【社会】高速1000円、勝ち組なし? 「目的は走り」経済効果疑問2009年5月16日 夕刊
麻生政権が鳴り物入りでスタートさせた、上限1000円で乗り放題の地方圏高速道路の休日割引制度。導入から1カ月半が経過したが、初の大型連休中には、10キロ以上の渋滞が昨年の倍となった。金子一義国土交通相は14日、記者団に「利用者が増え、経済効果もあった」と胸をはった。一方、高速道路会社の関係者は「渋滞の発生状況を予測しにくい」と頭を悩ませ、観光地などへの経済効果については専門家から「疑問」との声が上がっている。(社会部・黒谷正人) 中日本高速道路会社は制度導入後の土日や祝日の東名高速名古屋インターの車の出入りを分析している。まだ詳細な結果は出ていないが、同社は「連休中は100キロ以上の長距離利用が急増した可能性がある」とみる。 同社によると、連休中の高速利用率は前年比12%増。渋滞はふだん起きない地点や時間帯でも生じた。「深夜割引ではないため、好きな時間を走る車が増えた」と渋滞時間や場所が分散した要因を分析し、夏休み以降に備えて渋滞予測や対策を立てる方針だ。 高速バスを運行する名鉄バスは「渋滞で例年よりダメージを受けた」と言う。30分程度の遅れは連休中には例年の2倍以上に。「いつどこで渋滞が発生するか読めず、定時運行に影響が大きい。方策はないものか」と、公共交通への影響を深刻に受け止めている。 こうした声を受け、国土交通省の春田謙次官は14日の会見で、お盆や年末年始をにらんで「平日にも割引を広げないとまずい」と述べた。 観光地への影響はどうか。名古屋から250キロ離れた富山県氷見市の氷見フィッシャーマンズワーフ海鮮館。連休中は東海北陸道や能越道を利用した車が、160台の駐車場しかない施設に1日2000−3000台押し寄せた。4割は東海地方から。渋滞と違法駐車で苦情が殺到し、地元中心の「安・近・短」観光地の客層が一変した。「これだけの人出は予想外」と同市商工観光課。急浮上した駐車場問題について、同館は県と協議を始めた。 一方、「効果が顕著に出たかは分からない」と漏らすのは、高山市観光課だ。連休中の東海北陸道飛騨清見インターの利用は20%増だったが、旧市街地へのマイカー流入数は前年比1・14%の微増にとどまった。 車であふれたとはいえ、同海鮮館も「駐車場での車内泊も多く、来場者の多さと財布のひものゆるみは比例しないようだ」と話す。 「連休中の高速利用増は、実際に割引がどういうものか試してみようとした行動。本格的なレジャー志向というよりは、走ること自体が最大の目的で、人の動きが経済効果に結び付いていない」。桜花学園大観光文化学科の森川敏育(としやす)教授(64)は、そう分析する。 制度がスタートした3月末からの実情を見た名古屋大大学院環境学研究科の森川高行教授(50)は「緊急不要の交通政策で経済効果も疑問」と批判的だ。5000億円の税金導入を念頭に「バスや地下鉄などの公共交通機関を安くして都心に人を呼び込んだ方が、公共交通のサポートにもなり、ずっと効果も大きい」と話す。
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