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その瞳は月のように…

いじはち誕生日記念三日連続SSラッシュ、ついにこれで最後となりました。
今回は俺が大好きなアーノの悪堕ち(吸血鬼化)SSです。
ちなみにこのSSは魔女転生(B)の続編となっています。 できればそちらからどうぞ。

【2009年2月 追記】 deadbeet様から頂いた4枚の挿絵を追加

作品 サモンナイトクラフトソード物語2

堕ち対象 アーノ


「ふぅ…ようやくついた…」
ジメジメした暑さに支配されているクリーフ村、そこから大分離れた場所に一人の少女がいた。
ぶかぶかした血のように紅い服、立派な角、緑色のふさふさな尻尾。
その姿は幻獣界メイトルパの亜人、その一族メトラル。
そして彼女の名はレシィ、魔女と化したアメルの『手助け』を行うメトラル族である。
説明しておかねばならないが、彼女は生まれながらの少女ではない、彼女は元々少年だった。
しかし、ある日アメルの策略により女にされ、そして魔獣の力を与えられたのである(今は隠しているが、一度その力を発動すれば興奮が収まるまで残虐な攻撃をする)。
レシィはその事を恨んではいない、何故ならレシィもまた、アメルと同じようにある存在に支配されているのだから。
ただ、『存在』による支配とは人間のそれとは違う、『存在』の支配は幸福と快楽への約束である。

そんなレシィがアメルの命で向かっているクリーフ村とはかつて巨大な召喚獣『ゴウラ』が封印されていた村である。

彼がこの村に来たのはそのゴウラを復活させにきたのではない、そもそもゴウラはある少年によって復活し、故郷に帰っていったのだ。
それに、アメルも『存在』もそれを望んではいない。 では、彼は何故ここに来たのか…

レシィは額に落ちる汗を拭い取り、ポケットから四角形の黒い箱を取り出した。
さらにその箱をパカリと開くと、そこには宝石か高価なネックレスのように保管されている一つの棒と小さなルビーが埋め込まれた金色の指輪があった。
その棒、どう見ても口紅である。 それを今開けるまで気づかず、彼女はひどく落胆した。
「これを使って魔刃使いを味方につけろ…か…」
レシィはアメルの言葉を思い出しため息一つ…。
(どうしてこんなものを…)
レシィが村から近い場所にいる人たちに聞いたところ、魔刃使いは少年と聞いた。
まさか少年に口紅と指輪を渡して仲間になる事を要求するのか? そもそもそんな物で喜ぶのか?
レシィは深く暗い思考に陥った。 かといって自分が塗るには何か嫌な予感がする、どうみてもそれは野生の勘のお告げなのでやめておく。
「とほほ…参りました…」
レシィが内容物を箱に戻し、その箱をポッケに戻そうとした刹那

ドダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
「?」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
レシィは振り向いた。 しかし、気づくのがあまりにも遅すぎた。

どぐわしゅああぁぁああぁぁああん!

そう、二匹のガゼールのチェイスがレシィを襲ったのである。 いや、厳密に言うと、レシィが二匹の競い合う道にいただけであった。
ヒューン!
レシィは眼に渦巻きを宿して失神、彼女の思考はショックで一時停止、
そして黒い箱は彼女の手からどこかへとんでいった。

「きゅう…」
その後、彼女が「あれを無くした」とパニックになるのは後の話…。



『その瞳は月のように…』



それから翌日の夕暮れ、クリーフ村から少しだけ離れたふもとの森、そこに一人の少年と護衛獣がいた。
金髪の少年の方は、白いシャツに赤いマントのようなものを肩に被せて輪状の金具で止めており、ズボンは季節はずれの青い長ズボンを穿いている。
そして腰には剣が入っている鞘を掛けているのが特徴である。 この少年はどうやら剣士のようだ。
一方の緑色の髪の中性的な顔立ちをしている護衛獣は緑色のぶかぶかな衣服、首には長くて赤いマフラーを巻いている、マフラーの真ん中には少しだけ大きい鈴がアーノの喉元あたりに付いている。
下半身は上半身と比べるとそこまで派手ではなく、語るところというと緑色の短ズボンと普通の靴を靴下無しで履いているといった所である。
緑色の髪には黄色い玉が二つ付いている二個の髪留めでできたふたつの結びがかわいらしい。 緑色の犬のような垂れた耳とオルフルに近いこれまた犬のような尻尾が特徴的だ。
少年の名前はエッジ・コルトハーツ、召喚獣の名前はアーノと呼ぶ。

