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社説:ケア開国 場当たりではダメだ

 外国人の看護、介護労働者受け入れをめぐって、国内が揺れている。 日本とフィリピンの経済連携協定(EPA)に基づき、フィリピン人看護師、介護福祉士の候補者が来日したが、受け入れ人数は計画をかなり下回った。日本での資格取得が難しいことに加え、昨年秋からの不況で日本人の失業者を医療、介護分野で受け入れるための施策が始まり、受け入れ施設が慎重になっているためだ。

 外国人の看護、介護労働者の受け入れは昨年のインドネシアに続いて2国目となる。「ケア開国」は始まったばかりだが、早くも課題が表面化してきた。

 フィリピン人の看護師、介護福祉士の受け入れはインドネシア人と同規模で、2年間に最大1000人の計画だ。半年間、日本語と看護・介護の導入研修を行った後、現場で働く。研修の期間は看護師が上限3年、介護士は同4年、日本語で国家試験を受けて合格すれば日本で働けるが、不合格者は帰国させられる。

 来日の希望者は多くいたが、今回低調だった背景には、さまざまな問題がある。第一は日本語で国家試験を受けることなど資格取得のハードルが高いことだ。例えば介護福祉士の資格は日本人でも合格率は50%前後と難しく、日本語の習得が大きな壁になっている。

 次に受け入れ施設側の負担の問題だ。渡航費や来日後、半年間の日本語研修費は日本政府が支給するが、その後の研修費用と賃金は受け入れ施設の負担となる。「試験に合格して働いてもらわなければ、先行投資が無駄になる」と受け入れに積極的になれないのだ。

 三つ目、これが一番の問題なのだが、政府の外国人労働者政策が定まっていないことだ。今回の受け入れは経済交流の一環であり、政府は労働力不足対策ではないとしている。将来、経済交流がどうなるのかについては明確になっておらず、これが医療機関や介護施設を慎重にさせている。

 政府の試算では、高齢化が進む中、2025年には現在の約2倍の介護職員が必要になる。毎年7万~8万人の増員が必要なのだが、人材確保の見通しは厳しい。外国人労働力をどのくらいの規模で、どういう形で受け入れるかという問題に答えを出すべき時期に来ているのだが、本格的な議論は始まっていない。

 場当たり的な政策を続けていけば、やがて立ち往生する。まずは外国人の看護、介護分野への受け入れについて基本方針を固め、その上で、問題が表面化している受け入れの高いハードルの課題などについても対応を取るべきだ。

毎日新聞 2009年5月16日 東京朝刊

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