夕暮れ時の教室…。
トウジはシンジと掃除の時間からずっとじゃれあっていた。
気が付くとクラスの子達はみんな帰って行ってしまった。
ふと、じゃれあっていたシンジが立ち止まり、真顔になる。
「…なんや…?」
トウジも怪訝に思い、立ち止まった。
シンジはトウジの側にそっと近づいて…。
「…ねぇ…。」
…鈴原トウジ14歳、初めてのキスであった。
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
な、なんっちゅー夢みるんや…。
わしと碇がキ…キスする夢やて?
そんなアホなことあるかい!!
……
せやけど…
妙にナマナマしい夢やったな…。
…キスする時の碇顔……
ものごっつう、かわいかったがな。
……
…なに考えてんねん。ワイは~!!!
アイツは男や!!男!!!
なんぼ女みたいな顔しとるいうたかて、妙なこと考えたらあかん!!!
朝……
トウジは自宅の自分の部屋でとんでもない悪夢(だったかわからないが。)の為に目を醒ました。
頭の中にリピートされる夢のことをなんとか忘れようと頭を振るがなかなかどうして、ずっと頭にこびりついて離れない。
とにかく学校や!!学校に行くんや!!
そうしてトウジは何事かから逃げるようにダッシュして家を出た。
学校についたトウジは見事に遅刻していた。
…が、この第壱中学は有事の際はすぐにいなくなるエヴァパイロットがいるせいか、遅刻する生徒に対して実に寛大だ。
…というよりもいちいち構っていない。
トウジは遅刻は当然!!!というように一時間目の授業の途中から教室に入り、一番後ろにある自分の机に座った。
一番前の席についていたクラスの委員長のヒカリに睨まれたような気がしたが知らぬ顔をすることにした。
ふと、前の方で座っているシンジが目に入った。
そこらの女子より、よっぽどかわいいやんけ……
…って何考えとんのや!!!
どうも夢から覚めきれないようだ。
今日一時間目の授業からずっとシンジの方ばかりを見てしまっていた。
…昼時間…
トウジはあいかわらずぼーっとしてシンジを見ていた。
と、そこへシンジが椅子から立ち上がり、トウジの方へやって来た。
「トウジ」
「な、なんやねん…。」
「あのさ、お昼一緒に食べない…?」
「な…なんやてぇ~!!!」
トウジは思いきり動揺してしまった。
シンジとお昼を食べる…シンジと一緒にお昼を食べる…。
「アスカがさ、今日ネルフで緊急の用事があってさ、学校来れなくなっちゃったんだ。
アスカの分のお弁当せっかく作ったんだけどさ、トウジっていつも購買のパンだろ?
だから一緒に食べようって…
ケンスケも誘おうと思ったんだけどいないんだよね?また女子の写真を取りに行ってるのかな?
………
…ねぇ、聞いてるの?トウジ?」
トウジはしばらく妙な妄想をしていたがなんとか我に返った。
「お……おお!!シンジと一緒に昼飯か、ええで。」
「じゃあさ、天気もいいし、屋上で食べようよ。」
「お…屋上?!?!?!?」
またしてもここでトウジの妄想は爆発した。
シンジと屋上でお昼ご飯…ま、まさか…屋上でなんぞわしに…
「…あの…」
シンジはおずおずと聞いてきた。
「はい!!なんですか?!?!」
トウジの返答はかなりうわずっている。
「別にいらないのなら持ち帰るけどさ…お弁当…。」
「いります!!食べさせて頂きます!!!」
その時ヒカリが二人をちらちら見ていたのに二人は気が付かなかった。
そしてヒカリの手には今日も渡せなかったお弁当が…。
屋上でトウジは終始落ち着かなかった。
…なんでワシがこんな思いをせにゃならんのや…
「どうしたの?ドウジ?お弁当美味しくなかった??」
シンジがトウジの顔を心配そうに覗き込んで来た。
…うわっっっ!!ごっつう顔近いやないけ!!
…あ、でも…コイツかわいい顔しとるわ…
はっ!!
ってナニ考えてんねん!!ワイ
シンジは男や!!男!!!!
それにわいらは親友やで!!
そないコト考えてはいかんのや!!!
「いや~ほんまに美味いで。おお、美味いがな!!!」
「そう、よかった。」
シンジがはにかんだ笑みを浮かべた。
ぐあっっ!!
か…かわいい…
あ…アカン!!このままでは…!!!!
