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【社説】

国民と意思の疎通を 民主後継代表に鳩山氏

2009年5月17日

 民主党は後継代表に鳩山由紀夫氏を選んだ。くすんだ「政権交代の旗」をよみがえらすには国民の信頼回復が欠かせない。残された時間は多くはない。

 小沢一郎前代表の路線を継承する、としていた鳩山氏が、事前の「優位」予測通り、小沢路線とは一線を画す岡田克也氏の追い上げをかわした。

 各種世論調査では岡田氏への期待が鳩山氏をしのいでいた。二十九票も差が開いたことに違和感はあるが、党所属の衆参議員は迫る総選挙へ、まずは党の安定を優先する判断をしたようである。

 鳩山氏も当選第一声で「この瞬間からノーサイドだ」と、しこりを残さぬ挙党態勢を宣言した。

◆影落とす世論との隔たり

 敗れた岡田氏も「新しい鳩山民主党で政権交代を」とエールを送っている。良くも悪くも存在感で他を圧する小沢氏の後継選びだ。軟着陸は不可欠だったらしい。

 敵の少ない鳩山氏の「包容力」で結束し、岡田氏は総選挙の「表の顔」の一人に−。大勢のそんな思惑も見て取れた、高揚感に欠ける結末だった。

 短期戦となった代表選日程の決定に当たって、小沢氏は党内の異論を封じ込める強引手法を見せたばかりだ。鳩山新代表は早速、党内外の「小沢院政」懸念にさらされよう。

 民主に古い自民党政治とは違うクリーンさを求める世論は、岡田氏への期待感に表れていた。その世論とのギャップは気になるところである。

 小沢氏の「操り人形」にならないか。そんな疑念を打ち消しておくには、鳩山氏は違法献金事件がつきまとう小沢問題に、党として明確なけじめをつけることだ。

 党首交代で落着、との雰囲気に流れるなら、なんのための代表選だったかということになる。それでは国民の信任を得られまい。

◆内向きから外向きへ

 幅広い勢力が合流して成り立ってきたこの党は、まとまりのなさや基盤の不安定さで、寄せ木細工などと今も皮肉られる。

 そんな党の体質を改める一番の近道が、代表選で再三語られたオープンな党運営、意思決定の「透明性の確保」である。

 鳩山氏自ら暗に認めているように、小沢前執行部では政策や公認候補の決定が所属議員の知らないうちになされがちだった。

 一昨年の参院選で与野党逆転を果たし、政権へあと一歩のところまで党を導いてきた小沢氏には、苦言をためらう空気が生まれていたとも聞く。影響力を色濃く残す小沢氏との距離感、間合いをどうとるか、党はここが悩ましい。

 鳩山氏は「全員野球」を打ち出す一方、通常国会の終盤対応に全力を挙げるとして、新執行部の陣容変更は最小限にとどめる意向を示した。小沢氏については総選挙で重要な役割を演じてもらうことを前提に「執行部の一員に」と構想を述べている。

 「小沢頼み」が過ぎれば、鳩山氏に向けられる国民の目はより厳しさを増すだろう。代表選の合言葉になった「親小沢VS非小沢の争いにはしない」誓いは、いつほごになるかわからない。

 紛争の火種を残さないために、党には「内向き」から「外向き」への体質転換が緊要だろう。

 開かれた議論を巻き起こし、総選挙の政権公約(マニフェスト)を早急に完成させる。これも「内向き」でなく、国民向けに。

 政策の具体化に当たって衝突を恐れず、意見の対立を克服し、まとめ上げる。鳩山新代表はさしあたり、ここで力量を試される。

 鳩山氏は「生活が第一」の小沢マニフェストを引き継ぐ意向だ。経済対策は子ども手当の支給や高速道路無料化などで家計所得の二割アップを図り、現下の危機を乗り切るとしている。

 財源の裏付けをどうするか、ここをあいまいにしては、選挙戦で与党側につけ込まれよう。

 「脱・官僚政治を」と意気込んでも、地方への権限移譲や人員削減の明確なプランが示されないでは“絵に描いたもち”になる。

 鳩山氏は前代表の小沢氏が違法献金事件に足をすくわれ辞任に追い込まれたことを、政権交代への「試練」と位置づける。その試練を克服して「たくましい民主党」をつくると語っている。国民との意思疎通がなければ容易でない。

◆最終チャンスと心得よ

 元首相・鳩山一郎氏を祖父に持つ鳩山氏が代表になったことで、同じく祖父が元首相・吉田茂氏の麻生太郎首相との間で、総選挙は「孫同士の決戦」となる。

 話題にはなっても、日々の生活に苦しむ有権者の目は厳しい。

 冷水のかかった政権交代ムードをどう復活させるか、前途は甘くない。再びつまずけば、民主にとっての政権奪取のチャンスはもうないと心得ておいてほしい。

 

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