二人の出会いは一ヶ月前、エッジの思い出の地で二人は出会った。 主を失い彷徨っていたアーノはエッジの親方ベルグの提案で護衛獣となった。
それから一週間そして一ヶ月、たくさんの苦難もあったが、その中で二人は強い絆を結んでいった。
そして現在、二人はお互いを信頼しあえる仲になった。 一見すれば主と護衛獣の関係、でもそれだけではない。

「アーノ、そろそろ材料も揃ったところだし帰ろうか?」
「ハイです!」
いつもと変わらない会話、エッジの問いにアーノは明るく答える。
エッジはその材料とは異なるものが入っている袋を取り出した。
その瞬間、一匹の影がよぎった。

シュッ!

「えっ?」
「?」
二人は一瞬だけ戸惑う。 そしてエッジは何かがなくなったことに気づいた。
「しまった! オルカに頼まれてた料理の材料が!!」
「どうしたですか?!」
「消えた…」
エッジは。 材料の一つ、ふもとの森でしか手に入らない木の実を入れていた袋がなくなっていたのである。
「まさかあっちの方に」
エッジは影が通り過ぎた方向へ目を向ける
考えてみればあの影は猫のようなものだった。 ということは木の実が入った袋は…
「あれはきっとネコさんです!風がおしえてくれたです」
「やっぱり猫だったんだ…」
アーノの言葉でエッジの疑惑は確信に変わった。 アーノはポルル族の亜人なので風と会話(言葉を出すのではなくいわゆる思念会話のようなもの)できる能力を持っている。おそらく言葉の通り風が教えたのだろう。
「ボクがとってくるです!」
アーノは猫が駆けていった方向へ向かった。 そしてそこに残っているのはエッジだけであった。



猫が通り過ぎた場所は草木に満ちていて、アーノは草や木を分けて探さざるを得なくなった。
猫がいる場所は既に風が教えてくれたので、アーノは迷うことなく猫がいる方向へ向かう事ができた。
そしてアーノは猫がいる場所へ辿り着いた。 そこにいたのは…
「え? 猫さんがもう一匹いるです」
そう、そこには黒猫が二匹、かごに入っていた。
オス猫がメス猫の傷を舐めとり、白い袋の中に入っている木の実を口で取り出してメス猫に食べさせようとしている。
そのかごの中には四角形の黒い箱もあったが、今はそれどころではない。
「み、みぃぃっ」
「にゃぁ…」
痛みを訴えるようにメス猫は鳴き声を上げる。大分傷がひどいのかメス猫はひどく苦しんでいるようだ。
(ネコさん…なんだかいたそうです…)
アーノは自分に何ができるかを考える。 苦しんでいる猫を放っておくわけにはいかない、だからアーノは考える、自分にできる何かを…

そしてアーノは思いついた。 それは簡単な事であった。

ベルグ邸、エッジの鍛冶部屋
「ふみぃ…」
「にゃ〜ん、ふにゃぁ」
傷を治してもらい、苦しみから解放された黒い雌猫は、ベッドの上に置いているかごの中で雄猫とじゃれあう。
「まさか苦しんでいた猫を助けるために食べ物が必要だったのか…」
先程アーノと一緒に夕食を済ませたエッジは、アーノに問いかけるように言いながら猫に暖かいミルクをお皿に出す。二匹の猫はそれに喜び、そのミルクに舌を伸ばした。
「ハイです、ネコさんたち死にそうだったから、ご主人さまの家で治したがいいかなって…」
アーノはもしかして間違った選択をしたのだろうかと思って俯く。
「いや、僕もアーノと同じ立場だったらそうしてた」

