「…、で、俺に相談しに来たってワケか。」
深刻な面持ちのシンジに加持はそう言った。
「どうすればいいんでしょうか…。」
「シンジ君、アスカもか弱いレディーだ。 …秘策はいくらでもあるさ。」
加持のこの一言にシンジは期待と尊敬のまなざしをした。
…よし、準備はO.K.だ。
シンジは酒屋から買い込んだウォッカを見つめながら言った。
シンジは今日は加持から教わった秘策でアスカを落とすつもりだった。
秘策とはコレだ。
『いいかい? シンジ君。女性っていうのはな、酔わせればイチコロだ。
ただ、あからさまにアルコールだとすぐに分かるのはまずい。
こういう時はソフトドリンクのようなモノでわからないように酔わせるんだ。
…そうだな、スクリュードライバーなんてものはどうかな?
別名"レディーキラー"って言うんだ。
なに、口当たりがオレンジジュースみたいだからアルコールが苦手なヤツでも
分からずに結構イケるんだ。』
シンジは加持のこの言葉を信じてウォッカとオレンジジュースを買った。
後はアスカがお風呂上がりくらいに何か飲み物を欲しがった時に飲ませるだけだ。
その後はヤリたいだけヤルだけ…
そう思っただけでシンジの鼻から鼻血が出そうになった。
…いけない…ここで興奮しちゃダメだ…。
シンジは自分に言い聞かせた。
「あー、バスタイムは一番落ち着くわぁ~、一人でいられるし~」
どうやらアスカはお風呂上がりで悦に入っているようだ。
シンジはちゃ~んす!!とばかりにアスカがお風呂の間にステアしたスクリュードライバーを冷蔵庫から取り出した。
「アスカ…オレンジジュースがあるんだけど…飲む?」
"カクテル"とは言わないあたりがシンジが今日何がしたいのか見え隠れしている。しかし、そんな事を知ってか知らずかアスカは「あ、そ。ちょーだい」とか言ってシンジの手から"オレンジジュース"を受け取った。
アスカはそのまま一気飲みしてしまった。
「うん…はぁ。 …なんだか苦いオレンジね…」
なんとも艶めかしい声でアスカは言った。
シンジはこの声で自分の状態がヤバそうな感じになったがなんとか耐えた。
「シンジぃ~なんか暑っくるしいぃ~。 悪いけどもう一杯くれない?」
アスカが"おかわり"を要求してきた。
シンジは心の中でガッツポーズをしながら"作り置きしておいたオレンジジュース"をアスカの空になったコップに注いだ。
「んっっ、はぁ。おいしい~♪」
またもアスカが艶っぽい声を出した。
シンジはまたも我慢しきれなくなりそうになったが、たかが"声"だ。こんな所で興奮する方が早いだのなんだの言われそうだ。なんとか耐えた。
「シンジ、ありがと♪」
アスカがかわいい声でシンジにお礼を言った。
…か…かわいい!
アスカの声に一瞬我を忘れそうになったがこれもなんとか耐えた。
アスカはそのうち三杯、四杯とおかわりしていった。
シンジはこんなに飲んでも大丈夫かと思ったがアスカが嬉しそうに飲んでいるので黙っていた。
「うぅ~ん、なんか体が暑くてだるい~」
アスカが甘ったるい声で言った。そしてシンジの胸にもたれかかって言った。
「…シンジぃ…」
シンジの胸の中で今までにないくらい甘ったるい声でアスカが言った。
アスカの頬は紅潮して瞳は潤んでいる。何かを求めているようだ。
…も…もしかし…チャンス!?
「あ…アスカ…部屋で…休む?」
これがシンジにとって精一杯の誘い文句だった。
「シンジぃ~」
アスカがシンジの胸に顔を埋めてきた。
…アスカァ~。
その後、アスカの部屋から何か喘ぎ声みたいなものがもれたが部屋の中で何があったのか知っているのはシンジとふすまの前のすきまから覗き込んでいた温泉ペンギンだけだった。
…やってしまった…。
シンジは傍らで寝ているアスカを見ながら口には出さないが思った。
…もうここまでやっちゃったんだから…。
…そう思いながら寝ているアスカの回りで一生懸命証拠隠滅の為に動き回るシンジははっきり言って度胸無しというか、マヌケだった。
そして朝…。
アスカが大きめのシャツを着て眠い目を擦り擦り台所までやってきた。
「シンジぃ~。 なーんか知らないけど昨日裸で寝ちゃったぁ~」
「へ、ヘェ…」
台所で朝食の用意をしていたシンジは一瞬青い顔をしたがとりあえずその場は持ちこたえた。
「しかも生理になっちゃったぁ~先週終ったばかりなのになんでかしら??」
「ヘ、ヘェ…」
シンジの顔はますます青くなったがなんとか…なんとか持ちこたえた。
…加持さんが教えてくれた方法だ…大丈夫…。
此の期に及んでシンジはまだ加持を信じていた。
「でさぁ~シンジ。」
「な…何?」
シンジは固まりそうな頭をなんとかアスカの方向に向けた。
問題ない…問題ない…問題ない…。
シンジは知らず知らずの内に頭の中で自分の父の口癖を言っていた。
「私、レディーキラーよりもブラッディーメアリーの方が好きだから。」
シンジは一瞬アスカの言っている意味が分からなかった。
「へぇ…そうなんだ…好きなんだね…」
ぎこちなく答えるシンジにアスカはゲンドウそっくりの笑顔(ニヤリ)をして言った。
「そ、好きなの。 シンちゃん、昨夜のスクリュードライバー薄かったわねぇ。
今度はもっとアルコール強くしてね♪」
シンジの顔から血の気が失せた。
アスカはそんなシンジの顔を見ながら実ににこやかな笑顔で言った。
「責任…とってくれるわよね?」
「うっ…。 は…はい…」
シンジは滝のような涙を流しながらこれを了承するしかなかった。
バカだった…僕はバカだった…
…たしかにシンジはバカだった。
…アスカは昨夜、最初にお酒(レディーキラー=スクリュードライバー)を飲んだ時点でシンジをハメていた(しかもかなりあからさまに)ということにシンジはまったく気が付かなかったのだ。
…オレンジジュースを色っぽい声を出しながら三杯も四杯もおかわりするワケないだろう…。
END
後日談
「アスカ~シンジ君をけしかけておいたぞぉ~」
「アハ♪加持さんありがとぉ~」
「どうだ? シンジ君ばかりでなく今度俺と一緒にってのは?」
「アハハハ♪
……
絶対イヤです♪」
「そ…そうか…」
ほんとにEND