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迷彩服の隣人:やまなし自衛隊体験記/上 教練、体力検定、湖畔1周に怒声 /山梨

 ◇訓練の過酷さ、垣間見た

 県内に陸上自衛隊北富士駐屯地(忍野村忍草)があることは知られている。最近の山林火災でもヘリや隊員が消火に活躍した。しかし、駐屯地の実態は十分に知られていない。「迷彩服の隣人」たちは、日々どのような訓練をしているのか、何を思っているのか、少しでも触れてみようと2泊3日の体験入隊に参加した。【中西啓介】

 「質問は」「なし!」--教場(きょうじょう)と呼ばれる大部屋で迷彩服の教官が問いかけると、参加者たちは一斉に大きな声で答える。初日の座学。ほんの数時間前まで、ただうなずくだけだった参加者たちも、次第に機敏に反応するようになっていた。

 北富士駐屯地は富士北麓(ろく)の標高約960メートルにあり、総面積は約19・8万平方メートル。東京ドーム4個分の敷地に、大砲を運用する第1特科隊や、戦闘シミュレーションで全国の隊員の戦闘能力をチェックする部隊訓練評価隊(FTC)などが所属する。

 同駐屯地は30年以上前から、県内企業を対象に宿泊型の体験入隊を受け入れている。広報担当の佐藤洋志陸曹長(50)によると、自衛隊への理解を深めてもらうことが第一の目的。一方で企業にとっては礼儀作法や規律が学べると、年間5~6社が社員研修に利用する。記者は4月21~23日、スーパー「いちやまマート」(中央市)と衣料品卸販売業「むろい」(同)の新入社員ら計34人と参加した。

 教官となるのは20~30歳代の男女の隊員たち。階級は3等陸曹などだ。

 初日の午前中は11~12人ずつの3班に分けられた。班ごとに2人の教官が付き「基本教練」を行う。行進では「イチ、ニー」という教官の声に合わせ、イチで左足を出すが、なかなか足並みをそろえることができない。待ち受けているのは教官の怒声だ。「てめえ、なめてんのか。ちゃんとそろえろ!」

 こっそり周りに目をやると、高校を卒業したばかりの女性新入社員が青白い顔で表情をこわばらせていた。

 昼食は駐屯地の食堂で。魚のフライ2切れがメーンだった。残してはいけないと頑張って平らげる参加者を横に、教官たちは食べ残しが多い。「ボリュームがあるから全部食うとデブになるぜ」(教官)ということらしい。

 午後からは「体力検定」。腕立て伏せや腹筋運動のほか、3000メートル走のタイムを計る。「自衛隊に雨は関係ない」という教官の一声で、降り出した大雨の中、レインコート姿で一斉にスタート。雨の中の長距離走は体温が奪われやすいため、体への負担が大きく、男女計4人がリタイアした。

 グラウンドの中央では10人程の隊員が銃を持ち、行進と方向転換を黙々と繰り返していた。泥水を跳ね上げる音が40メートル程離れた場所にも聞こえてくる。まさに「雨は関係ない」ようだ。

   ◇  ◇

 2日目は山中湖畔1周約22キロを歩く「山中湖1周行進」だ。前日の座学によると徒歩は「特に戦闘に即応しやすい」そうだ。

 「シャリョー(車両)!」。車が来るたびに、列の先頭や最後尾の隊員から声が上がり、伝言ゲームの要領で前後に伝える。雲一つない晴天だったが、だんだん声が出なくなる。

 湖畔をほぼ半周した正午、富士山を一望できる公園で昼食となった。隊員の携行食、通称「缶メシ」だ。濃い緑色に塗られた缶詰の中身は、マグロの煮付けと薄味の赤飯。たくあんは缶の高さと同じ約2センチに切りそろえられており、かみごたえ十分だった。

 昼食後に歩き出したあたりから、足がつる人や、まめをつぶす人が続出した。「マジきついんですけど」と、悲鳴を上げるいちやまマートの女性社員の足を、同年代の女性自衛官が丁寧にテーピングし、励ましの声をかける。

 やっと駐屯地が見えてきた。すると、教官が叫んだ。

 「おら、走るぞ!」。参加者たちの隊列は「イチ、ニー、イチ、ニー」と声を上げながら駆け出す。だが、「声が小さい。もう1回行くぞ」。結局、約300メートルを2回も引き返すはめに。そして、門をくぐった後にさらなる“しごき”が待っていた。

 「お前ら、3回遅刻した。よって罰を与える。腕立てだ」「イーチ、ニーイ……」「声が小さい! やり直し」--30回ほど腕立て伏せを繰り返すと、多くの参加者は地面にひざをつく。そこに容赦なく教官が顔を近づけて怒鳴り散らす。「お前だけが苦しいんじゃないぞ」「女でもやってるぞ」

 これは行進の最後を締めくくる“恒例行事”だと後に知ったが、訓練の過酷さを垣間見た気がした。

 20歳代の男性隊員は「上官の命令であれば何でもする。そういう訓練を受けてきた」と話す。毎日、厳しい訓練を重ねる隊員たちは、どんな思いを抱いているのだろうか。

毎日新聞 2009年4月28日 地方版

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