ハレとケっていうじゃない?
お祭り騒ぎのハレと普段のケ。
じゃあさ?
毎日がお祭り騒ぎだったら、どうなんだろ?
ケがハレで、ハレがケ?
ハレケケハレハレハレケハレ。
ああ、訳わかんない。
ボクは目の前の街中を、のっしのっしと歩く“黒タイツメン(50m弱)”を見ながら
そんな事を考えていた。
フツーに考えれば…だよなぁ。
でもねぇ。
これがこの町の日常なんだよねぇ。
ギリギリギリギリ、ジンジン♪
ギリギリギリジンジンジン♪
ケータイが鳴る。この微妙な着メロは…
ピッ。
『来い』
ピッ。
ギリギリギリギリ、ジンジン♪
ギリギリギリジンジンジン♪
ギリギリギリギリ、ジンジン♪
ギリギリギリジンジンジン♪
ピッ。
『すまん』
「解かればいい、で?」
『あー、頼むわ。シンジ』
「レイ姉は?」
『あー駄目。あいつ今日、神社で巫女さんだ』
「サル姉ェ…じゃなく、アスカさんは?」
『…オンナノコの日らしい。すまん、頼む。
もう、この通り!あ、多分経費でバイト代出るぞ』
「喜ンデ頑張ラセテイタダキマス、オ父サマ」
『…何故棒読みなんだ?』
はぁ〜。今月ちょいとピンチだしなぁ…。
働かざる者、なんとやら、かぁ。うう、めんどくせぇ。
「じゃ、後で」
『あ、出来れば5分以内だとありがた…』
ピッ。
ギリギリギリギリ、ジンジン♪
ギリギリギリジンジンジン♪
ポケットの携帯がやかましい。
ああ、母さん。今日もいい天気ですよ、この街は。
ギリギリギリギリ、ジンジン♪
ギリギリギリジンジンジン♪
なーんーでーもギリギリで
解決すーるーぜ、ギリギリジンジンジン♪
★にゃーの壱★
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ーーーーーーーーーーーーっ」
詰所ではサル…じゃなくアスカさんが
扇風機の前でなにやら呻いていた。
ああ、顔色悪いねぇ。
「…あに見てんのよ」
「いや、まぁ。今日もご機嫌麗しゅう?姉さん」
うわっ!顔最悪だねぇ。
「だーれーの!何ぁーにぃーがッ!最!悪!よッ!!」
って口に出してましたって痛いたいたいたいたぁぁぁーーい!!
微妙に決まっている中途半端なチョークスリーパーを掛けられながら
ボクは先へと進む。ズルズルと、微妙にやる気ない締め技掛けられながら。
まぁ、いつもの事だ。
ああ、プチ苦しい。ああ暑だるい。ああ、背中がムニュっとする。
アスカ姉さんはウチに居候、いやホームステイに来た2歳年上の16才。
本人曰く「天才超絶ピチピチクォーター美少女様」だ。あ、本人曰くですよ。
なんだか全市一斉検査の際、“適格者”として登録されたんだそうだ。
人型土木機械?いや、エヴァ…だっけ、なんかそんなモノの操手に。
今じゃ準地方公務員とやらに登録されて、ほぼ毎日この詰所で
こんな風にダベっっている。つか、ガッコいいんですかい?姉さん。
わりかし実入りのいいバイトだしねぇ。大変だねぇガイジンさんは。円高だし。
実はボクも何の因果か登録されちゃって、良くココでガッコさぼらしてもらってるけど。
まぁ、そんなこんなで。家でもバイト先でもしょちゅう一緒にいるもんだから
このサル、じゃなく赤毛碧眼姉さんは、以来ボクに妙になついて・・・
いや、いやいやいや!日々ボクをイジくって遊んでいるこの欲求不満め。
ふきゅッ。
あ、更に首絞まって来た。
また声に出してましたか?ボク。
あ、耳噛むの止めて変態少女…じゃなくなくなくなく!ギブ!ギブ!ギブ!
チョーク!チョークっす!天才美少女アスカ・ラングレイ(猿)様ぁ!
