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農業ビジネス−異業種も参入

大手企業によるアグリビジネス(農業関連ビジネス)への参入が相次いでいる。
特に最近は、農業とつながりの薄い業種が、本業で培った資本力や技術力をもとに、この分野に進出し始めたのが特長だ。
食品加工メーカーや、穀物取引に実績のある商社など、従来から縁の深かった企業も農業ビジネスに力を入れており、政府が98年末、企業の農業生産法人への出資や農地取得などを解禁する方針を示したことも、追い風になっている。
消費者の志向の多様化への対応に苦しむ旧来の生産者団体をしり目に、「消費者ニーズへの対応」を第一に挙げる企業主導の農業ビジネスは、低迷する日本農業に変革の波を起こしつつあるようだ。
大手企業が関連する主なアグリビジネス
企業名 本業 事 業 内 容
トヨタ自動車 自動車 バイオ・緑化事業室を設立。99年から、農林水産省九州農業試験場と共同で、新品種の飼料用サツマイモの開発に着手。飼料の国産化が狙い。
セコム 警備 子会社が89年、宮城県内に植物工場を建設。警備機器のセンサー技術を生かして、15種類のハーブを水耕栽培し、仙台市や東京などの市場に出荷している。
プロミス 金融 農業後継者の育成などを目的に、神内良一・名誉会長が97年8月、北海道浦臼町に農業生産法人を私財で設立した。80ヘクタールの農地に大豆、小麦などを栽培。
三井物産 総合商社 東海地方の自治体と契約して、農業再生プランを作成、98年から農作物の栽培指導、インフラ整備計画、販路開拓まで一括して請け負う農村活性化事業に着手。
伊藤忠商事 総合商社 98年春から農業生産法人などと提携し、野菜類を大手スーパー、コンビニに納品。貯蔵、郵送拠点として5年間で全国20ヶ所にサービスセンターを建設する予定。
大幸薬品 製薬 子会社が、整腸剤「正露丸」の製造過程で抽出される「木酢液」を稲作に活用。97年度から秋田県大潟村などで木酢液の土壌改良作用などを生かした低農薬米を栽培。
カゴメ トマト加工メーカー 新品種トマトの栽培に向け98年12月、茨城県美野里町で1.3ヘクタールのガラス温室の建設に着手。将来は全国10ヶ所に産地展開を計画
ドール 青果 現在、ロジスティクス整備を進めており、全国7箇所に輸入青果物用のプロセスセンターを完成させている。また今後全国15ヶ所にカット青果物工場を建設予定である。ロジスティックス整備により小売価格の25〜30%ダウンを見込む。
オムロン 制御機器 子会社とN農法研究会の共同出資で新会社を設立し98年末には北海道南部に東京ドームの1.5倍の広大な温室を建設し、年間1400トンのトマトを首都圏に販売する。
日商岩井 総合商社 農業生産法人を中心に、当面約800農家を組織化し、旗揚げした。
米国の有機農産物認証機関・OCIA(Organic Corp Improvement Association)の有機農産物認定ノウハウを導入し、生産した作物の販売を行う。
日本たばこ産業 たばこ 98年6月からスーパーなどを対象に野菜販売事業を本格的に展開。全国の農家を組織化し、自社開発した種苗、肥料を供給する。
オムロン系のトマト工場、ハイテクと資本力活用

