上場企業の二〇〇九年三月期決算発表がピークを迎えた。自動車や電機などでは記録的赤字を計上し、今期も低迷必至というところが目立つ。経営者の嘆きは深いが重要なのは展望を示すことだ。
企業決算は経営者の成績表だ。利益を上げ給料や配当を増やせば従業員や株主たちから評価され、逆となれば責任を迫られ辞職することもある。今年は当初予想を上回る巨額赤字を計上した企業が目立った。
最終損益の赤字額の大きさでは日立製作所の七千八百億円や野村ホールディングスの七千億円が代表格だ。倒産しかねない額だ。
産業界への衝撃度からはトヨタ自動車が筆頭である。昨年の決算では二兆二千七百億円の営業利益だったが、今年は四千六百億円の赤字転落である。来年も八千五百億円の赤字の見通しという。
輸出型製造業だけでなく商社や海運、鉄道など比較的不況に強いとされる業種も軒並み厳しい決算となったのが今年の特徴だ。しかも厳しさは当分続きそうで、民間シンクタンクでは二期連続の減益決算必至とする指摘が多い。
気になるのは今回の苦境は米国の金融危機がすべて−とする声があることだ。日本経団連の御手洗冨士夫会長は記者会見で「三月期決算は予想以上に悪かったが経営者の失敗とは言えない」と語った。企業の本音を代弁した形だが経済界トップの言葉とは思えない。
昨年は原油価格高騰に続き米国で投資銀行が破綻(はたん)して金融危機が発生、世界経済が同時不況に陥ったことは確かである。だが輸出企業の多くは米市場依存を強めていた。企業戦略の失敗を反省することから始めるのが普通だろう。
業績回復には身の丈にあった企業規模へスリム化することが必要だ。かつての不況時に設備、人、負債の三つの過剰処理が課題となった時期があった。今回もまた過大な部門の見直しが不可欠だが、人員削減だけは慎重さが重要だ。
その上で新製品や新事業を展開していく。軽薄短小は日本企業のお得意技術であり、さらに低価格と環境対応が課題だ。デジタル家電やハイブリッド車などが有望とはいえ、高すぎては需要は増えない。
最も注意すべき点は雇用の維持である。経営者は雇用調整助成金を活用したり配置転換などで失業防止に全力を挙げてほしい。失業の増加は景気に悪影響を与えるだけでなく発展の芽を摘む。人材を生かすことは経営者の責任だ。
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