アーノが猫を拾った時、エッジはその猫を怒るよりも先に自分の家であるベルグ邸に向かい、一目散に走り出したのだった。
エッジは優しい少年だった。 はぐれ召喚獣立ち入り禁止のクリーフ村に迷い込み、怪我をしていたアーノを家に運ぼうと言ったのもエッジだった。
その頃に誰かが「エッジとアーノは似ている」と言っていた。 おそらくアーノもその時のエッジと同じ選択をしたのだろう。だが、それを『考えて』選んだわけではないが。

「エッジー! お風呂わいたよー」
「わかった! すぐ入る!」
エッジはタタンの大きな声を大きく返す。
ここは家の地下、家族(エッジは生まれたときに母を、ある事件で父を失い、ベルグ家に引き取られた)は上の階。
「じゃ、入ってくるからアーノこの子達お願い」
エッジはそういい残してこの部屋を出て行った。 もちろん猫の事はすでに家族には言っている。
「ハイです!」
アーノは元気良く返した。 アーノは従順、いや素直な方だ。 だからエッジは猫の事をアーノに任せる事ができた。
だが、せめてアーノと一緒に入っていたらあんな事にはならなかった…

そして、アーノは猫の方に向かおうとしたその時、カゴにあった箱に気づいた。 アーノは猫と箱をカゴごと持ち込んでいたが、箱の方には気づかなかった。
(そういえば… これは何が入ってるですか?気になるです)
黒い箱に興味を持ったアーノは黒猫を撫でながら黒い箱を取り出す。
「………」
長い沈黙を破ってアーノは箱を開けた。 その箱は糸も簡単にパカっと開いたのであった。
その瞬間不思議な臭いが放たれたが、それもほんの一瞬の事であった。
CAGU86PZ.jpg
その中にはスティック状の黒いものと金色の指輪が入っている。 アーノはその黒い物を取り出してしげしげと眺める。
「これって…どうやってつかうですか?」
アーノは猫に向かって問いかけたが、結果はいうまでもない。
「ふー」
アーノはなんとなくベッドに寝転がり、小さなルビー埋まっている金色の指輪を薬指にはめた。
どうしてそこにはめたのかはアーノにも解らなかった。 いや、なんとなく感じたのだ。「ここにはめるのだろう」と。
「ぺろり…」
うつらうつらと眠くなりそうなアーノは無意識の内に何故か舌なめずりをする。 なぜしたのかは本人にも解らなかったが、ついでにアーノはそのスティックをマフラーにしまった。
「にゃ〜」 「んにゃあぁ〜」
「はっ!」
突然アーノは何かに目を覚ました。 その何かとは猫の事でもあるが、それだけではない、まるで「もういいよ」といった感じ。
それからしばらくして鍛冶部屋にエッジの声が遠く響く。
「次アーノの番だよー」
という主の声がアーノに耳に届いた。
「ハイです! ボクも入るです!」
アーノも元気で大きな声で答え、浴室に駆けつけた。 もちろん指輪は薬指に通し、黒い物は無意識の内にマフラーの中に入れたままで…。


ベルグ邸、鍛冶師部屋
アーノが入浴した後、予定の鍛冶を終わらせて一息ついたところで、いつものようにアーノは言う。
「風とお話にいってくるです」
風と対話できるポルル族の亜人であるアーノは、風とたくさん『お話』するために外に出る。
「うん、いってらっしゃい」
その言葉を聞いてアーノはこの部屋を出て行った。
エッジは見送る。 アーノが風と話をするために外に出るのはすっかり慣れている、エッジはその間少しだけ休もうと思っていた。
ただ、エッジは気づいていなかった。 アーノが見たことのない指輪をかけていた事には…


思い出の場所、アーノはここで風と『会話』する。 夜空には大きな満月が昇っていて、暑さを拭う涼しい風がアーノの体を駆け巡る。
綺麗な月に照らされ、優しく吹く風に髪を揺らされてアーノは言葉を出さずに風と話した。

風と話すのに言葉は要らない、ただ風と話せる心から信じれば自然に言葉が聞こえるのだ。

何時間か経ってようやく風とのお話が終わった。
だが、今日は様子が違っていた。 いや、風がではない、アーノの様子が違っていたのである。
「………」
呟くように開いていて、眼はひどくボゥっとしているように光が無い。
アーノはいつも天然でボーッとしているのだが、今回はいつもと様子が違っている。
風の声を聞かず、アーノはただ満月を見つめていた。 まるで美女に見とれているかのように、いやそれ以上に誰の声も聞こえまい。

