現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

民主党 鳩山新代表―政権交代へ説得力を磨け

 次の総選挙で民主党の「顔」となる新代表に、鳩山由紀夫氏が選ばれた。

 小沢前代表の公設秘書の逮捕以来、予想もしなかった逆風にさらされてきた民主党にとって、巻き返しに向けた足場は出来たことになる。

 小沢氏の辞意表明から5日。新代表選びの過程では、「親小沢か、非小沢か」といった点が注目された。岡田克也氏は「脱小沢」での再出発に期待する中堅・若手を中心に支持を集めたが、29票差で届かなかった。

■財源論議を逃げるな

 結局、鳩山氏が勝ったのは、党内基盤の厚さとともに、総選挙を間近に控えて党内の亀裂を深めたくないという議員の判断が働いたせいなのだろう。鳩山氏が早くから岡田氏に執行部入りを求めると公言し、挙党態勢づくりを強調した戦術が奏功した。

 小沢体制のもとで幹事長をつとめた鳩山氏が新代表につくことで、政策や党運営での継続性や安定感はあるものの、「刷新」という点で疑問符がつきまとうのは避けられない。

 鳩山新代表の使命ははっきりしている。民主党の首相候補として麻生首相と「党首力」を競い、そして政権交代を実現することだ。

 そのために、第一に重要なのは、政策である。

 年金制度の一元化、農家への戸別補償制度、子ども手当の創設、高校教育の無償化。鳩山氏が掲げた政策メニューは小沢代表の時代と変わらない。

 野心的に見えるが、問題は巨額の財源をどこから調達するのかだ。鳩山氏の説明は「霞が関の税金の無駄遣いをやめることによって20兆円くらいの財源は捻出(ねんしゅつ)できる」というにとどまった。これまた小沢時代そのままだ。

 さて、これで本当に「政権を任せられる」という有権者の信頼を得ることができるのだろうか。

 この点では、岡田氏の主張の方が説得力があった。具体的な財源のめどを立てつつ、優先順位を決めて重視する政策から実現していく。消費税アップについても論議を逃げない。鳩山氏は財源論でもっと真剣な姿勢を打ち出さなければならない。

■現実主義が試される

 それだけではない。何にも増して、現下の大不況をどう乗り切るのか、明確なメッセージを発することだ。

 雇用や賃金が劇的に縮小し、格差や貧困の問題が深刻さを増している。企業の多くは記録的な赤字決算だ。財政や金融を総動員した緊急対策が求められている。

 仮に民主党が次の総選挙で勝てば、すぐに来年度の予算編成に臨まねばならない。どんな政策を組み合わせ、財源はどう工面してくるのか、具体的なプログラムを示さなければならない。それが総選挙での大きな争点になることは間違いない。

 官僚主導から国民主導の国へ。そんな「国のかたち」を変えようという鳩山氏の主張はもっともだし、自民党長期政権に不満を募らせる有権者も共感するだろう。だが、それだけでは政権構想としては説得力を欠く。

 未来への期待だけでなく、今日の暮らしをどう守るのか。この疑問にこたえる現実主義が試されていることを鳩山民主党は覚悟すべきだろう。

 米軍再編をめぐる日米協定をはじめ外交政策でも、政権にあったとすればどうするか、具体策を伴った責任ある態度を見せる必要がある。

 第二の課題は、小沢氏秘書の事件で深く傷ついた民主党のイメージを刷新し、党の体質を改めることだ。

 この2カ月、「小沢氏と一蓮托生(いちれんたくしょう)」と寄り添い、「国策捜査の可能性」まで口にしてきた鳩山氏にとっては、容易なことではない。事件についての民主党としての説明責任はまだ果たされたとは言えない。総選挙を考えれば、選挙実務と戦略にたけた小沢氏の力を借りたい事情もあろうが、国民の目の厳しさを侮ってはいけない。

■小沢時代から脱皮を

 民主党は変わったと納得してもらえるかどうか。まず、新執行部の人事で、そして実際の党運営で「鳩山主導」を打ち出せるかどうかが、最初の試金石になる。

 自由闊達(かったつ)な議論はいいが、求心力に欠け、ともすれば党内で足を引っ張り合う。かつての民主党には、そんなひ弱さがあった。小沢代表時代にはその腕力でまとまってきたが、自由にものを言いにくい息苦しさがあった。

 そのどちらでもない、新しい鳩山時代の民主党をつくるためには、代表選で岡田氏が強調した「オープン」がキーワードになるのではないか。

 党内にあっては、ルールに基づく民主的な手続きを重んじる。国民に対しては情報公開を大事にし、説明責任をきちんと果たす。ともに小沢時代の民主党が軽んじてきたものだ。

 自民党に代わって政権を担えるような政党に、民主党を立て直す。それは単に民主党の利益だけではない。失政があれば政権を担当する政党が交代するという、ごく当たり前の民主主義の仕組みを日本に根付かせるうえで重要な意味をもつ。

 そのためにも、岡田氏や支援した議員たちは新体制に協力すべきだろう。

 鳩山民主党の発足で、解散・総選挙をめぐる政局は一気に動きを早める。対立軸を鮮明にした本格的な政権選択選挙を待ちたい。

PR情報