「郵便でーす。」
「はーい。」
郵便配達の人がシンジ宅…まぁ、葛城邸にだが、郵便を届けにきた。
どうやら書留らしい。
シンジは郵便配達から印鑑を求められた。
リビングの棚に置いてある"葛城"の印鑑を押そうと、印鑑を取りに言った。
しかし、郵便配達の人は、
「"碇シンジ"さん宛てですね。」
と、言った。
シンジはよくわからなくなった。
僕宛…?
シンジ宛に着たその郵便物は、かわいいパステルカラーの封筒に入った書留だった。
差出人を郵便配達の人に聞けば"ネルフ"らしい。
ネルフの人がなんでこんな封筒で…??
シンジは、印鑑が無かったのでその場は自分のサインで済ませ、"ネルフ"からやってきたこの謎の手紙を自分の部屋で見てみる事にした。
その手紙は本当になんの変哲もない、パステルカラーの封筒のものだった。
ただ、"ネルフ"が差出人という部分以外は。
シンジはカミソリでも入ってはいないかと用心をしたが、よく考えたら書留である。それはさすがにないかな…と、シンジは思いなおした。
シンジはカッターナイフで器用に封を開けた。
中には一枚の便箋が入っていた。それもやはりパステルカラーだった。
そしてシンジは中の文章を読み始めた。
「…ひどいよ…アスカ!」
シンジの叫びが部屋中にこだました。
惣流・アスカ・ラングレーの手紙
碇シンジ様
一筆申し上げます。
今までずっと一緒に暮らしてきて、今更このような事を、こんな形で伝える私の事をお許し下さい。
いつも私はシンジさんの事を見ていました。
昔から自分自身を認めて欲しくて、色々な人たちにご迷惑をかけてきました。
無論、シンジさんの事をなじり、煽り立てるような言葉を言っては貴方を困らせ、傷つけてきた事を、深く悔やんでいます。
けれど、貴方はいつでも私に優しくしてくれました。
いつも素直になれない私は、そんな貴方の優しさを踏みにじるような事ばかり言ったりしていました。
今となっては後悔しています。
そして私はここに至ってシンジさんに抱いているこの想いが変だということに気がつきました。
そして貴方に私の変人になってもらいたいのです。
どうか私の変人になってください。
こんな私が、こういったものをお送りするのに、勇気が要りました。
もしかしたらこの先、私にはこういったことは出来ないかもしれません。
惣流・アスカ・ラングレー、一生に一度の変文です。
どうか私の変人になってください。
あらあらかしこ
2016年6月30日
惣流・アスカ・ラングレー
「な…何なんだよ!この手紙は?! 変人って何??
アスカは僕の事、変だとか変人とか思ってたの?!?!」
シンジは絶叫した。
「シンジ~!!ねぇ、シンジぃ~!!」
自分の部屋の机で、悶々と頭を抱え込んでいるシンジの元にアスカの声が響いた。
どうやら帰ってきたらしい。
「ただいまっ!シンジ!!」
アスカがシンジの部屋の中に入ってきた。
「あ…アスカぁ~!」
シンジがなんとも情けない声を上げる。
「ただいま!!シンジ!! …って…ああっ!!あ…あの手紙、もう着ちゃったの?!」
アスカが顔を赤くしてモジモジし始めた。
一方、シンジの方は暗い顔をしてアスカの顔を見ようともしない。
「…で、アンタの返事は…どうなの?」
アスカがおずおずと尋ねた。
「…どうせ僕は、変で、変人で、変な文をアスカに送りつけられる
…そんな情けない男だよ…。」
シンジは下を向いたまま、グチグチと根の暗い声で言った。
「…はぁ?! アンタ何言ってんのよ?! そんなに私と付き合うのがイヤだっていうの?!
…え?言ってる意味が良く判らない。
「何よ!せっかく日本語で!しかも手紙の書き方辞典まで引いて書いたのに!!
そんなに私のラブレターがイヤだったの!?
いつもクチが悪いかなって思って丁重に書いたのに!
もういい!!アンタの顔なんか見たくもないわ!!」
バーン!!
シンジの部屋の襖が勢いよく閉まった。
…ど…どういうこと?
シンジはしばらく考えた。
アスカはシンジの事を"変人"と言った。
…変人?
も…もしかして…アスカは僕の事を"恋人"って言いたかったの?!
あ…アスカってもしかして"恋"って漢字を"変"って間違えて覚えた?!
って…ま…まずい!まずい!!
「ごめん!アスカ!僕が悪かったよ!! ねぇ!!アスカ!!アスカぁぁ!!」
この後、しばらくシンジはアスカに誤解をしていただの、言い訳だの、ことの説明だのを延々として、なだめたり、おだてたり、散々アスカのご機嫌取りなどをしてやっとの思いでアスカの機嫌を取り戻し、そして改めてアスカからの告白を受理することとなった。
しかし、せっかくアスカが低姿勢で告白をしたにもかかわらず、主導権がシンジではなくアスカに握られたのは言うまでもない。
END