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〈本の紹介〉 人道に対する罪

クライシスの根源と本質抉る

 刑事人権論・戦争犯罪論を専攻とする本書の著者には、すでに「戦争犯罪と人権」「戦争犯罪論」「ジェノサイド論」「侵略と抵抗」「平和のための裁判」「軍隊のない国家」などをはじめ十指に余る著書がある。本書はそうした戦争と平和、侵略と抵抗、人権と犯罪という、人類が直面しているクライシスの根源と本質を総体的に剔抉して問題点を明らかにした告発の書である。

 第一章「日本軍性奴隷を裁くために」では、従軍慰安婦≠フ問題を人道に対する罪として提起しつつ、国連人権委員会が日本に道義的責任と法的責任があると決議したにもかかわらず日本政府が責任逃れに汲汲としている態度を、法に基づいて厳しく糾している。

 第二章「未決の植民地責任」では、帝国主義諸国、とくに日本が植民地支配の正当化を策している事実を批判し、国連国際法委員会さえも植民地犯罪を、人類の平和と安全に対する罪として認定していない不当性を衝いて論難している。

 第三章「原爆投下の犯罪論」では、原爆投下をあくまで正しいと強弁しその犯罪性を否定する米国の帝国主義的本性を批判している。同時に日本政府が今日に至るまで米国に責任を追及していないことを問題とし、原爆投下が紛もなく人道に対する罪であることを論証している。

 第四章「継続するイラク・ジェノサイド」では、米国のイラク戦争における集団殺害犯罪(ジェノサイド)の残虐性を暴くと共に、イラク人民のレジスタンスを当然の自決権として認めている。さらにオバマ政権のアフガニスタン侵攻を糾弾する。

 第五章「人道に対する罪の現在」では、法解釈にもとづき人道の罪とは何であるかを、1970年以後の犯罪実例に即して解明いている。

 第六章「国家刑事裁判所への道」では、第一次大戦後のヴェルサイユ会議から説き起こしてこの裁判所(ICC)の成立過程をたどり、ニュルンベルク裁判や東京裁判が人道に対する罪を裁いた歴史的意義が明らかにされている。安倍元首相が、東京裁判で日本無罪論を主張したインドのパール判事の長男を訪問した事実をとりあげて、戦犯処罰を不法とする右傾的風潮に警鐘を鳴らしている。

 第七章「国際刑事裁判所の設立」は、1998年7月17日に設立されたICCの構成や基本性格を解説し、今日的課題からみたその役割の重要性に関する詳細な論述である。

 第八章「国際刑法の基本原則」はICC規定によって形成されて以後、その確立を目ざしている国際刑法の諸原則−「時効不適用」「罪刑法定原則」「個人責任原則」「上官の責任」という5項目に従っての解説である。それによって読者はICCがどのような法機関でありいかなる原則に則して法執行をするかという問題を知ることができる。

 本書の内容を各章別にまとめると以上のとおりである。読後強く感じたことの一つは、日本が共和国に対して戦後責任をも果さず制裁を課しているのは人道に対する罪であるということであった。

 本書は引用文献が130余りにのぼり、出版に直接・間接に関わった学者・弁護士・ジャーナリスト・人権活動家の数が27人にも及んでいること一つをとってみても、極めて説得力のある人権擁護の大著であることがわかる。著者の崇高ともいえるヒューマニズムの精神と実践的な情熱に敬意を表し、広く読者を得ることを心から望むものである。(前田朗著、青木書店、2500円+税、TEL 03・3219・2314)(周在道・文芸評論家)

[朝鮮新報 2009.5.15]