―――ふふ、目覚めなさい
頭の中に聞こえる声、それは頭の中から聞こえてくる瘴気に近く、美女のような声。 アーノはそれに反論もせずに答えた。
「………はい」
その瞬間、アーノは眼を覚ました。
「えっ!?」
アーノの眼に光が戻ったときアーノは、ぶかぶかの服で指しか出ていない手に先ほどマフラーに入れた黒い物を持っていた事に気づいた。
そんな事などお構い無しに聞こえてくる風とは異なる『声』
―――いい子ね、そのルージュを開いてあなたの唇に塗りなさい
(え?え?風じゃないです か、からだがかってに…)
何故だか解らないまま、アーノの体はその言葉通りの行動に移る。
ルージュと呼ぶ黒いものの蓋を開くと、そこにはアーノが見たことのない物が見えた。 これは正真正銘のルージュ、口紅である。
紅色が妖しく光るルージュの先端を、ルージュの色とは正反対の幼い唇に向けるアーノの手。
(あわわ…こ、こわいです…)
アーノはその口紅に『怖い風』を感じ、頭で静止を訴えるが、体は言うことを聞かない。
(ど、どうして…)

アーノの体は先ほど箱を開いた時に放たれた『匂い』を嗅いでいた。実はその匂いはルージュから発していたもので、その匂いがアーノの体を支配していたのである。
しかも、匂いを嗅いだ瞬間に体はじわじわと匂いに支配されていたのであった。
指輪を薬指にはめたのも、舌なめずりをしたのも浴室に行く前に指輪を通し、ルージュをマフラーに入れていたのも全て口紅がアーノの無意識の中で従わせた事だったのである。
簡単に言えば『ルージュの匂いがアーノの体を少しずつ支配した』ということである。

―――怖がることはないわ、すぐに終わるから…

そして、耳には聞こえない声が放った言葉の通りにあっさりとアーノの唇にルージュが塗られていた。
血のような紅色が初めとは思えないように綺麗に彩られており、アーノの幼い姿とのギャップが激しい。 だからこそ『美しい』

―――うふふ…後は時を待つだけ これであなたは…うふふ………

その笑い声と共にアーノの中に響いていた声は、アーノの体を支配した『匂い』と共にどこかへ消えていった。
(………? え?どうして…)
何もわからずただ混乱しながらアーノは体の制御を失い、思い出の地に体をうつぶせ倒した。
その瞬間、唇の美しいルージュが妖しく光った。



「ん…ぐぅ…」
一方、鍛冶部屋にいたエッジは、疲労が答えて、早くからベッドでゆっくりと眠っていた。 全ての重荷から開放されたエッジの寝顔は安らぎに満ちていた。
この時、エッジがアーノと一緒にいたら、いや、『あの時』だけでもアーノの所にいたら何とかなっていたのかもしれない。
いや、何とかならず『その光景』を見ているだけしかなかったのかもしれない…。

だが、そのような『イフ』を語っても無意味かもしれない…



満月浮かぶ夜、思い出の場所、そこでアーノは壁に背中をくっつけながら苦しんでいた。
唇に彩られている真っ赤なルージュはゆっくりと不思議な赤い光を発している
マフラーは引っ張られ右の首筋から健康的な小麦色の肌が露出している。 その首筋には二つの赤い点が付いていた。
「うっ…ううぅ……ふうぅぅ………」
CAVNQ1SL.jpg
アーノはがくがく震えながら『なにか』に耐える。まるで誰かに首筋を咬まれているかのように……
「ひぁあぁ…や、めてぇ…」
ここにはアーノ一人しかいないのに、アーノは『何か』に懇願する。
いや、アーノにしか見えない誰かがいる。
アーノは苦しみながら、涙に満ちたその目を開けた、翠色の瞳の見つめる先に『アーノにしか見えない何か』が見える。

