「馬鹿言わないでよ、赤ちゃん産むのだって無料(ただ)じゃないのよ!
できちゃったものはしょうがないって、そんないい加減な出たとこ勝負な台詞が
今どき通用するって思うの?」
女の子は、顔中を口にして思い切り男に向かって怒鳴った。
「屈辱的」な目にあった怒りも一緒に叩き付けられるからたまったものではない。
「で、でもさ、できちゃったものはできちゃったんだし。だから、僕ら結婚しようよ」
二人はたった今、産婦人科から出て来たばかり。
しかも女の子は誰もが知っている学校の、有名なセーラーの制服のままだ。大胆不敵というか無用心というか。
「冗談じゃないわよ、あたし幾つだと思ってんのっ?! あたしの輝かしい未来はどうなんのよ!
ぜ〜っったい堕胎(おろ)すかんね!子供なんか大っ嫌い!」
「ア、アスカぁ・・・」
「うるさいわねっ、さっさと車だしなさいっ」
バドム!
リムジンのドアが閉まると二人を乗せた超高級車は、滑るように発進した。
居候は甘い夢を紡ぐ
第一話
「うーん、子供がいたり結婚したりしてても奨学金は出るか?それはかなり厳しいんじゃないかな」
ちょっと相談があるからと言われて生徒指導室に連れ込まれた3年A組担任は難しい質問に頭を悩まし
続けていた。普通と逆じゃないか?
「奨学金制度がそういった成績以外の要素で恣意的に運用されるのっておかしいんじゃないですか?」
目の前にいるのは学級委員長にして学年委員長の惣流・アスカ・ラングレー。金毛碧眼恐いものなしの
女子生徒である。とびきりの可愛子ちゃんで優等生で、人望もあってスポーツ万能。親は大金持ちで、
幾つもの会社を持っていて日本でも有数の企業グループを率いている男の中の男である。
そこの一人娘で父親は猫可愛がりしているとなれば、万能感に満ち溢れているんだろうなあ。
と、担任はこの日までそう思っていた。
「そりゃそうだけどさあ、大体うちの学校はいいとこの坊ちゃん嬢ちゃんばかりで、
そういう子はいなかったし、これからもまず関係ない話だし本気で考えた事無かったわ」
「そうかも知れませんね。で、私、奨学金を取りたいんです、先生」
「はァ?あなたの成績ならそりゃ対象になるけど、アスカさん、あなたのとこは有名な資産家でしょ。
奨学金って言うのは基本的に学費が足りなくて大学にいけないっていう子達のタメにあんのよ。
確か親の年収制限が年額550万円以下とか・・・」
「私、親に勘当されてこの寒空に放り出されました。今日から一文無しなんです。
ここの学費は年度始めにもう納入済ですから安心して下さい」
「はあ、そりゃどうも・・・か、勘当って今時!」
「奨学金の推薦、いただけますか?」
「そんな、親子喧嘩で家をちょっと出たくらいで。そうだ!先生が間に立ってあげるわ。だから」
フルフルと頭を振って少女は真顔になってきっぱりと言った。
「無駄です。ああなったら向こう3年はどう言ってもダメ。
大体私にはむちゃくちゃ甘い人なんですよ。その私を勘当したんですから」
「そうなの・・・そりゃだめなんでしょうねえ。あんたがそう言うんじゃ」
担任はアスカの判断力や行動力を高く評価していたから彼女がそう言うのならダメだと言う事をよく
わかっていた。おそらくありとあらゆる角度から全ての手段を通じて確認済みであろう。
事実この時点では彼女の側に立つ、母から始まって全ての親戚や父の友人、会社関係の人間から運転手、
メイドに至るまで全ての人間が白旗を掲げていた。
それほど父の決意と怒りは固く大きかったのである。
「この上はうちの総指揮権を父から奪い取るしかないと言うとこまで来てるんだけど、
まだ力不足なのよね。いまのとこは」
(「一介の女子高校生に乗っ取られるほどあんたのお父さんはお人好しでも甘くも
ないでしょうよ」)
そう思った後、担任はようやくまだ勘当の原因を聞いていない事に気付いた。
「一体あんた何やったのよ」
へ?とアスカは担任の顔を見る。愛らしい小さなあごからいかにも賢そうなおでこに向かって、
瞬く間にピンクの横ラインがスーッと上がっていって、顔中が桜色になっていった。
(「器用な事・・・」)
「あの、実は恋人ができまして。それがばれて・・・」
意外とこの子って純真なとこがあるのね。顔赤白点滅させちゃって可愛いったらないわ。
担任は腹の中でにやにやとほくそ笑んでいた。
「虫がついたから勘当?まあ昔気質のお父さんならそういう事もねえ。