「おーぅ。ラヴラヴだなぁシンジ。熱いなぁ、このスケコマシ中学生」
「うっさい、ヒゲ。大体後ろからスリーパー決められて耳齧られている
この状況のドコがラヴラヴなんだよ!この無能親父ッ!!」
詰所奥の事務所で、しれっと愛妻弁当なんぞかっくらって居るヒゲ親父が
ヒューヒューなんて凄く嫌な声援を送っている。
「まぁ、乗るなら早くしろ、乗らぬなら」
「帰る」
「あ、嘘ゴメン本当にゴメン!ほ、ほら!この悲痛な助けを呼ぶ声を聞け!」
と、傍らにある無線機のボリュームをMAX。
“あー課長。駄目っす。絶対境界ライン、プチ突破しましたぁ〜。
あー。もう駄目。飲まなきゃやってらんないぃ〜”
プシュ!っと音が聞こえた瞬間、無線機を切るヒゲ親父。
「…な?」
「いや結構余裕?葛城さん、普段通り?」
ずずーっと茶をすするクソヒゲ。
「んじゃリッちゃ〜ん、頼むわぁ!」
と、ちとボクにとっては苦手な…ああ止めて下さいお父様。
ああ。階段の奥から手招きしてるよ、金髪ヤンキーが。
「……………」
ああ、無言だよ…あ、首で“来い!”って合図してるよ。お母さん市長だからって抑圧された更年期反抗期って…
あ、ハイ。只今参ります輝くようなブロンドがお似合いのお姉様(眉毛黒)。
いやだから、さっきから首緩めたり締めたり微妙に生殺し止めて下さいアスカ様。
あ、以外に胸あるんですね、ああ、そんなにムニュムニュ動かして悩殺ですか。
はいはいボクドキドキですよ、ええ。……暑苦しい。
降りる階段、前にヤンキー後ろに生理発情猿。
視線で射抜かれ、背後で甘噛み。
母さん。ピンチですね、ピンチーです。
★にゃーの弐★
『んじゃ今日のお仕事を説明すっからよく聞けこのクソ餓鬼!』
「あー。行き遅れヤンキー」
『なんだとオラァッ!』
「うそごめん、たなびくブロンド・アーンド泣きボクロがセクシイな悩殺美女、リツコ姫」
『わかればいいのよ、シンジくん』
地下の冷房が良く効いた、通称“発令所”からリツコさん(四捨五入30歳ヤンキー)の声が
無線機から響く。ちゃんと喋ってくれるのは、まぁクーラーのおかげだと思う。
まったくこの低血圧更年期障害ヒステリックヤンキー(独身30歳女)め。
『聞こえてっぞ!ゴラァァァーーッ!』
「ごめんなさい猫背市唯一の天才美女リツコ姫」
『解かればいいのよ。では今日のお仕事。えー、絶対境界線をプチ侵犯している
来訪者様を、とっとと海の方まで追い返しなさい。そんだけ』
「あー。リツコ姫」
『何かしら?シンジ君』
「…ブチ殺していいですか?あのタイツメン」
『絶対駄目!良いこと?あれでも貴重な観光資源なんだから丁重にお返しするの。
気持ちは解かるけど、駄目よ。…殺さない程度に息の根止めなさい』
軽く無理を言う姫。
ここでおさらいです。
何年か前。確かボクが小学校の時だったと思う。この街の地下から、まぁどでかい遺跡が発掘されまして。
それと同時になんか訳のわからんものが世界から突然、そう突然この街にやってこられるようになりましたんです、はい。
んで。
えーっと確か、ですね。その当時はまぁ大騒ぎだったんですが、なんですかね?いろいろ調べた結果
“本当はあるべき目的のブツ”
とやらが無いらしく、えー当時は“使徒”、今は“来訪者”とか呼ばれている奴等ですが
それ以来、特別ヒトに危害加えるわけでもなく、何するわけでもなく
この辺に頻繁に現れてはうろちょろうろちょろしているらしいんです、ハイ。
で、もう訳わからんで学者さん達サジ投げたっぽくて。
さてどうしましょう?
って所に今の市長さん、ヤンキ…いやいやいや
セクシーリツコ姫のお母様であらせられます偉大なる赤木市長様が
“じゃ、ウチでなんとかしますんで”
と名乗りでまして。そんで特別助成金なんぞ国や国連やらからせしめまして。
んでもって街整備してちゃっかり観光資源なんぞにしちまったんですよ。
そういやね。昔母さん、言ってましたよ。
“たぶん、あの子達も観光に来てるんじゃ…ないかしら?”
以上、おさらいでした。
ってか中学生にこれ以上詳しい説明期待せんといて。
「あー、姫様」
『なぁに?王子様…つか長いモノローグだな、ゴラァ!』
あー。また喋ってましたか。すまんこってす。
ついでに言わせていただくと今ボク。なんかコクピットっぽい所でスタンバってます。
えーと確か、遺跡掘り返してる時に、なんかですね、色々使えそうな“ロボ”が3体も
発見できたっぽいんです、ハイ。なんかその後いろいろ勝手に弄くって
とりあえずヒト、乗れるようにしちゃったらしいですゴイスーですねエブリワン。
名前はエヴァン…駄目、舌噛みそう。ああッ!オマエなんか“ロボ”だ“ロボ”!
