドライバーは、慌ててブレーキを踏みながら、急ハンドルを切った。バンは後輪を滑らせながら停止した。
すばやく状況を判断した第2分隊長は、全員を下車させて、射撃を受けた方向に向かって、サブマシンガンを短く打ち込んだ。
「散開しろ!萩、矢竹、民間人を守れ!」
回り込もうとする分隊員に向かって、今度は逆の方向からの射撃。咄嗟に伏せる隊員。一人はうめき声を上げている。腕を抑えている。
「本部!本部!こちら第2分隊。射撃を受けている。敵は複数。敵は素人じゃない!」

武装したテロリストが山林で銃撃戦を演じている、という緊迫した状況の中、ゲートには、構内の復旧作業に呼ばれた協力会社のトラックが次々とやってきた。その中の一台は、目立たない紺色に塗られた、何の変哲も無い4人乗りのピックアップトラックだった。
「IDカードは?」
「すいません、発給の手続きはお願いしてるんですけど。どうも、書類に不備があったみたいで。でも、薩摩さんからは至急来いと言われてまして」
「ああ、第一警戒態勢だからな。急いでくれ」
「はい」

「戦自の緊急展開部隊は?」
「あと20分くらいで到着するそうですが、ヘリボーンです。」
「第3、第4分隊を、変電所前の平地に展開して、ランディング・ゾーンを確保させて」
「了解!」
「第2分隊は後退させて。民間人を無傷で連れ戻すのよ!」

電源が落ちたため、闇に包まれた構内。紺のピックアップトラックは、資材倉庫を行き過ぎたところで停止した。濃紺の制服姿の三人が、資材倉庫の扉を開けた。真っ暗な資材倉庫の中、懐中電灯の光が、左右に揺れる。
「あったぞ!」
低い声で、リーダー格の男が言った。懐中電灯の照らし出す先に、彼らにだけわかる特徴を備えたダンボール箱があった。

彼らはそれぞれに、ダンボールの箱を開ける。ダンボール箱の内側には、更に木箱が入っている。ダイヤル式の錠前を合わせると、木箱はすんなり開いた。中にはサブマシンガンと、その弾薬を収めたポーチが納められていた。サブマシンガンはスリングで肩から吊り、ポーチを手早く腰につける。別の箱からは、ロケットランチャーらしい筒などの装備が出てきた。彼らは無言で、その装備を身に付けると、空になった箱を無造作にトラックに積み込んだ。

「あ、松島主任ですか。警備です。工務が声をかけた業者さんはほとんど入構しました」
「お疲れ。特に、何か気になることは、ない?」
「先ほど、みずほ電業さんの作業者三名を通しました。あんまり見かけない顔でしたけど。書類は申請中とのことです」
松島は、何か引っかかるものを感じる。
「そんな書類、出てないぞ?」
「総務部長のところで止まっているとか」
「いや、そんな話は聞いていない。大体、みずほ電業なんて会社、聞いたことあるか?」
「薩摩さんが急ぐから、と」
「工務の薩摩さんか?じゃ、こっちから確認する」
松島の顔がこわばる。
「ええ、ええ、はい、そうです。ええ、はい、わかりました」
通信用のPHSを切りながら、内線電話をプッシュして、警備詰所を呼び出す。
「おい、やっぱり薩摩さんも知らないって言ってる!」
「!」
「至急、データをこっちに回せ!以後、IDカードを持っていない者は絶対通すな。カードを持っていても、そっちの判断で怪しいと思ったら、それも止めろ」

「外の騒ぎは陽動だったってわけね」
ミサトはてきぱきと銃のチェックを行っている。
「いえ、それだけじゃないでしょう。送電が止まったままだといずれこっちも干上がります」
日向が応じた。
「侵入者は、ゲートから入った後、資材倉庫に向かってます。その後、中央坑道から坑内に降りていったようです」
社内システムから、入構車両の経路を確認しながら、松島が言った。別ウインドウを次々に開き、関係のありそうな情報を繋ぎ合わせていく。
「装備は?」
「資材倉庫に、行き先不明の荷物が6ケースあったようです・・恐らく、火器の類でしょう。丸腰とは思えません」
松島は唇を噛んだ。盲点だった。不審者の侵入をあっさりと許した上に、事前に武器の搬入さえ許していたとは。しかも、事態は最悪の方向に向かって転がりつつある。
「目標は、シンジ君ね」
「申し訳ありません!」

「保安隊第1分隊は、中央坑道前に集合!」
ミサトはボディアーマーを被りながら、日向に指示する。
「それじゃ、本部に予備兵力が残らなくなりますよ」
「山の追いかけっこは戦自に任せるしかないわね。到着次第、第4分隊を戻して」
ミサトは手早く装備を整えている。
「陣頭指揮をされるつもりですか」
「当然。あとはよろしく頼むわね」
「・・・了解」

