初の国内での新型インフルエンザ感染が確定した神戸市では16日、学校間のスポーツ交流を通じて感染した疑いの強い高校生が相次いで現れた。市対策本部が特定した地域では、幼稚園、小中学、高校が1週間休校になり波紋が広がったほか、街では特にマスクを求める市民が薬局に詰めかけた。突然の感染確定と急激な拡大に不安が高まる一方、冷静に対応しようと努める企業なども目立った。【向畑泰司、金森崇之、金志尚、花澤茂人、近藤諭、重石岳史】
兵庫県立神戸高校(神戸市灘区)の運動部と試合をした兵庫高校(長田区)など複数の県立高校の生徒計22人がインフルエンザに感染していることが分かった。少なくとも半数はバレーボール部員で、同市などが遺伝子検査で新型かどうかを調べている。試合などの交流で感染した可能性がある。
兵庫高によると、8日、神戸高とスポーツの交流戦をした。インフルエンザと診断された16人はバレー部やサッカー部などに所属。うち4人はバレー部で、遺伝子検査でその後、新型と確認された。
また、神戸市内の別の県立高校も2日、神戸高校を含む複数の高校のバレーボール部と試合をした。男子部員ら3人がインフルエンザに感染している。兵庫県高砂市の県立高校のバレーボール部も10日神戸高と練習試合をし、部員3人にA型の陽性反応が出ている。
感染が確認された神戸高校の男子生徒(17)が所属するバレーボール部の後輩部員によると、10日に他校と練習試合をした際、既に複数の部員が体調不良を訴えていたという。翌日、男子生徒を含む複数の部員がインフルエンザを発症した。この後輩部員の体調に異変はないが、先輩の感染にショックを受けた様子。「話したくない」と言葉少なだった。
3年の女子生徒(17)は、15日深夜の連絡網で新型インフルエンザ発生を知った。以前から同高ではインフルエンザがはやっていたが、新型インフルエンザを疑う声はなかったという。当面の休校と外出禁止の指示があり、通う学習塾も16日は休みに。女子生徒は「受験勉強もしたいので、学校も塾も休みが続くと困る」と話した。
神戸高の岡野幸弘校長は16日午後3時から断続的に報道陣の取材に応じ、感染が確認された3人について「接点はほとんどないはず。部活が異なり、友人同士ということもない」と話した。同校では今月初めからインフルエンザなどによる欠席者が急増し、全校生徒995人のうち、11日32人、12日33人、13日46人が欠席。14日にいったん減ったが、15日は52人と急増した。うちインフルエンザと診断されたのは計12人という。
今回の事態を受け、神戸市内では16日の高校や中学の各種スポーツ大会が相次いで中止や延期になった。
女子生徒5人が新型インフルエンザに感染した兵庫高の江本博明校長は16日夜、報道陣の取材に応じ、「子供たちが早く回復してくれることを祈るばかり」と話した。この日朝、今月8日にスポーツの交流戦をした神戸高の校長から「うちの学校から疑い患者が出た」と連絡があり、職員を集め、確認作業中だったという。「驚きという言葉しかない。私どもの足元で起こるとは夢にも想像しなかった」と動揺を隠せない様子だった。
大阪府でも16日、私立高校の生徒ら9人の新型インフルエンザ感染が濃厚になった。大阪府などによると、症状を訴えるなどしている生徒は系列の中学を含めて約100人に上る。感染が大勢に拡大している可能性があり、関係者に緊張感が走った。高校の校長は同日夜、感染濃厚の生徒に「頑張ってほしい。学校として最大限守ってあげたい」と呼びかけた。
生徒が通う茨木市の私立高校では午後8時10分から、校長らが記者会見。校長は「予想していないことが現実になり、とても残念だ。これからの危機管理を含めたチェックを徹底したい」と苦渋の表情を見せた。同校では、インフルエンザと診断された生徒が2年生に多かったため、13日、3日間の2年の学年閉鎖を決めた。その学年閉鎖は16日に解除。今回の事態は、2年生が登校を再開したばかりの判明だった。
最初に感染濃厚となった女子生徒(16)は午後8時半ごろ、大阪府豊中市の市立豊中病院に搬送され、感染症病棟(14床)の個室に入院した。病院の説明では、女子生徒は搬送された時、38・4度の熱があったが、話ができて元気という。
女子生徒が住む豊中市は市立小中学校の休校や市主催行事の中止などを決定。浅利敬一郎市長は市民に冷静な対応を呼びかけた。17日、市内の診療施設に発熱外来を開設する。また、私立高校のある茨木市は16日、17日に出発予定だった市立中学1校の修学旅行の延期を決めた。
大阪府では午後8時から、笹井康典・健康医療部長らが記者会見。笹井部長は「準備はしていたが……」と疲れ切った表情で話した。豊中市に隣接する大阪市の平松邦夫市長は「大阪市内で発生したのと同じ認識で対応を」と職員に指示した。学校の休校やイベントの自粛要請などは、17日以降に判断する。
神戸市の中心部・JR三ノ宮駅近くの薬局チェーン「コクミン」三宮センター店では、店員がマスクの入った小箱を並べるのももどかしげに買い物客が手を伸ばし、レジに長い列を作った。最後の一箱を手に入れた同市須磨区の大学教員の女性(40)は「新聞の号外で知り、別の薬局に行ったが品切れだった」と話した。別の店では、10箱単位でまとめ買いするサラリーマンの姿も。同社は、神戸市内の店舗に在庫のマスクを配るため、本社の社員が総出で対応している。兵庫県内では、スーパーへ食料品などの買い出しに駆けつける人も見られたが、混乱はなかった。【武井澄人】
毎日新聞 2009年5月17日 東京朝刊