その“ロボ”にですね、乗るには資格っつーか、適性?そんなものが必要らしくて。
ちなみにボクその資格持ってます。なんか予備っぽいですけどね。
えーっと、正資格持ってんのは、従妹のレイ姉さん(無愛想不思議っ子)と……。
…あ、そうそう。思い出した!そうだそうだ、なんか今、後ろでボクの首吸い付きながら昼寝してる猿!
「…あのですね」
『だから何?』
「えー、コックピットって、一人乗り…ですよね?」
『だから?』
「えーっと。なんでしょうか?後ろにですね、発情赤毛猿が…」
ガブッ!
痛いたいたいたいたいたぁぁぁぁぁぁーーーい!!
『我慢しなさい。男の子でしょ?』
「イヤ、痛いですって!!寝た振りして絶対起きてますって!後ろ!後ろ!」
『まぁ、とりあえず発進?はーい、ポチっとな!』
相変わらず慣れない、ものすんごいG。
猫背キャットランド(公営)のハイパーデンジャラスコースター(猫型)の
約50倍(当社比)の加速の中、軽く気失いそうになりました、ハイ。
その時、なんか後ろの方で「…やっと二人きりね。さぁ、あんたの童貞捧げなさい」なんて
多分聞こえません、ええ、聞こえてなんかいません。絶対後ろなんか振り向くもんか!
あ…緩衝LCL…だっけ?
微妙に血の味が……。
あ、そっか。
オンナノコの日…って痛い痛いいたいたいたいたいたいたぁぁぁぁぁぁぁーーーーい!!
★にゃーの惨★
えー、みなっさぁまぁ。あちらをご覧くださっぁいまっせぇ〜!
あっちらが当猫背市の誇る人型決戦…いやいや警備ロボ
エッバァァァーーーンギュエリォオオオンっでえ、ごっざいまぁーーっす!
はーい!シンちゃーーん!やっほーい!
偉いぞーーーぅ!お仕事御苦労っぁんねぇーーーーい!
さぁ皆様!今日は当り!当りですよぉー、お客さん!
めーったに見れない!血沸き肉踊りまくりなショーのはじまりはじまりぃーッ!!
さぁ行けぇぇーー!いーけ、いーけ、エンヴァンゲェーリォォーーン♪
どーんとぉいいいけぇぇぇぇぇーーーーーーッと♪
…ああ、踏み潰してぇ。
気ィ失う寸前だったGと背後からのプレッシャーでふらふらフリクリなボクの足元で
今、ただのヨッパライ・・・・えーっと葛城さん?いや、牛!お前なんか牛だ!
…が、職務蹴飛ばして観光客にアナウンスしてますよ。
ああ…プチっとしてぇ。真っ赤なトマトにしてぇなぁ。
『シンジ君。聞いてる?』
「リツコ姫」
『なぁに?』
「下の牛、デストロイしていいすか?」
『ああ。周りの観光客の方々が邪魔ね。あとでゆっくりと…ね?』
「…チッ。まぁいいです、でどうしましょうか?」
目の前に黒タイツメンが居ます。
なーんかね、微妙ですがあの観光資源、妙にヤル気マンマンでないですかい?
そいつがね、絶対境界線のあっちとこっちで反復横飛びしてますぜ。
あ、絶対境界線っていうのはですね、なんですかこの線越えたらアウト、ブチのめすからOK?
っていう不可侵ライン・・とかいいましてね。まぁそんなもんがあるんですよ、この街。
あ、こっち来た。
あ、向う行った。
なーんかあの無表情な仮面・・・笑ってるみてーだなぁ、オイ。
誘ってんのかぁ?コラァ。
『あー、シンジ君』
「なんだい?レイディ」
『いや貴方、エヴァ乗ると微妙に人格変わらない?』
「そんなことないぜぃ!イヤーーーッハァ!!」
『…まぁいいわ。ところで貴方、同調(シンクロ)まだなんでしょう?』
「あ、まだしてねーっすわ、イエーイ!」
『シンクロ無しでこの操作・・・まさに貴方って』
「なんか言ったかい?ベイベーーー、ホッホーイ!!」
耳元で「素敵…」なーんて熱い声がするぜぇ!
