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親から与えられた糖衣錠をいつまでもなめていて、ひどい目に遭った記憶がある。良薬は口に苦し。甘い層でくるむのは、中身がそれだけ強烈だからだろう。さて、この人は良薬か、ただのあめ玉か▼民主党の新代表に選ばれた鳩山由紀夫氏は、顔も目も丸薬のごとき、柔らかいご面相だ。似顔絵を描くのに定規が欲しい岡田克也氏とはだいぶ違う。10年前だが、性格についても「もともと柳みたいな人間ですからね。風にそよそよと」と自己分析していた▼「愛のあふれた、凜(りん)とした国家」などと、照れもせず口にできる政治家はそういない。かつて、中曽根元首相は「愛とか友情とか、ソフトクリームみたいに甘っちょろい」と皮肉ったものだ▼その愛は一面で筋金入りらしい。女性誌で「私の場合、人の嫁さんに恋をして、その人と結婚しちゃったといういきさつもあって」と語っている。留学先の米国で知り合った、宝塚出身の幸(みゆき)夫人のことだ。この出会いで生き様を反省し、政治家を志したという▼万事ほんわかした鳩山氏が、小沢一郎氏を支えた3年間で「ひと皮むけた」そうだ。夫人でひと皮、剛腕の下でふた皮。糖衣は脱ぎ捨てた、甘く見るなよ、なめるなよとばかり、就任会見では「党首討論でどちらがたくましいか見てほしい」と胸を張った▼政治決戦の年。いきなり組まれた「準決勝」も悪くはなかったが、何よりのお楽しみは最後の一戦に観衆が参加できることだろう。「なんだ孫同士の戦いか」と白けることなかれ。日本の政治の皮をむくチャンスである。