「私も行きます!」
と、松島。
「ここからは民間人の領分じゃないわ」
「施設管理担当者であり、また、職員の安全を司る担当者としての務めです。それに、あなた方だけでは、坑内のことは判らないでしょう」
「・・しょうがないわね」
ミサトは予備のボディアーマーを松島に手渡した。

松島は、装備を整えながら、連絡要員として保安本部に詰めている自らの部下に指示を出した。
「警報は出すな。各人のPHSに同報で発信。テロリスト侵入の模様。各自は持ち場にて退避。テロリストを刺激するな。本部の指示に従って順次坑内より脱出せよ」
「はい!」
緊張していた女性社員は、松島の指示を得て、てきぱきと連絡を始める。
次に、普段は給与業務を担当している若い社員を呼んだ。
「坑内作業者のチェックを各課でやらせて、その情報を逐次本部に上げさせろ」
「はい!」
「坑内情報は本部で整理してから俺に発信してくれ、頼んだぞ」
「わかりました!」

ミサト、松島を含めた第1分隊は、保安隊のバン2台に分乗して、中央坑道を下りる。電源が落ちているので、坑内を照らすものはバンのヘッドライトと、非常灯のささやかな明かりのみ。これでは赤外線暗視装置が使えるかどうかも怪しい。
「主任、C-6、50m付近で、降りていくピックアップトラックを確認」
本部からの通信。松島は迷路のようになった坑内の配置を頭に描く。奴らの後方の社員は退避させても大丈夫だ。
「よし、A,B系から上の連中は退避させろ。ここから下には、あと何人残ってる?」
「まだ20人近く、残ってます。停電復旧で、かなりの人数が入っていたもので」
「くそ!」
「なんとか奴らの足止めはできないの?」
「緊急閉止用のシャッターが何箇所かにあるんですが、これを閉めると、その下層にはエアも冷却水も行かなくなるので」
「閉めなさい」
「駄目です。停電時にメインの送風ファンが止まってます。この上遮断をかけると、下層は30分持ちません」

坑内で作業をしていた、ジャンボと呼ばれる工作車のオペレーターは、退避指示を受けて、坑内の休憩所の物陰に隠れていたが、中央坑道を遠くから駆け下りてくるトラックの音を聞いた。
坑内を走るにはスピードが出すぎている。こいつらだ!彼は確信した。
「坑内を勝手に走り回りやがって」
わけもなく憎しみが湧いた。
考えるより先に、体が動いて、重機に乗り込んだ。

トラックからは、重機が行く手を塞ぐように動き出したように見えた。三人は、急減速しながら、トラックから飛び降りた。衝撃音が狭い坑内に響く。ジャンボの腕がトラックと絡み合い、ジャンボを引きずるような形でトラックは横転した。
「この野郎!」
サブマシンガンが横腹を見せたジャンボの、解放式の運転席に向かって放たれた。体を竦めたオペレータだったが、肩に激痛が走った。
「う!」
運転席から転がり出た瞬間、更に放たれた火線が、彼を捉えた。
数発の弾丸が、彼の体を貫通した。

「馬鹿野郎、無駄弾を撃つな!」
リーダーらしい男が横転したトラックを忌々しそうに一度振り返った。
もうトラックは使えない。
「バレたかな?」
「おそらく、な」
「しょうがない・・ここからは走るぞ」
冷たくなりつつあるオペレータの傍らを、三つの影が走り過ぎた。

「E-7坑道方面で衝撃音と銃声!」
「奴ら、本気ね」
「誰がそこに居たんだ!呼びつづけろ!状況を確認するんだ!」
「駄目です、応答が・・ありません」

ミサト達は、E-7と呼ばれる水平坑道と中央坑道が交差する地点で、横転したトラックともつれるように停止したジャンボを発見した。その傍らに転がる遺体。松島が駆け寄ったが、もうすでに事切れていた。
ミサトが松島に向かって叫ぶ。
「急ぐのよ!そっちは後!」
「・・・了解」
「どっちへ行ったと思う?」
トラックとジャンボが道を塞いでしまっているので、直進はできない。
「坑内の地理にそんなに詳しいわけではないでしょうから、常識的には中央坑道を下まで降りて、G-5あたりから支坑道に入ると考えるべきでしょう」
「追いつけるかしら?」
「こっちからなら、先回りできるはずですが、鉢合わせしてしまう可能性もあります」
分隊長が、ミサトに向かって怒鳴る。
「三佐、正面から行くのは危険すぎます、下車して追いましょう!」
「時間がない!覚悟して!」
再び車に乗り込み、強引にバックさせて、違う坑道に突っ込んだ。
「飛ばします。しっかり捕まっててください。」