そうさ、俺ぁーな、今サイコーにイカしてるぜぇ!
今夜は眠れると思うなよォ!マイハニーアスカ!!
ヒャッホオオオオーーーーーーーイ!!
『内圧・・・70に上げて』
何か言ったかぁ!イヤーーーーッホゥ………
……………………………………………
…………………………………………
…す…みま…せん……調子……
こ…いて…ま…し……た…………。
『解かれば結構…内圧正常値に』
…ああ、なんかお花畑が見えましたよ。
母さんがニコニコ笑いながら手振って…いや、死んでないけど。
あ、後ろ軽くなった。本当に寝たな、サル。
『あなたやっぱり“酔い易い”のね…流石だわ。まさにエヴァに乗るために…
ああ、惜しい。14才でなければ……特例で正規登録しちゃおうかしら?』
「なんか今、さらりと物騒な事言いませんでした?」
『まぁいいわ。さっさとシンクロしちゃいなさい』
「はぁ…また“アニキ”とお話すんですか?だるいなぁ」
『気持ち解かるけどあなただけなのよ。その“特殊技能”持ってるのは。
一応万が一、って事があるから、念の為さっさと同調しちゃいなさい』
「はいはい…えーっと、あ!?」
一瞬、ゾクっとしました。この感じ…ひょっとして。
えーっと、あ、そうそうズーム、ズーム、ズーム×100っと。
モニタが切り替わります。んーすごいっすねこのレンズ。あ、ニコンっすか。
アスカ姉さんのは確か…ツァイスっすよねあれもイイなぁ…んじゃなくって、ズーム、イン、昼!
向うの山。参道。神社。境内。人だかり。巫女さん…ああ…やっぱりか。
水色の髪、しろーい肌、あかーいあかーーいおめめ……ああ…レイ姉さん。
この顔だけは…“だけ”は良い、まるでアスカ姉さんと五十歩百歩な不思議っ子め。
えーっと、何か言ってますね?
えーっと…し、ん、ちゃ、ん、すてき?
シンちゃん素敵。
もう愛してる。
でも負けちゃだめよ。
負けたら逆さ吊りして
吸うから。
「はい!リツコ姫!もう張り切って同調しちゃいます!もう一生懸命っす!はいッ!!」
『…どうしたの?』
いえ、あのですね。本当に吸うんですよ。
マジヤバイ、激マジで生死ボーダーっすよ。
「いってきまぁぁぁぁぁぁーーーーす!!」
そしてボク。溶けました。もう、とろりと。
あ〜、またこの部屋に来ちゃったよ。
赤い夕日に照らされた
六畳一間のアパートで
ボクの帰りを待っている
“アニキ”
ちゃぶ台の前で胡坐をかく。
“アニキ”
さぁ、来たよ。
今日はどんな話をしようか?
★にゃーの詩★
あーかい夕日に、てーらされてー♪
六畳一間のアパートでぇー♪
兄貴、兄貴、兄貴と二人♪
アニキ、アニキ、アニキとボク♪
「あー、なんでぃすか?シンジ君、その歌は?」
「いや、この部屋のテーマソングをですね」
「そんな耽美で誤解受ける歌はやめときなさい」
「すまんこってす、アニキ」
部屋。六畳一間。畳敷き。ちゃぶだい。
ボクと“アニキ”は西日の照らすその“部屋”の中でカップラーメンなんぞをすすっています、今。
ずるずるーってね。…ゴチでした。ゲフッ。
ああ、なんてメルヒェンな光景なんでしょうね。
ちなみにアニキのカッコ…まんまエヴァ、いや“ロボ”です。
ボクと同じくらいよか少し背の高い“ロボアニキ”が
すんごくめんどくさそうに尻掻いています。びっくりするほどファンタジー。
「えーっと、この前何処までお話したっけか?」
「確か“ブツ”喰っちゃたトコまでっすね、アニキ」
「あー、そうそう」
ヤカンから茶を注ぎ、ズズっと飲み干すアニキロボ。
「まーつまりだ。結局腹減ってたんだな。で、喰っちまったんだよ。例のブツ」
「食いしん坊っすねぇ。だから“無い”んですね、アニキ」
「まーなぁ。今外うろちょろしてる奴等も、元はといえば…」
ずずーーーっ。
「俺が産んじまったようなもんだしなぁ」
ずずーーーっ。
シャコン、シュボッ!