その『何か』は、着ている服がゴシックロリータで、マフラーを纏っていて、瞳が紅い、それらさえ除けばアーノに良く似た吸血鬼だった。
そしてその吸血鬼も唇にアーノと同じ真っ赤なルージュが塗られていた。

そう、アーノは吸血鬼のような自分に首筋を咬まれ、血を吸われている幻覚を見ていた。 いや、この痛みは偽りでなく本物であるが…。
「あっ、うあああっ! らめぇ…やめぇ…」
(いやよ まだ始まったばかりだもの、あなたを『変える』まで終わらないわ…)
アーノの頭の中に先ほどの美女の声が響いた。
紅い瞳のアーノの幻影は、なおもアーノの血を吸い取り、アーノにアーノが一度も味わった事のない『感覚』を送る。
その度に苦しむアーノの肉体に付いている赤い点は人差し指くらいの大きさに広がっていく。
そして、唇のルージュの赤い光はさらに激しく妖しく輝く。 その姿は子供ではあるがそのギャップが激しいくらいに妖艶な匂いを発している。
苦しんでいるヒトに言うべき言葉ではないが、アーノは美しく苦しみながら人間でも、獣人でもない者に変わるように心をけがされれていく。 いや、本当に変わろうとしている。

ルージュの侵食、そして汚染。

そう、アーノが痛み苦しんでいるのも、アーノが自分に似た吸血鬼に血を吸われている幻覚を見ているのも、赤い点が広がっていくのも、全ては赤いルージュが元凶だったのだ。
アーノが塗ったルージュは、かつて幼い姿で幾年を過ごした吸血鬼の女王の血で出来ており、
そのルージュを唇に塗ったものは吸血鬼の姿…すなわち『未来の自分』に己の血を吸われる幻影を見ながらルージュの魔力で徐々に吸血鬼になっていくのである。
ルージュは魔力で唇と癒着してしまうため、拭いても洗っても落す事ができない厄介なものだ。
さらに吸われた血は金色指輪に付いている紅いルビーの魔力へと変換される。



「んひゅぅ…んはぁぁん……」
それから苦しみながら悶えていたアーノの口から喘ぎ声が流れる。
アーノの眼は虚ろなまま開いていて、まるで狼が鳴くかのように満月に向かって恍惚に満ちた弱く脆い声を上げる。
「はひゃあぁあぁああぁん! んふぁぁ…」
もはや理性は完全に麻痺し、抵抗を失っていた。
緑の尻尾はバタバタ揺れ動き、一つの事を求める。 泣きながら、震えながら、吐息と交わらせてアーノは懇願した。
「んんっ、はっあぁ…すってぇ……もっとぉ…すって、ほしいです…」
その言葉を世闇に浮かぶ満月に、そして、血を吸う自分に放った。
その瞬間、
「はぁっ!」
突然首筋に寒気を感じる、さっきまでは燃えるように熱かった。 だが今は寒気しか感じられない。
アーノの眼に見えたのは牙を自分の首筋から外し、口元に垂れている血をぺろりと舐めて微う、黒い服とマントを纏ったもう一人の自分。
「そんなぁ…なんでですかぁ…? ボク、もっとちゅうって吸って欲しいのに…」
吸血を中断され、さっきよりも涙を流すアーノ、そんなアーノの頭の中に『声』が響く。
CA148H31.jpg
(ふふ…これ以上吸ったらあなたは私と同じ吸血鬼になっちゃうよ? それでいいの?)
吸血鬼の自分から放たれる言葉にアーノは戸惑う。 唇は疼き、心は快楽に餓え、体は『一つの答え』を求める。
絶えられない  アーノは自分の身体がおかれている状況を直感で感じた。 その証拠に心臓は激しく唸り、耳は波打つように揺れ、尻尾はぶるぶる震えている。
心と体の疼きに耐えられなくなったアーノは目に涙を浮かべながら幻影に訴えた。
「かわって…いいですっ…だからぁすっ、すってぇ! もっと血をチュゥってしてですぅ!!」
(かわいい…泣いてまで、変えて欲しいって思うくらい吸って欲しいならたっぷり吸ってあげる)
「はぁぁ…きてぇ…そしてチュウチュウってぇ…」
頭の中は血を吸われる快楽を欲する事で精一杯のアーノはうわごとを呟く。
シュワアァァァァ!
その瞬間、アーノの首筋に浮かぶ二つの赤い点が魔方陣のようなものに変貌した。
それにシンクロするようにアーノは首筋に長く鋭い牙が突き刺さる感覚をまたも覚えた。
「ひゃううううぅぅぅぅん!」
アーノは真っ赤なルージュで彩られた唇を開いて甲高い嬌声を上げた。 それはまるで自分の性器に男のアレを突っ込まれた女のようであった。
チュウ…チュゥゥゥ
アーノは血を啜られる音を聞き、興奮を高ぶらす。 これも幻聴であるが、今のアーノにはそれがわからない。いや、今以外にそれがわかるとは思えないが。
「はぁぁあぁぁん…きたぁ…もっとぉ…」
血を吸われ、先程よりも激しくあえぎ声を上げるアーノ。 心臓の音は激しく高鳴り、尻尾はまたも激しく揺れる。
快感は体の全神経を犯し、理性を閉ざしていく。
「あぁ…ふぃ…あふぁ……」
アーノは自分の血が牙に吸い取られているのを本能で感じ取る、しかしそれはルージュの幻想。
「ああぁぁ…いいですぅ……きちゃうぅ…」
快感の海に溺れてしばらく、アーノは血が完全になくなる事を感じ、自分の手を胸に当てる。
「ああっ、ああーーーーーっ!」
全ての血が失せた時、アーノは絶頂を迎えた。
その瞬間、アーノの首筋に浮かんでいた二つの紋章はアーノの体に沈むように消えていった。