そうしてトウジにとっては天国とも地獄と思えるランチタイムは終った。
トウジの脳内は午後の授業中ただひたすらシンジの妄想を繰り広げていた。
シンジが作るお弁当を毎日一緒に食べて…
帰りはシンジと一緒に帰って…
シンジと一緒に遊びに行って…
そして最後はシンジに(から)告白して夕暮れ時の教室でキス…。
…アカン。
わい、碇に…シンジに惚れてもた。
どうやらトウジの妄想に決着がついたようだ。
そして放課後…
トウジとシンジは掃除当番だった。
トウジは今日はじゃれたり、チャンバラに誘ったりはしなかった。
しかもトウジの動きがなんとなくぎこちなくて掃除に必要以上の時間がかかってしまった。
気が付くとクラスの子達はみんな帰って行しまっていて夕日が教室に差し込んでいた。
「…どうしたの?トウジ?今日は元気ないね…」
シンジが心配そうに聞いて来た。
…ワイは、おのれに惚れとるからや!!
なんては面と向かって言えない。男に惚れてるクセにトウジは硬派だった。
「…… なんだか遅くなっちゃったね。帰ろっか?」
「ま…まてや、碇!!」
帰ろうとするシンジを思わずトウジが呼び止めた。
「ん?どうしたの?トウジ?」
「あ…あんな、わ…わし…」
「バーカシンジ~!!」
いきなりけたたましい女の子の怒鳴り声が聞こえて来た。
…な、なんやねん…ヒトがせっかく…
…と、トウジが声のした方向…教室の入り口を見ると…
アスカが仁王立ちして立っていた…。
「あ…アスカ…。」
シンジは呆然としてアスカの方を見て言った。
アスカはトウジの方を一瞥してフン!と鼻を鳴らしてからシンジに向かった言った。
「もーなにやってんのよ、シンジ!!あんまり遅いからお迎えにきてやったわよ!!」
「へぇ…。アスカが迎えに来てくれるなんて珍しいね…。」
シンジは困ったような、嬉しそうな顔をして言った。
一方トウジの方は眉間にシワを寄せて不快をあらわにした。
…なんやねん!!
ヒトがええ雰囲気だしとんのに、このアマなにしゃしゃりでてきさらすねん!!!
トウジはややお角違いのことを思った。
しかし、そんなトウジの様子を知ってか知らずか、アスカがシンジに向かって言った。
「もう!!
シンジってば女の子っぽい顔してるからそこのバカがカンチガイして襲われちゃうわよ!」
な…なんやて!!
このアマ~~!!!
なにぬかしとんねん!!!
「何言うとんねん!!ワシがそがいなことするわきゃなわ!!」
動揺したトウジは思いきり大声を張り上げて否定した。
アスカはニヤリ、と笑って言った。
「ふーん、大声だして精一杯否定しちゃってさ。
…実は図星だったのかしら~?」
「アスカ~、あんまりトウジをからかっちゃダメだよ~。
トウジだって男を襲うはずないじゃないか~」
トウジは思わず冷や汗が出そうになった。
…まさにその通りの寸前だったのだから。
「あら?わかんないわよ!!
案外シンジに惚れてたりしてさ~」
「そんなハズないじゃないか。
それに僕だって、男に襲われるのはイヤだよ」
………
!!!!!!!!!!!!!
トウジの中の何かが崩れた。
「じゃ、シンジ~帰りましょ。」
「そうだね、
じゃあ、トウジ、また明日ね。」
そうしてトウジは一人教室に取り残された…。
…終った…
わしの恋…
トウジは教室の窓から夕日を眺めながら泣いた。
帰り道、シンジとアスカは手を繋いで帰って行ってた。
「迎えに来てくれて嬉しいよ。
今日のトウジってなんだか視線が怪しくてさ…」
「はぁ~、だから言ったでしょ?
鈴原って結構アヤシイやつって。
アンタ、男女問わず結構もてるんだから気をつけなさいよね。」
「あははは…」
シンジは笑ってごまかした。
アスカはそんなシンジの手の甲をつねった。
「…浮気したら許さないんだから。」
アスカはムッとして睨んで言った。
シンジはクスっと笑いってアスカの頬に軽くキスをして言った。
「…浮気なんかしないよ…」
トウジはそのころ、暗闇になりかけた教室にまだいた。
…そしてまだ泣いていた。
END