すぅ〜、すぱぁぁぁぁ〜。
何処からか取り出した煙草、一服するロボ兄貴。
灰皿に、とん。
「んじゃ、始めっかぁ…あ、シンジ。背中頼むわぁ」
ボクはいつものように・・・“アニキ”の背中のチャックを開ける。
ジィーーーーーっ。もわぁ〜…うう、汗くせぇ。
「ほれ」
足のつま先までロボの着ぐるみを脱いだアニキ。
めんどくさそうにその漢臭い着ぐるみをボクに差し出す。
頭に手ぬぐいを巻いたアニキ。
ボクと同じ黒髪。
ボクと何処か似ている顔。
ただ目が…ね。
赤と黒のオッドアイ。
「ワタシはヘドロっ、ヘドロォ〜♪好きな色は、赤ぁーと黒っ♪
レッド&ブラァーック!レッド&ブラック!赤は血の色、黒は罪の色ぉ〜♪っと」
オー、レイッ!…と年代的にどうよ?って鼻歌交じりで煙草咥えて
ボクが着込んだ着ぐるみのチャックを閉めてくれるアニキ。…ってプリンプリン物語、リアルで見てましたか?
「よっし・・と、んじゃ行って来いや、シンジ」
「あー、いつもすんませんねぇ…あ、アニキ」
「んあ?」
「前から聞こうと思ってたんスけど…名前聞いてなかったっすよね?」
「あー、そうだったっけか?」
手ぬぐいで額の汗をぬぐうアニキ。
すー…ぷはぁ〜…っと一服。そうだのぉ、と腕を組む。
「うーん、ナギサ?ナギサ・シ…あーもうめんどくせぇからクロでいいや。
そう、クロ。ほら、髪の色、クロ!」
「あーそれ。ボクも同じっすけどぉ」
「まぁ男が細かい事言うなや。ほれ、行って来い!」
どん!とボクの背中を押すアニキ。
…まぁいいや、行ってきまぁ〜っす!
がちゃっと部屋のドアを開ける。
その先は漆黒。
彼方に小さな光が見える。
そこまで歩いていけばいい。
ただひたすらに。
「“あなたのね、思った世界、そのものよ”…うーん。いまいち?」
うしろから変な句が聞こえた。
そんな気がした。
★にゃーのGO!★
『あーシンジ君。シンジ君?…おーい…
返事しろやゴラァァァァァァァァァァァーーーッ!!』
「くっ…くくくくく…ククククククッ!」
『おーい』
「お前らはもうお終いだ、お終いだよ、人間(ヒューマン)」
『えーっと』
「小便は済ませたか?神様にお祈りは?
街の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はオーケイ?」
『…内圧』
「うそごめん姫様!プリンセスリツコー!シンジです!
従順で愛くるしいみんなの愛玩、いや哀願動物シンちゃんですッ!
帰ってきました!皆様のリクエストにお答えして、シンジ君SP、爆!誕?」
『…あんまり変な漫画ばっかり読まないようにね』
こんどやったら、クロムウェル発動するわよ…うふふ。って
ああ、そんなリツコさんが好きだ。そんなリツコさんが大好きだ。
んじゃ、サクーっとやっちまいましょうかねぇ。
覚悟しろや、この観光資源。
汝の腕は我の腕となりて
汝の足は我の足となりて
汝見るもの、我が見る。
汝の生、我の生
汝の死、我の死也。
なーんて感じっすか。はい、同調(シンクロ)してます、ボク。
ちなみにコックピットの中ですが、今赤毛猿姉さんがプカプカプカリと漂っています。
ってか早い話、お昼寝お猿さん以外、誰も居ません。
つまりですね。
溶けちゃってんですよ、ボク。
って事は何かい?今ボク、背中に「 猫 背 市 」なんて極太明朝体で
でーっかくマーキングしている“ロボ”、そのものですかい?
あああ!すげーかっこ悪い。だってまんま猫背だし、猫背ロボ。
『シンジ君。まったりしてる所悪いんだけど、来たみたい』
ああ、来た。来ましたねこの観光資源タイツメン。
ほうほう、やる気マンマンじゃねーですか、このおんぶオバケ。
ジャブ、ジャブ。ストレートストレート、、ジャブジャブ。
おお、いいコンビネーションじゃねーかい、世界獲ろうってのかい?ジョー。
ピッチピッチジャブジャブ、ランランラン・・・と。
はい隙有り。
「JUDOチョップ!ジュードーチョップ!柔道チョップ!」
※柔道チョップ/とても卑怯な禁じ手です。良い子の皆さんは真似しないでね。
【猫背市観光パンフ・GO!GO!エヴァの項より抜粋】
あ、結構効いてる。やっぱ弱いなコイツ…っと見せかけてフェイント回し蹴り!