「はぁ…はぁ…」
全てが終わったアーノは両手で胸元を押し付ける。 その時、アーノは胸と手に『ある物』の感触を覚えた。 それは鍛冶師の魂であるハンマーであった。
その瞬間、アーノは記憶の中に、一人の少年の姿が走馬灯のように蘇った。
「……ご主人さま?!」
その時、ルージュ真っ赤なルージュと指輪のルビーが輝きだし、心臓の鼓動が停止し、アーノは体に寒気を感じ始めた。
『覚醒』が始まったのだ。

「ひぃぃっ!」
アーノの体から温度が、血の気が消えうせて、肌は蒼白くなった。
「あっ…ああああっ!」
大好きな主エッジを思い出し、アーノはがくがく震え始める。
両手の爪は鋭く尖り始め、マニキュアを塗ったように紅く染まる。
「あっ…うああっ!」
脳裏にエッジの姿思い浮かべてしまい、何故かアーノは悲しみと恐怖を感じた。
それは罪悪感から来たのか、より主と違う存在か脅威になる事への恐怖かはわからない。
アーノが苦しみながらエッジを思い出している間に、うめき声を上げる口の中の犬歯が鋭く伸びて牙になっていく。
「あああああああああああああああっ!」
悲しみの涙を流す眼、その瞳はエメラルドのような翠色から今の満月のような金色へ、
瞳孔は光を見た猫のように鋭い切れ長になった。

その姿はこの世界から忘れられた存在、吸血鬼であった。 いや、アーノは吸血鬼と化したのだ。



思い出の場所でアーノは泣いていた。
「うっ……ごしゅじんさまぁ…ごめんなさいです……」
壁に頭をもたらせて、アーノは袖にうずくまり泣き続けた。
アーノもどうして謝るのか解らない。 きっとしてはいけない事をしてしまったのだろう その罪悪感で頭がいっぱいになっていた。
エッジの事を忘れて血を吸われることを求めていたのか、異形の存在へ堕したからなのか、わからない。 だが、アーノはただ泣くしかできなかった。

そんな時、指輪に埋め込まれているルビーがまたも輝き始めた。
その光に導かれたのか、夜空から蝙蝠の大群がアーノの周りを覆い始める。
「え?…ええっ?!」
体や服の周りに蝙蝠が纏わりつき、衣服が替わっていく。 アーノはただ、困惑するしかなかった。
アーノは涙を流す眼を閉じて呟く、
「ご主人さま…ごめんなさいです……」
悲しみの果てに、アーノは自分の中の何かを閉ざす。 その瞬間、アーノのヒトとしての部分が消えていった。
そして、アーノの髪を結んでいた二つの髪留めが蝙蝠に切られ、ボトリと落ちた。