エンジン音が狭い坑道に響いた。
「くそ、来たか」
「どうする?」
「車に乗ってるうちは反撃できまい、やるぞ」
三人は坑道の壁に身を寄せる。

「ここで、G-5に入ります」
「いた!前!伏せて!」
ヘッドライトに、一瞬、作業服にサブマシンガンを腰だめにした三人が照らし出される。
次の瞬間、フロントガラスが粉砕された。辛くも第一撃を逃れたミサト達だったが、車のほうはタイヤがやられたらしく、コントロールを失い、そのまま側壁に激突した。更に銃弾が打ち込まれる。車の中からでは反撃できない。
永遠のような一瞬ののち、後続してきたもう一台が急停止し、そこから下車した分隊員が援護の火線を張った。
「今よ!脱出して!」

三人は、充分に引き付けたところで、飛び出して、突っ込んで来るバンに集中射撃を浴びせた。バンは側壁に激突した。更に射撃を続ける。バンの車体にプスプスと銃弾が突き刺さる。
その時、後方から、もう一台。こちらは停車した。ドアが開き、影がばらばらと展開する。射撃が来る。しかし、こちらがよく見えているわけではなさそうだ。
「よし、もういい、走れ!」
三人はそれぞれ、闇が支配する坑道の壁に沿って走り出した。

第1分隊の先頭車両に乗っていた者の損害は大きかった。
「副長、あなたは負傷者を2号車で脱出させて。残りは私に続いて!」
ミサトの後に続いたのは、松島を入れて6人になっていた。

シンジの独房に、看守が入ってきた。いつになく厳しい表情を浮かべている。
「どうしたんですか」
「何者かが侵入したらしい。武装している。今、保安隊と交戦中だ」
「え・・・」
「部屋の奥で伏せていなさい。誰が来ても、出てはいけない。君は、私たちが守る」
看守の顔ははっきりと青ざめていた。

「追って来るぞ」
「6人・・かな」
「とにかく奴らの足を止めないと」
「よし、そこの支道に入れ」
足音が近づく。一人が手榴弾の安全ピンを抜いた。レバーを放して、三つ数えて、足音の方向に向けて放った。

ミサトは、ピン、という金属音を聞いた。
反射的に、体を側壁に寄せながら叫んだ。
「手榴弾!」
分隊員は、とっさに身を寄せるべき遮蔽物を探すが、狭い坑内では、坑道脇の溝に伏せるのが精一杯だった。ずうん、という音とともに、ぱらぱらと天井から岩石が落ちる。2人が重症を負ったが、それだけで済んだのは、むしろ奇跡に近かった。
支坑道を走り去る気配を感じたミサトは、その方向にサブマシンガンをフルオートで撃ち込んだ。無事だった分隊長がそれに続く。
気配は消えた。

「足をやられた」
「駄目だ、走れ、死にたいのか」
「走れない。置いていけ、俺は奴らの足止めをする」
「戻ってくるからな」
「ああ、待ってるよ」

さすがに、保安隊も警戒しているのだろう。散開して進んで来る敵の気配を感じる。怖くはなかった。自分が何をなすべきかは、よく判っていた。暗視装置のゴーグルを上げた。
さあ、もっと近づいて来い。後ろ手に手榴弾のピンを抜いた。
「おい、助けてくれ、投降する!」

「投降する、って言ってますよ」
松島は、まだ耳鳴りが収まらないが、怒鳴り声の内容は聞き取れた。
「待って!下がって!」
これは罠だ。ミサトは直感的に判断したが、これを踏み越えないと前に進めない。
「私が行きます」
分隊長が一歩進み出た。
「銃を置いて両手を上げろ」
「腕を撃たれた。左腕が上がらない」
非常灯のわずかな明かりを暗視装置で増幅しているけれど、仔細はわからない。どうも腕と足に負傷しているようだ。分隊長はゆっくり接近する。
「変なことはするなよ」
分隊長は、負傷した男に近づいた。銃を足で蹴り飛ばす。
「お前が指揮官か?」
男が分隊長に尋ねる。
「そうだ」
「神は偉大なり!」
「!」
その男が捧げるように出した手榴弾は、既にヒューズに着火していた。己の運命を悟った分隊長は、被害を極限するために、その男の右手に覆い被さった。
「口を開けて伏せて!」
ミサトが叫んだ。再び、低い爆発音。

埃と血にまみれながらも、松島は、不思議なほど無感動だった。まるで現実のこととは思えない。
「責任は取らなきゃな・・」
相次ぐ爆発で、耳がほとんど聞こえなくなっている松島は、それを声に出して言ったけれど、自分でも驚くほど他人事のように聞こえた。血と、骨だろうか。生白い物体がぬるぬるする場所を通過する時、ほとんど無意識のうちに、さっきまで分隊長のものであったサブマシンガンを手に取った。