はぁーどっこいしょー…と。・・そんなんじゃ世界獲れんぞ、ジョー。
せぇーの。
「空手投げ!」
※空手投げ/かなり卑怯な(中略)。でも伝説のショー松尾の得意(略)
【猫背市観光パンフ“松尾象山いいじゃねーか牛殺し”より抜粋】
うわぁ・・・腰打った?痛そーだねぇ・・ごめんねぇ。
んじゃ止(トド)め。そぉーれっ!
「ボクシングキック!ボクシングキック!ボクシングキック×15!」
※ボクシングキック/別名・ヤクザキック,愛称・長渕キック
【猫背市観光パンフ“Oh!浪花のキャプテンシップ”より抜粋】
あ、動かなく…なっちゃた?てへッ。
『あーシンジ君?やりすぎ』
やっぱり、ですか?てへへ…。
「てへへ!じゃないわよバカシンジ!って・・・ドコ!?
アタシにチェリーを捧げる愛しいバカシンジはドコ!?」
…起きたか、猿。ってゆーか何勝手にボク様のチェリー奪おうとしてんの?
『うわぁ〜シンちゅわぁーん・・・お客さん引いてるよぉ〜う』
あー…五月蝿い足元の牛!牛!牛!もう一回ウシッ!
『ちゃんとフォローしときなさい、シンジ君』
「あー見えない!ドコ行ったの!?バカシンジィー!!」
『あっちゃー・・シンちゃん。お客さんブーイングだわ』
『まったく・・街が一つ傾くわね。困ったものだわ』
「シンジィィィィーーー!どこぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
『もう嫌、飲む。飲みまくり。けってーい!ぷはぁーっ』
『シンジ。母さんが今日の夕飯コロッケでいいか?って』
「ねぇッ!ワタシを見て!ワタシを見て!シンジィィィィ」
『…やっぱり素敵。今夜沢山吸ってあげる』
誰が何言ってんだかわかんねーよ!このヤンキー!猿!ウシ!
ああコロッケ最高だよ!ってなんでお前割り込んでくんだよヒゲ!
ってどっからテレパシー送って来るんだよ!この不思議少女気取りッ!!
『あ』「いぃー!?」『ぷはぁ…う?』『え!?』『…ぉ』
うん。油断していたね。
多分、調子に乗っていたんだと思う。
一瞬だった。
奴が。
手から光の槍を振りかざし。
胸を……ね。
ってあっぶねー!あっぶねーーーっ!プチ刺されたじゃなかったですかい!うわーうわー!
尻餅かよ…うわぁーーカッコワルーイ!あ…驚きビックリで実体化してやんの、ボク。
「あーいたたたたたた…あ!シンジィィィィィィーーーッ!」
「うわっ!猿…じゃなかったギブギブ!美少女アスカ姉さん!ギブ!」
いきなり赤毛姉さん、抱きついてきました・・・・あ、そこ頚動脈、あふッ!
「ドコ行ってたのよ!…って…アンタ」
「うぇ?どしたん?アスカ姉さん」
「何?その髪!半分銀髪…………………………………………
…………………………………………………………じゅるりッ」
姉さん。何ですか?そのケモノのような舌舐めずりは?
母さん、外にも中にも敵がいます。渡る世間はオーガばっかりですよ、母さん!
「いいわね…アンタ」
「はぁ。ありがとうございって、何!?なんでそんなに目が怖ッ!」
なんかですね、LCL液の中なんですけどね、それでもはっきりと解かるくらい
濡れた唇がね、近づいてくるのがですね……うわぁぁぁぁぁ、不思議発見!
「さしずめ今のアンタ…スーパーマンなシンジ?略して…」
「駄目っす!略すと色々問題大有りっす!大蟻名古屋は城で持つって違ッ!」
「スパシ」
「ボクをその名で言うなぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」
ぶちゅっとな。
れろれろ…れろれろ…ぐちゅびちょ(コード限界)…れろり。
くぱぁぁぁ〜…っと。
「ごちそうさまでした。うふっ」
「汚された…お約束っぽい台詞だけど、汚された……あ!?」
あれ?あれれ?なんかですね。
口の中にこう…鉄の味…あれ?これって…?
血?
