小沢一郎民主党代表の辞任に対しては二つの見方がある。辞任表明会見で、政治資金の問題に関して「一点のやましいところもない」と言い放つなど、まるで説明責任を果たしていないという批判。もう一つは辞任後も党内に影響力を残そうと剛腕ぶりを見せつけているとの見方だ。
ともに小沢氏を多少、過大評価している印象がある。
私はもっと単純に見ている。政治資金の話でいえば、ゼネコンから巨額献金を受けていたという事実を私たちがどう評価するかの問題であって、説明不足というより、小沢氏は説明しようにも説明ができないのである。
綿密なシナリオがあったようにも見えない。辞めるか、辞めないか。捜査の行方はどうなるのか。小沢氏の心は千々に乱れ、結局、「チェンジ」を求める世論に抗しきれなくなっただけではないか。
この20年、小沢氏は絶えず政界の中心にいて、私たち政治記者も、その密室的行動に随分と振り回されてきた。そこで何かあると、ここぞとばかりにムキになって批判する記者もいれば、逆に「小沢氏の行動の裏には何かあるはずだ」と、あたかもはかりごとや策略が潜んでいるかのように深読みする記者もいる。
でも、「剛腕神話」を作ってきたのは私たちメディアでもある。それとおさらばするいい機会である。
民主党も「小沢氏は選挙に強い」「いつ何を仕掛けるか分からない」といった神話に頼り、時におびえてきた面がある。本当の党の実力はどれほどか。人々の「チェンジ=政権交代」志向に応えられるのか。新代表選びでそれが試されるはずなのに、議員の視線が国民ではなく党内にばかり向いているのが気になる。
毎日新聞 2009年5月14日 0時04分
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