佐賀県の「インフルエンザ半減宣言」のことを覚えておられるだろうか。分かりやすいと思って今年1月に紹介した。
「かかったかなと思ったら、早めに受診します」「かかったときは、学校や職場を休み、家で静養します」
ここで言うインフルエンザは新型のことではないが、対策は基本的に同じだ。
せきやクシャミにマスクを着用、せっけんを使った手洗いの励行、食事や睡眠をきちんと取る。違うのは、早めの受診ではなく、早めに保健所などの「発熱相談センター」に連絡することだ。
神戸市灘区の兵庫県立神戸高校に通う3年生の男子生徒らが、新型インフルエンザに感染していたことが分かった。
ここでは2つのことに注目したい。
1つは、生徒たちが海外に行って感染したのではないことだ。新型ウイルスの感染者が日本国内に入り、そこを起点に感染が広がっている可能性が高い。そうなると、国内のほかの地域で感染者が見つかるのも時間の問題ともいえる。
もう1つは、「新型」が学校側も、生徒を診た医療機関も行政にも想定外だったことだ。5月に入って風邪のような症状を訴える生徒が相次いだが、「まさか新型とは思わなかった」と校長は言う。
この生徒は11日朝から風邪の症状を訴えて翌12日、37.4度の熱が出て、医師の診察を受けたが、医師も「新型ではないか」とは疑わなかったという。
生徒と家族に最近の渡航歴はなかった。「まさか」と思ったのも分からないではない。だが、そこで後手に回ってしまった。これは教訓である。「もしかしたら」と考えて警戒を怠るべきではない。
新型ウイルスは感染力は強いが、重症化する例は少ないといわれる。抗ウイルス薬のタミフルやリレンザも有効だ。
気になるのは、世界保健機関(WHO)が、世界的な傾向として20歳代を中心に若者の感染者が多いと指摘したことだ。しかも、通常のインフルエンザに比べて若者の重症化例が目につくという。
国内初の感染者は、カナダから米国経由で帰国した大阪府の男子高校生2人と教諭だった。偶然かもしれないが、学校関係者は留意しておく必要があろう。
いずれにしても、流行を引き起こさないための早期発見・早期治療、これが一番であることは自明である。
政府は、空港や港での検疫によって海外から新型ウイルスが国内に侵入するのを防ぐ「水際作戦」を展開してきた。
今後は国内での感染拡大防止に力点が置かれるが、水際作戦も並行して行うようだ。専門家には、検疫に医療関係者が取られて治療に支障が生ずる、感染者を受け入れる医療施設・設備が不足しているなどの懸念があるという。
政府や地方自治体は専門家の声に耳を傾けながら、流行期に備えて必要な措置を急ぐ必要がある。「次」を考えて手を打っていくことで被害は最小限となる。
=2009/05/17付 西日本新聞朝刊=