「あー、ちょっと口の中切ちゃったみたいねー…オイシかった?」
姉さん…頭からも。
「あ、本当!?あちゃー…まぁこれくらい舐ときゃ直…」
僕は、その頭を抱き、傷口を舐めた。
「ちょッ!?ど、どーしたのよ…そんな、いや嬉しいけど心の…きゃふっ!」
痛かったかい?痛かったよね。
御免…僕のせいだよね……アスカ。
「アンタ…髪。黒く……いつもより…まるで闇…」
ああ、そうだね。アスカ。
アイツ…許せねぇよな、なぁ?
「目…赤い…黒い…シンジ!?」
どうしたんだい?そんなに可笑しいかい?
ああ、可笑しいか?そんなに可笑しいか?
僕は君の……
俺はお前のものだ。
だから、なぁ、いいよな。
あいつ、やっちまっても、いいよな?
「いや、あの。別に…いいけど」
俺は今、どんな顔をしている?
ああ、笑ってんなぁ、俺。
おい、どうしたんだ?
お前だよ、黒いの。
さっきまでの元気はどうしたんだ?おい…
豚。
おい、逃げんなよ、豚。
なぁ…やろうぜ。なぁ…おい、もっとやろうぜ?
なぁ……殺りあおうぜ、おい、豚。
逃がすものか、餌。
★にゃーのロック!★
『シンジ君?シンジ君!?』
「シjンジ!どうしちゃったのシンジぃ!?」
誰かが何か言ってやがる。
『ちょっとシンジ君!駄目よ!相手逃げ腰!境界線向うよ!何してるのッ!!』
いや、もう何も聞こえねぇや。
「リツコ!シンジがッ!ものすごく変!もう疼くくらいにって何言ってんのアタシ!?」
そ れ じ ゃ 、 謳 う か 。
|
||
『落ち着きなさい!アスカ!どうし…』
“ そ ん な に 夜 が 恋 し い な ら ”
|
||
体に力が満ちてくる。
背中に集まる力。
ああ、爆ぜそうだぜ。
“ 添 い 寝 す る が い い さ ” |
||
ああ、ああ、来た。
そうだ。そうだ、そうだ、そうだ、そうだ!行け!突き破れ!
見せてやる出してやるぶちまけてやる千切ってやる、やる、ヤル、殺る!
“ そ し て ”
|
|||
本当の狂気って奴を見せてやる。
“ 喰 わ れ … ”
|
||
『お〜い、シンジぃ!』 |
||
ゴスッ!
多分、“ちゃぶ台”だったと思う。
そんなもんが、頭を直撃したような…気がする。
「ったく。こーんなトコばっか俺に似やがって」
俺は…僕は…ボクは………………………………
…………………………………………
………………………あ?
あれぇ?
何?何?えっ!?
ちょっと待った!…あ、猿。
ドス!
いたいです。アスカお姉様。
あ…ちょっとちょっとまた締めですか!あ、駄目!次ヤラレタラ確実に落ちます!
駄目駄目駄目駄目駄目ェェェぇぇぇーーーーーー………え?
あ…その。あのですね姉さん。あの・・・柔らかいっす。
「馬鹿…バカァ!」
「あ、あのぉ〜ですね、姉さん」
「ぐすっ…何よっ!」
「えーっと、その、黒タイツメンは?」
「とぉーっくに逃げたわよ!…もぅ」
あー、ほんとだぁ。すんげー足はえーんでやんの。あ、海へダイブ。バッハハーイ。
君ね、格闘家なんか止めてね、走り専門で行きなさい。
うん、きっと世界記録更新さ。そして泪橋を一緒に渡るんだジョーって、誰とだよ。
「ところで姉さん…あ、えと。泣いてる…っすか?」
「…ぐすっ。…ええ、ええ、ええ!ええ!泣いてるわよ!悪いッ!?」
「いや、まぁ、その…なんというか」
「何よ」
「そんなプレイも、新鮮?」
かぷりんこ。
痛い。すんごく痛い。
首…もう千切れそうって痛い痛いいたいいたいたいたいたいたいたいたぁぁぁぁぁーーーーいッ!!
『あー、お約束だけど一応言っとくわ……………無様ね』
いやお約束いいから血が出そうなくらい……って
痛いたいたいたいたいたいたいたぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!
★にゃーのナナナナナ★
ボロロ〜ン♪
1.
土手の向うで泣いていた
可愛いあの子は 猫だった
ニャー!ニャー!ニャー!ニャー!
ネコネコDance!
猫街慕情ォ〜♪
2.
可愛いあの子は女子高生
声を掛けたら 猫だった
赤缶 金缶
カルカン フィーバー!