北海道の空の玄関・新千歳空港から車で約15分。雪で覆われた千歳市長都地区の田園地帯に、巨大なガラス温室が威容を現す。総面積は東京ドームの約1.5倍の7.1ヘクタール。総事業費約22億円をかけた国内最大規模のこのガラス温室で、99年1月下旬から、高品質トマトの栽培事業が始まった。事業を担うのは「有限会社長都フロンティアファーム」。
オムロンの孫会社「エム・エー・エム・アソシエーション」(MAMA、本社・東京)と、農産物栽培の研究開発会社「永田農業研究所」(本社・東京)が共同出資して、97年4月に設立した。温室内は、気温や肥料濃度、水まきなどが、コンピューターで自動制御されている。人手を減らすと共に、トマトの生育に最適な環境を作り出して通常のトマトより栄養価が高く、糖度も1.5倍以上という高付加価値トマトを安定供給できる仕組みだ。99年4月下旬から出荷をはじめ、年間1400トンを首都圏のスーパーや専門店などに供給する。年間売上約7億円、3年目に累積赤字の一帰を目指している。
将来は同規模の温室を10棟以上増設したいという。MAMAの成田重行社長は、元オムロン常務。温室には、オムロン機器を一部取り入れた、温室栽培先進国・オランダの技術を導入したが、「やがてはオムロンの持つFA(ファクトリーオートメーション)技術を全面的に活用した農業ビジネスを展開したい」と意欲を見せる。JA千歳市の参事から転じた「おさつフロンティアファーム」の木滑康雄社長も、「オムロングループの技術を取り入れて、農業の暗いイメージを、若者に希望を持ってもらえるものに変えたい」と、地域農業の活性化に期待する。オムロングループが農業ビジネスへ進出したのは、「ハイテク技術を使った施設で、本物の味の健康にもいいトマトの生産の目処がつき、従来品よりも2、3倍高値で売れる見通しになった」(成田社長)からだ。従来は、ロボットや通信衛星なども活用して、「良いものを大量に作れる農業の工業化」(同)を目指したいという。このほか、トヨタ自動車も経営多角化の一環としてサツマイモ栽培に乗り出したほか、セコムの関連企業などものうぎょうビジネスを手かけるなど、異業種からの進出の動きが次第に広がってきた。
キューピー、野菜工場の販売も

キューピーが98年7月、福島県表郷村で操業を始めた「TSファーム白河」は、人工照明や独自の水耕栽培装置を駆使した「ハイテク植物工場」だ。密閉された施設で作られる「キューピット」ブランドのリーフレタスとサラダ菜は、無農薬栽培にもかかわらず、水洗いしないで食べられるほど細菌数が少ない。消費者の健康志向の高まりもあって、首都圏を中心に「サラダ菜などは1日約4500株を出荷しているという。同社は83年、「マヨネーズ、ドレッシングなどの販売促進にもつながる」として野菜工場の開発に着手した。自前の施設2ヶ所で運営しているほか、各地の第3セクターなどに計9基の野菜工場を1基当たり約1億5000万円で販売した。
「TSファーム白河」は、栽培規模を従来の野菜工場の4.5倍に拡大する一方、人件費や光熱費などを抑え、「スケールメリットが生かせるのが強み」だ。年間約2億円の売上を見込んでいる。
トヨタ、食料事業参入へ

トヨタ自動車が2001年にも飼料用サツマイモの加工・生産を事業化する計画が明らかになったことで、食料ビジネスへの企業の注目度が一段と高まり、国内農業の改革に弾みがつく可能性もある。
農水省は、輸入トウモロコシに依存する国内の家畜用飼料の原料を国産品に切り替えることで、97年度で41%(カロリーベース)に低下した食料自給率の引き上げを目指す。一方、トヨタは、国内の自動車市場が成熟期を向かえて事業の多角化を迫られる中、食料ビジネスが「収益性は高くなくとも長期に安定した事業が見込める」と考えた。
九州農試によると、サツマイモは、収穫量が畑10アール当たり2トン以上とトウモロコシを上回るうえ、欧米企業も品種開発に力をいれておらず、将来は種苗ビジネスへの参入も可能な作物という。共同研究は98年度から2000年度までを予定し、トヨタが新品種のサツマイモの加工方法や加工機械などを開発する。九州農試葉サツマイモの品種開発や飼料への適切な配合割合などの分析と、新しい飼料の使用マニュアルの作成を担当する。国内でも、大手化学メーカーが遺伝子組換え技術で資料用の多収穫米を開発したり、食品加工メーカーが野菜の大規模ハウス栽培を計画するなど、近年、農業と関係の深い企業を中心に食料ビジネスへの参入が増えている。
農業と縁遠かったトヨタも、21世紀の生き残り策として、非自動車部門で連結売上高約12兆円の10%達成を目標に揚げ、食料ビジネスを含むバイオ・緑化事業にも進出した。98年、オーストラリアで植林事業に乗り出したほか、米の品種改良や次世代農業システムの開発にも関心があり、今後「食」を巡る事業を拡大する可能性がある。
だが、こうした企業の取り組みを国内農業の活性化に生かすには課題も多い。2000年度に株式会社の農地取得が解禁されるが厳しい制約がつけられる見通しだ。新機軸の事業化は海外とする企業も少なくない。農水省は99年度から農政改革に乗り出したが、「企業の技術開発力、提案力、マーケティング力を取り込んでいく視点」が大切だ。
グリーンジャパン