新型インフルエンザは水際では防ぎきれない。それは発生当初から指摘されてきたことだ。
渡航歴のない感染者の確認は、十分に予想されたことで、他の地域でも人から人への2次感染が広がっている可能性を示している。今後の感染拡大を見越して、検疫に重点を置いた水際対策から、国内の体制整備に軸足を移す時だ。
今回の新型は、多くの人にとって季節性インフルエンザと同程度の症状にとどまっている。その点では恐れることはなく、冷静な対応が大事だ。ただ、秋冬に向けて変異することもありうる。ほとんどの人に免疫がないため、重症者が多く出る恐れもある。感染拡大を防ぐ基本対策を国も個人も組織も、徹底したい。
重症化の恐れがあるのは、慢性の呼吸器や循環器の疾患、糖尿病、免疫不全などの持病のある人たちだ。妊婦もリスクが高いと考えられる。季節性と違って、健康な若者の中にも重症化する人がいる。
今後、こうした人々の感染防止や治療をどう進めていくか、具体的に考えなくてはならない。その際に重要なのは医療体制の整備だ。
感染者が増えてきた場合に、現在の発熱外来で確実に対応できるか、再点検してほしい。病院を感染拡大の場にしないよう、十分なシミュレーションが必要だ。発熱外来だけで対応できなくなった場合のことも、早急に考えておきたい。
感染者が確認された地域で学校などを休校にすることは、国内感染者が確認された初期の段階では妥当な対応だろう。ただ、新型対策は、健康被害を防ぐと同時に、社会機能を混乱させないことも重要であり、バランスのとれた対応は欠かせない。
学校や保育所を臨時休業にすることに伴い、保護者の勤務に支障が出る場合もある。そのための手当ても、地域や職場で考慮しておくことが必要だ。
新型対策は、国と自治体で役割分担されている。地域の実情に応じた自治体の対策は重要だが、そのための基準を示す責務は国にある。変化していく状況に応じ、迅速な対応が国には求められる。自治体同士の連携も重要だ。
国は「感染が疑われる人は、発熱相談センターに連絡を」と呼びかけている。ただ、発熱やせきの症状があっても、「新型」を疑わずに直接病院に行く人もいるだろう。国は、個人の行動と医療機関の対応をセットにして、きめ細かい指針を国民に示してほしい。そうでないと医療機関も混乱する。
国民が政府の指針や医療体制に安心感を持つことで、混乱を防ぐことができる。それが、全体の被害を抑えることにもつながるはずだ。
毎日新聞 2009年5月17日 0時17分