猫街慕情ォ〜♪
「あー、これ何番まであるんすか?」
「…十番以降の記憶がないわ」
「市長…お母様は何考えてるんすか?」
「知らないわ。ロジックじゃないもの」
いや全然意味わかんねーし。
夕暮れの詰所では、既に皆夕暮れロンリーでした。更にロンリーさを際立たせる曲が有線から流れてるし。
何で?…何でこの番組オンリーでエンドレス…。ああ母さん…コロッケ美味しいですかね。
えーリツコさん…下に降りましたね。ああ、溜息交じりっすか。
つらいですね、特に夜の一人寝が染みますよね、30で一人身って何かと
…って、ああ何でもないです!お願いだから暗闇から睨まないで無言でッ!
えーっと葛城さん。なんだかんだで潰し損ねましたあのウシ。
宿直室で高イビキふらりくらり夢の中ですよ。ええ夢の中へ逝って見たいと思いませんよ。
だってさっき、耳元で囁いてきましたから…“フナムシ菊水一番絞り”って。
悪夢に喰われろ。ってかさっき、うなされてたんでマーヴェラスですねマーヴェラス。
あ、責任者のヒゲですが。とっくに帰りました。
いえ全然大丈夫っすよ。だってさっき母さんに“お父さん…ボクを捨てて”って
電話しておきましたんで。うん大丈夫、今夜はデストロイナイツっすね!
で、猿ですが。
「……………………………」
ボクの背中で寝ています。首齧りついたままで。いやもうね、痛みなんてとうにピーク過ぎてますよ。
ほらボク、ピチピチの14才ですから…………痛てぇ。
さて、なんか忘れてるような気がしますが帰りましょうかね。今日はボクの大好物なコロッケですんで。
ヒゲが殲滅されるのを肴に、有終の美を飾ろうか、ってね。
んじゃ猿!…サール!……噛む力強くなんないって事は、爆睡ですね。
えーこほん。んじゃアスカ姉さん……うえーっほん。ごほん。
アスカ、帰ろうか。
げふんごほんげほん。まぁ、いいじゃん。たまには。
「んじゃ!失礼しまぁーーーっす…って、誰もいないけど、ま、いっか」
ガラガラガラガラ………………………。
………………………………………。
「………シンちゃん」
…いや、こんなオチじゃないかって思ってたんですけどね。
ああ、そうだ。この蒼い天然さんがこんな美味しいシチュエーション逃がす訳ないんだ。
ああ・・はいはい。バイトご苦労様でしたね、巫女姿カワイイーですね。
素敵ですね、ステッキーです…いや、もう帰ろうかと思って…。
「……今日は、素敵だったわ」
「いやぁ!有難うレイ姉さん!会えて嬉しいよ・・・それじゃ」
「……シンちゃん」
ってなんでマンツーマンブロックしますか?
「いやあのね、もう帰らないとコロッケが」
「……ご褒美、欲しい?」
ああああああ……相変わらず噛みあわねぇ!
「いやいいです!もったいないです!ええ、ええ!また今度日を改め…」
「……何でそんな事言うの?」
軽く寂しげに俯きましたね。ああ、相変わらず結構いいトコ突きますね。
さすが天性のハンター…逃げられる……か?
「いや…あのねレイ姉さん、そんな悲しげな顔しなくても、ね」
来るぞ。
「……こんな時」
来た。
「……どういう顔をすればいいか解からないの」
笑ってるじゃないですか!って怖っ!
そのトオボエオオツチグモ(オーストラリア産・鶏捕食・タランチュラ)が
今にも捕食しそうな凄絶な笑顔止めてッ!!怖いよレイ姉さんレイ姉さん怖いよ!
止めッ!吸わないで体液吸わないで姉さん!ってアスカ!ああこんな時になんで意識ないんだよッ!!
助けてよボクをたすけてよアスカってあああああああああああああーーーーーッ!!
はふぅ。
・
・
・
19.
おのぉーれ おのれ と叫ぶひと
ベルクカッツェは 山猫よ
今にみておれ
ガッチャメーン!
猫街慕情ォ〜♪
20.
世界で一番 猫が好き
そんなに好きなら 猫になれ
ぼくの…ぼくの気持ちを
裏切ったなッ!
猫街慕情ォ〜♪
ボロロ〜ン♪
猫街慕情ハレ日和
襲撃,じゃなく終劇 。
〈劇中歌〉
― 猫街慕情 ―
作詞/赤木ナオコ 作曲/日高マコト
歌/Sigeru☆BlueLeaf