きょうの社説 2009年5月16日

◎北陸の景気判断 「上方修正」というけれど
 日銀金沢支店の景気判断が三年一カ月ぶりに「上方修正」された。喜ばしいことに違い はないが、明確な底打ちのシグナルはまだ見えず、これ以上落ちようがないところまで落ちて、ようやく下げ止まる気配が見えてきただけである。景気の回復はまだ「淡い期待」にほかならない。

 それでも、北陸新幹線関連工事の大口発注で公共投資が増加に転じ、省エネ家電やエコ カーへの支援策で自動車や家電販売が上向く期待が高まっているのも事実である。国民がみな一様に節約に走れば消費が縮小し、いつまでたっても不景気から抜け出せない。自分たちだけは別だなどと思わずに、定額給付金の使い道を家族で考え、家電や車の買い替え、旅行、催事の費用にあてるなどして積極的に消費に回してほしい。

 日銀金沢支店が発表した五月の「北陸の金融経済月報」の景気判断は、二、三、四月と 三カ月続いた「大幅に悪化している」から「悪化している」に変わった。企業の生産、輸出について悪化のテンポが鈍ってきているのは確かだが、米国は個人消費は回復の兆しが見えず、持ち直しが見られる中国の需要もどこまで続くか未知数である。上方修正とはいえ、一月と同じ景気判断に戻ったに過ぎず、過度な期待は禁物だろう。

 頼みの個人消費も足下の数字はおしなべて悪い。百貨店・スーパーの売上高、家電、自 動車販売、国内・国外旅行の取扱高は、いずれも減少した。一−三月の新設住宅着工戸数は、前年比マイナス22・3%に落ち込み、雇用・所得環境も一段と厳しさを増している。

 明るい材料は、エコポイント制度導入前の買い控えが大きく影響している家電や、大幅 なエコカー購入の補助が実現しそうな自動車などで、回復ムードが高まっている点である。また、自動料金収受システム(ETC)搭載車の割引実施で、国内旅行の落ち込みに歯止めがかかり、北陸の温泉地でも黄金週間中の宿泊客数が前年を上回るケースが出てきた。

 政府の景気対策がようやく効果を上げてきたといえるだろう。この機を逃さず、内需主 導の景気回復を確実なものにしたい。

◎ツバメ総調査 活動支えた「ふるさと愛」
 十日からの愛鳥週間に合わせ、石川、富山県で行われたツバメ総調査は、全国に誇りう る郷土の身近な環境診断である。全県レベルで実施しているのは両県のみで、一九七一年からの取り組みで蓄積されたツバメの観察記録は貴重である。

 四十年近い活動を支えてきたのは、ツバメが巣づくりする地域であってほしいという願 いや、ツバメを通して地域の変化に関心を寄せ続けてきた「ふるさと愛」と言ってよいだろう。地域の暮らしや環境を見つめる独自の取り組みとして息長く続けていきたい。

 ツバメ総調査は北國新聞社が一九七一年に提唱した「グリーンプランを北陸に」キャン ペーンの一環として始まり、石川県では翌年から県健民運動推進本部が運動を引き継いだ。今年は県内二百二十五校の小学六年生を中心に約一万三千人が参加した。富山県でも小学六年生を中心に二百二校、約一万五千人が調査した。石川県ではインターネット上の地図に巣の場所を記録する「ツバメマップ」も作成し、全国に発信する。

 ツバメはカラスなどからヒナを守るため人家の軒先や納屋、車庫に巣をつくり、水田の 害虫を食べ、田んぼの泥などが巣の材料になる。人間に最も近い存在であり、飛来や生息状況を調査することは人々の暮らしや環境の変化、地域の人情までも知ることになる。

 石川、富山県ともにツバメの数は減少傾向にある。それでも車庫の上の戸などを開け、 ツバメの飛来を心待ちにしている住民は少なくない。ツバメを探す児童の熱心な姿が、住民の理解を促してきた側面も大きいだろう。

 調査では児童がツバメの様子を家人から聞き取り、ツバメの騒ぐ音で泥棒の侵入に気づ いたエピソードや飛び方で天候を占うなど、人とツバメの物語も毎年記録されている。これらはツバメの民俗資料として貴重である。

 巣づくりからヒナ誕生、子育て、巣立ちなど、ツバメに目を凝らせば親子の情愛をはじ め人間社会に通じる姿が見えてくる。調査の意義は時代の変化とともに、むしろ大きくなっている。