東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」臨界事故(99年9月)で被ばくし健康被害を受けたとして大泉昭一さん(80)、恵子さん(69)夫妻=日立市=がJCOなどを訴えた損害賠償訴訟は14日、東京高裁の控訴審判決でも敗訴し、原告団は「被ばくとの因果関係を被害者がどこまで立証しなければいけないのか」といらだちを募らせた。大泉夫妻は判決後の記者会見で「裁判は続けていきたい」と上告の意向を示し、審理は最高裁へ舞台を移すことになった。【高橋慶浩】
会見で昭一さんは、過去の持病を理由に被ばくとの因果関係を否定された判決に対し「考えてもみなかったことをほじくり返された」「何のために今日ここまで来たのか」と憤りと無念を訴えた。
控訴審で弁護側は健康被害との因果関係を立証しようと、原告と同レベルの原爆被ばく者の認定例を示したが、高裁は「高度のがい然性」が証明されていないとした。
原告の伊東良徳弁護士は、高裁が「放射線の関与がなければ考えられないような事実」が認定された被害者しか因果関係を認めない限定的な判断を示したと指摘。「こういう理論的な枠組みを作られたら負けざるを得ない」と訴え、「判決はがんが発症したら(健康被害を)例外的に認めるという考え方でびっくりした」と述べた。
一方、恵子さんに起きたとされる心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関連し、高裁は事故前に恵子さんの不眠が改善傾向にあったと認めた。この判断について海渡雄一弁護士は「事実認定は改善された」と一定の評価をし「最高裁で覆せるかもしれないので、PTSDの認定基準に争点を絞っていきたい」と弁護方針を語った。
事故から10年になるが、今も一部の住民が通院し、事故の不安は消えていない。恵子さんは「支援者のおかげでくじけそうになる心を奮い立たせてやってくることができた」と涙ぐんだ。
毎日新聞 2009年5月15日 地方版