蒸し上がったワンルームマンションの一室。
その部屋の中でレイは思案した。

山 重い山 登ると疲れるもの
空 青い空 雲のない空 日除けのないもの
太陽 猛暑の権化
水 気持ちのいいこと プール?
冷蔵庫の中のもの 腐ったものがいっぱい いらないものがいっぱい
空 炎天下 暑い外 暑いのは嫌い
流し台に流れる牛乳
腐敗物 腐敗した匂い 腐った牛乳を飲まない女
腐ったもの この牛乳から作られたもの
腐臭 暑さの造り出したもの 冷蔵庫 人の造り出したモノ
人が人の為に造り出したモノ
暑さは何? 神様が造り出したもの?
私にあるものは壊れた冷蔵庫 生鮮食品の入れ物
この暑さは何? この暑さは何? この暑さは何?
暑さで私が解けていく感じ とても変
この暑さは何? この暑さは何? この暑さは何?

…どうやらレイは暑さでそうとうまいっているようだった。

レイ、暑さのむこうに

レイは暑い中、やっとの思いで自分のマンションに帰って来た。
 …暑いわ…クーラーをつけましょう…
レイは自室の殺風景な部屋のエアコンのスイッチを入れる。

カチ、カチ、カチ。

 …動かない…

カチ、カチカチカチカチカチ…。

「…そう。 ダメなのね。もう。」

…どうやらレイの部屋のエアコンは壊れたようだった。
レイはエアコンが壊れたなら冷たい飲み物でも…と、先日買った牛乳を飲もうと冷蔵庫を開けた。すると、冷蔵庫の中から異臭が漂ってきた。
…レイは冷蔵庫の中の牛乳を手に取った。
どうやら異臭原はこの牛乳らしい。そしてその牛乳が生暖かい事にレイは気が付いた。

「腐った匂いがする…。」


どうやら冷蔵庫も壊れたようだった。

「あの…綾波?」

葛城ミサト邸に突然やって来て、慌てふためくシンジを前に、「喉が渇いたわ…」と、ボソっと言って、なんとなく飲み物を出さざる終えないような雰囲気にさせた挙句、電源の入ってないテレビの前でひたすら座り続けて篭城を決め込んでいたレイに、シンジはおずおずと声をかけた。

「…何?」

そんなシンジにレイはぶっきらぼうに答える。

「あの…、何しに…来たの…かな?」

「…暑いから。」

「え? 」

「私には、何も無いもの。」

一見まったく意味の通じない事を言っているように見えるレイだが、本当は、
「自分の部屋のエアコンが壊れて暑いからここに来て涼んでいる。
 冷蔵庫は壊れて中の物は全滅で、自分の家には何も無い。」
と、言っているつもりだった。
しかし、極端な語彙の少なさに、シンジにはその意図がまったく伝わってなかった。

「そ…そうなんだ…。」

レイのよく分からない返答にシンジは何か恐いものを感じたので曖昧に返事をした。

夕飯時、レイはまだ、葛城邸に居た。
ヒカリと遊び回って返って来たアスカは、レイがひたすら電源の入ってないテレビの前に座っているのを見て、「なんでアンタがそこに居るのよ!!」と、言ってなじったのだが、レイは全く動じた様子も見せず、ひたすらテレビを見続けていたので、終いにはアスカはレイを無視して風呂場へと直行した。
一方シンジは、夕飯時になっても帰らないレイを見て、「綾波の分の食事も作らなきゃいけないのかな…?」と、作りかけのハンバーグ3人前を、4人分に分けて作り直していた。
そして、ハンバーグを作り終えたシンジは、丁度風呂から上がって来たアスカと、電源の入ってないテレビを見続けていたレイをキッチンに呼んで、夕食を食べるように薦めたのだが、テーブルの上の皿に乗っているハンバーグを見たレイは無表情な顔をして言った。

「…私、お肉嫌いだから。」

これを聞いたシンジは、がっくり肩を落とし、アスカに至っては、顔を真っ赤にして怒り狂った。

「人の家に上がり込んで篭城決め込んでるヤツが何言ってんのよ!?
 ひいきにされてるからって、ナメないでよ!!」

「なめてなんかいないわ。それにひいきもされてないわ。 自分で分かるもの。」

怒るアスカにレイは、誤解を解くために精一杯説明した。
しかし、あまりにもの説明不足の為に、アスカは逆に怒り狂い、結局たたき出されるようにレイは葛城邸を後にせざる終えなくなった。

「…ダメなのね。もう。」

葛城邸を追い出されたレイは、暑さをしのぐ場所を求めて彷徨い歩いた。
そうして歩き続ける事、1時間。レイの目の前に明るく電気を灯す建物が見えて来た。

「あれだわ。」

「な…なんだ。アレ?」

コンビニの店員は、ひたすら店内に立ち続ける少女を見て、恐れおののいた。
彼女はこの店の、ペットボトルの陳列棚を見続けて3時間以上、動こうとしなかった。
さらに彼女は、何かを買うというわけでもなく、ただただ、ペットボトルを見つめ続けている。コンビニ店員は、その姿を見て、不審を通り越して、すでに精神の限界を感じた。
不良には見えない。家出少女にも見えない。ただ、常人とは違う無表情な赤い瞳に、店員は怯えに怯えていた。
そして、赤い瞳の少女にコンビニ店員はただひたすら帰ることを願ったのだが、その願いも空しく、赤い瞳のその少女は、ただひたすら陳列棚を見つめ続けて微動だにしなかった。

そしてさらに3時間後、精神の限界を感じたコンビニ店員は、耐えきれずに警察に通報、そしてレイは補導されることとなってしまった。

補導された先の交番で、何故あの場に居たのかと質問をする婦人警官に対し、レイはひたすら、
「涼んでいたんです。」
と、だけ答え、そのまま数時間ほど警察署内の警官達を悩ませた挙句、レイをガードしていたネルフ諜報員がその行動が故に限界を感じ、そのままネルフに連絡が入りった。
結局ネルフスタッフが彼女の身元を引き受け、彼女を迎えに来るハメになった。
その時、彼女を迎えに行った青葉は、

「レイの性格は分かってたつもりだったけど、あそこまでとは…。」

と、言って、しばらく発令所で頭を抱えていたのは、言うまでもなかった。

END

天然素ボケでボキャ貧で電波なレイの話…。
自分で書いていて、ヤバいと思いました。ハイ。
ちなみに自分の部屋のエアコン、壊れました…。
体の融けるような暑さが、私を壊す…(壊)
修正: 2005/06/27
初出: 2005/06/19
Author: AzusaYumi