今度の爆発音は近かった。そっと独房の窓から覗くと、看守二人は、面会室の隅で、拳銃を構えていた。机と椅子で扉を塞いでいるが、どれほどの効果があるかは、シンジから見ても怪しかった。看守の一人が、シンジに気付いた。
「部屋の奥の隅で、伏せてろって!」
その顔は引き攣っていた。シンジは素直にその指示に従った。
「まただ・・僕が・・悪いのか?僕の存在こそが・・悪なのか・・」
毛布を頭から被った。
「もう沢山だ。もう何もかも、終わりにしてくれよ・・」

「そこの支道を右だ!」
後方から爆発音が響いてきた
「やったか」
「急げ、折角時間を稼いでくれたんだ」
「そこを下へ!」
急に、開けた場所に出た。
「ここか・・」

「シンジ君のところまで、あとどれくらい?」
松島はようやく聴力が回復してきていたが、それでも耳元で怒鳴られないと、はっきり聞き取れない。
「あ、と、ど、れ、く、ら、い」
「もうすぐです!」
「間に合って!お願い!」

「ロケットランチャー!」
「ほい」
ロケットランチャーの尾部を伸ばして、照準器を上げる。この距離では外しようが無い。ゲートのロック装置を狙って、ロケットを発射する。衝撃。爆発音が反響する。破片がヘルメットを叩く。
飴のように曲がったゲートを強引に開く。
すこし開いた隙間から、サブマシンガンの銃口を突き出して、掃射する。
反撃がないことを確認して、扉を大きく開いた。

前方で爆発音が響いた。
「急いで!」
叫ぶミサトの顔は硝煙と煤で真っ黒になっている。
「居た!」
叫ぶより早く、ミサトはサブマシンガンを掃射する。
男は扉の内側に消えた。

「くそ、追いつかれた」
「早くこの扉を!」
バックブラストを逃がす空間がないので、もうロケットランチャーは使えない。
サブマシンガンをロック機構に撃ち込む。跳弾が跳ね回るが、もう気にもとめない。
マガジン一個分を叩き込んで、やっと扉が開いた。
「手榴弾!」
開いた扉の隙間から、手榴弾を放り込んだ。

看守の二人が、扉の両方から待ち伏せをしている真中に、手榴弾が、ヒューズから淡い煙を引きながら落下した。
「!」
看守は、一瞬後ずさったが、もうどこにも逃げ場はなかった。
「ああ!」
声にならない叫び声を上げて、一人が手榴弾に向かって突進したが、それをあざ笑うかのように、手榴弾は部屋の中心で炸裂した。
すさまじい圧力に、シンジの部屋に続く扉が吹っ飛んだ。
部屋は硝煙と埃で真っ白になった。ぱらぱらと、内装材の破片が降っている。
肉塊と化した看守二人をゆっくり踏み越えて、シンジの独房に二人が入ってきた。
カラン、とマガジンを捨てる音。かちん、と、マガジンを装填する音。
視界が戻ってきた。
「チェックメイトだ!」

爆発音に、ミサトは狂ったように突進した。松島もそれを追った。
「シンジ君、伏せて!」
ミサトは委細かまわず、奥の部屋に突入するなり、サブマシンガンを横殴りに掃射した。
生き残りの分隊員とともに、松島もその部屋に駆け込んだ。
崩れ落ちるようにして、武装した二人が倒れていくのが見えた。
そのうちの一人が、松島を振り返って、その銃口を、松島に向けた。
松島は、銃のトリガーを絞るが、安全装置がかかっていて、銃は何の反応もおこさない。
次の瞬間、松島は、叩き付けるような衝撃を感じた。

シンジは、こちらに向かって銃を向けた二人の後ろから、ミサトが飛び込んでくるのを見た。
ミサトが伏せろ、と叫んでいる。シンジは伏せた。その頭上を、弾丸が通り過ぎていった。
反響する銃声が収まった。まだ耳が痛い。
恐る恐る顔を上げたシンジの目に入ったものは、さっきまで自分に銃を向けていた紺色の制服の二人が血に染まって地に這いつくばっている姿と、まるで壁に串刺しにされたかのような松島の姿だった。ボディアーマーの前面は貫通されていた。
「松島さん!」
シンジは駆け寄った。
「はは、シンジ君、ごめんね、責任、取れなかったよ・・」
松島は、混濁する意識の中、シンジの泣き顔に心を動かされた。

そんな顔、するんじゃないよ、シンジ君・・

「後悔を重ねて、それでもやっぱり後悔するのさ・・だけど、僕は満足だよ、最善は尽くしたから・・」

・・まあ、良かった。君だけでも助かって。・・そうだな、確かに嘘じゃないよな・・松島は、なんだか安心した。

「松島さん!」
シンジは二度と、その返事を聞くことはできなかった。

つづく