きょうのコラム「時鐘」 2009年5月17日

 民主党代表選に勝利した鳩山由紀夫氏の政治理念は「愛」である。祖父の鳩山一郎元首相以来の考えで、対立しやすい自由と平等を融和させるのが「愛」だという

ことしは大河ドラマで戦国武将・直江兼続が兜(かぶと)の前に立てた「愛」が有名になった。五月人形でも大人気。武将らしくない優しさを「愛」の一文字に感じた人が多かったのだろう

兼続が「愛」を掲げたのは愛と義に生きた武将だったからとされるが、怒りの相を表すともいわれる愛染明王(あいぜんみょうおう)など宗教的な意味の「愛」だったとの説の方が説得力はある。殺すか殺されるかの戦国の世に、ヤワな「愛」が闘争スローガンになると思うのは甘過ぎないか

政治は、敵と味方を峻別して権力を獲得する過酷な闘いだ。時には相手を抹殺する非情さを覚悟したのが、武将であり政治家だ。「愛」の裏に「憎」が透けて見えると言えば皮肉にすぎるが、政争史はその積み重ねである

同じ漢字の皮肉話をもうひとつ。由紀夫氏がよく口にする「一郎」とは、鳩山一郎のことで、小沢一郎の「一郎」ではない。が、今は後者にしか聞こえないのが、つらいところだ。