満月の下、約束の場所にいたアーノの姿は、先ほどとは違う姿だった。
黒を基調としたゴシック調のドレスのような衣服、裏地が赤い黒マント、血のように紅いマフラー、側部に蝙蝠の翼のようなものが付いている胸元の鈴、
鋭利で真っ赤な爪、口元に敷かれている紅いルージュ、月のような金色の瞳、
CA2ZNEZ8.jpg
その姿は闇の住人としか言いようがない、アーノは完全に吸血鬼へと生まれ変わったのだ。
アーノは妖艶な笑みを浮かべ、鋭い爪をぺろりとゆっくり舐める。 そのルージュで彩られた口元からは鋭い二つの牙が覗いていた。
「ふふふ……これが吸血鬼の力…そして至福… ボクはどうして泣いてたんでしょう?」
満月の光を浴びて、アーノはより邪に微笑む。 吸血鬼であることを悦び、そんな時アーノは思ったことを呟く。
「そうだ…ご主人さまも吸血鬼にするです。 ご主人さまが吸血鬼になれば、ご主人さまはシューンってならなくて済むです…」

その言葉を呟いた瞬間、アーノは自分がどうして泣いていたのかがやっとわかった。
それはエッジが吸血鬼となった自分を見て酷く落胆すると思っていたからだ。
だが、エッジの血を吸って、快楽の中で自分と同じにすればエッジは落ち込むことはない。
アーノはそれに『気づいてしまった』のだ。


アーノはどうやって血を吸おうか考えながら家に帰ることにした。
「ふふっ…ご主人さま待っててくださいです 吸血鬼にしたらボクとご主人さまはずっと、ずーっと一緒です」
ルージュの魔力とアーノの真っ直ぐな心は深く交じり合っていた。
アーノはふさふさとした緑色の尻尾を左右に振りながら思い出の場所を後にするのであった。

そして、そこに残っていたのは二つの髪留めだけ…。

end…


以上で終了です。 皆様いかがでしたか?
アーノの悪堕ちはずっと妄想していたのでようやく書けました。
これの他にもアーノのスライム化とかラミア化とかも妄想してますw やっぱアーノが大好きなんだよな俺…
ちなみに、エッジ君がアーノの魔力でなぜか性転換されて吸血鬼になるという構想があったりしますw
そちらもいかがでしょうか?

追記 序盤に書かれている『存在』はメルギトスの事です。


血のように紅く

コメント

[C48]

二作目が良過ぎたせいもあるんですが、いじはち様なら当たり前な作品に感じてしまいました。
連作は構成が難しいですね。
  • 2008-08-01 02:55
  • 神代☆焔
  • URL
  • 編集

[C543]

吸血鬼化もなかなか良いですね。
こういうのも新鮮味があって私は好きです。
この画像を見てると、deadbeet様が最近大変そうなのが分かってきます。
これからも応援しているのでがんばってください♪
  • 2009-02-17 00:30
  • ν賢狼ホロν
  • URL
  • 編集

[C547]

>>ν賢狼ホロν様
いきなり変化球とは意外とバカだったんだな自分…(いろんな意味で)
アーノの絵素晴らしいですね。 deadbeet様の努力が見えてきます。
俺も頑張らなければ…!

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プロフィール

いじはち

Author:いじはち
別名 献血の紅
福岡在住の悪堕ち好きなふぬけ男
そしてアーノ馬鹿

悪魔娘とか
人外娘とか
ケモノとか
SDガンダムとか
トランスフォーマーとか
かっこいいスーパーロボットとか
特撮ものとかも好き。 めっちゃ好き


一番好きなキャラクターはサモンナイトクラフトソード物語2のアーノ
一番好きな悪堕ちヒロインはジブリール3のブラックアリエス
一番好きなトランスフォーマーはスターセイバー(トランスフォーマーV)
一番好きなガンダムはF91

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