でも少し大袈裟すぎるんじゃないの?」
「いえ、実はそれだけじゃあなくて・・・」
ちょっと言いづらそうにしてから、思い切ったようにアスカは言った。
「ちょっとその、に、妊娠しちゃって。つ、つまり赤ちゃんが」
「まぁ、それもよくある・・・えっ、ええええぇェ〜〜ッ!妊娠したぁぁ〜っ!?」
担任は、椅子ごと見事にひっくり返った。
「どこが、ちょっと、なのよ。おお事でしょ。あんた幾つだと想ってんのよっ」
「えへへへ、奨学金もらえるかな?」
椅子に掴まって、やっとの思いで担任は立ち上がった。
「奨学金どころか、あんた、退学になっちゃうでしょうがっ!」
「え〜〜ッ!この忙しい時にィ!」
「そう言う問題じゃないでしょ。不純異性交友は即刻退学って当ったり前じゃないの!」
「不純じゃないもん。え、でもそれじゃあ、卒業見込みもでないの?」
(不満そうな様子で言うなよ。あんたが自分でやった事でしょ。)
と、担任は腹の中で毒づいた。
「そう言う事、大学受験なんかできないわよ!学歴は中卒って事になるんだから」
× ×
コツコツと足音を響かせて担任が戻って来たのはもう暗くなった6時頃だった。
「緊急職員会議の結果は?」
「アスカの味方をする先生が結構多くて、一応口を拭って卒業させるって事になったわ。
人気者でよかったわね。そんな事より相手は一体誰なのよ。まさかここの男の子じゃないでしょうね」
「其れは今の所、発表する訳にはいきませーん」
しれっと答えるアスカ。
「その人にも迷惑掛かるもの」
何の反省もない顔だ。というより、この期に及んでも男を庇おうとするのがいじらしい。
多分男の名前を頑として教えなかったんだわ。だから勘当を喰らったんでしょうね。
「わかったわ。それはそれとして・・・卒業式当日までは停学よ!でも自宅謹慎って・・・
何処で謹慎させろって言うのよ・・・。どうすんのよ勘当されてるし」
「うん。持って行くのを許されたのは制服と下着と普段着だけなのよね。あと教科書と鞄一式」
担任は頭を抱えた。どっちにしろ明日からは冬休みだ。生徒達に情報が広まっても騒ぎにはならない。
開けてすぐからは大学受験が始まるし、3年生は殆ど学校には来ないし、まぁなんとかなるかな。
「・・・仕方ない。放り出す訳にも行かないから私の部屋に来る?」
いかにもしぶしぶと言う感じだったがアスカは飛び上がった。
「わあ!担任が女の先生でよかったァ!」
「あんたのいい人はどうしたのよ!こういう場合は彼氏が引き取るべきでしょうがっ!」
「あ−、ダメダメ、あいつ貧乏だし。甲斐性ないし」
「なぁんで、そんな奴とやっちゃうのよっ! それともやられちゃったっての?」
「や、やっちゃうって、ちょっとは言葉選んでよぅ」
さすがに顔を赤らめるアスカ。
「やったのをやったって言って、何が悪いのよっ。あ〜〜!男ってのは何でこう無責任なのっ!」
頭を掻きむしって、イライラと足踏みをくり返す所なんかまるで動物園の熊だ。
「無責任じゃないよ。赤ちゃんできたって言ったら、頼むから産んでくれって。必ず結婚して幸せに
するからって言ってくれたもん」
「そんな口約束、あてになるもんですか」
吐き捨てるように言う。
「先生の男ってそんなやつなの?」
「もう8年以上もほっぽらかされされてるわよっ。何言わせんの!」
「信じてるもん」
ぽつりとアスカは言った。担任ははっとした。そうだ、この子はまだたった17かそこらなんだ。
男との駆け引きも何も知らない、真っ白な子なんだ。私が、私が守ってやらなくちゃ。
めらめらと火がついたような情熱が沸き上ってくる。これが教師の魂と言うやつかっ!
「わ、私だって信じてるわよ・・・そうかな、信じてるのかな・・・」
「頭ひねってないで、とにかく先生のとこ行こうよ」
アスカは赤いボストンバッグを、ソファの横から拾い上げて明るく言った。
さあ、アスカは障害を乗り切り、みごと幸せになれるのかっ?
大学は? 赤ちゃんは? それより一体父親は何処の誰なんでしょうか?
こめどころさんから連載作品をいただきました。
アスカが妊娠‥‥衝撃的な始まり方ですね。いったい誰が孕ませたのでしょうな。
まさか‥‥カヲルとか(問題発言)
ほんの少ししか登場してないですが‥‥男の子、ちょっと感じが違うみたいですからカヲルではないでしょうけど‥‥さて、誰でしょうか(謎)
続きも楽しみですね。すぐ烏賊すページで公開される予定ですのでしばらくお待ちください〜。