急速な成長で世界一となったトヨタ自動車が、業績悪化に苦しんでいる。二〇一〇年三月期決算も、二年連続の大幅赤字の見通しだ。国内外で消費が冷え込む今、業績回復の道筋をどう描くのか。
トヨタが発表した〇九年三月期の連結決算は、本業のもうけを示す営業損益が四千六百億円の赤字に陥った。欧米、日本での販売不振と、為替レートの急激な円高が主な原因だ。一〇年三月期の赤字幅は、八千五百億円に広がる。
もともと日本の製造業は、原料を輸入して加工し、輸出でもうけてきた。トヨタは需要がある国での現地生産を増やし、為替変動に弱い輸出依存を減らす努力をしてきたが、北米への輸出で稼ぐ体質は変えられなかった。
販売台数世界一の目標を優先した結果、拡大路線の修正が難しかったとの反省もある。このため世界不況の予兆を見逃し、波を一気に受けることになった。
足元の日本も支えにならなかった。根底には、正社員を極力少なくした工場で造った製品を輸出し、円安で利益を膨らませるという製造業の経営手法がある。これでは企業の懐は温まっても、消費には結び付かない。雇用不安にさいなまれる消費者が、経済危機に敏感に反応したのは当然だ。
資源のない日本が、すぐに輸出依存の体質を大きく変えることは難しい。だが、まず国内での事業を優先して見直す時にきているのではないか。トヨタの場合、いくら新型プリウスが売れても、既存の車種が売れなくてはプラスにはならない。
国内メーカーには、思い切って車種を減らし、誰もが欲しくなるような代表車種を安く提供する大胆な考え方を望みたい。名前が覚えきれないほどの車種の多さを、消費者は求めていない。国内でしっかり利益を上げ、余力を輸出に振り向ける経営手法を採らないと、米ビッグスリーの轍(てつ)を踏むことになりかねない。
海外では、成長株の中国など新興国で、庶民がどんな製品を求め、いくらなら買うのかという素朴な感覚を大事にしてほしい。そこにまねできない技術を盛り込めば成功につながるだろう。
本年度の後半には、世界経済が底を打つという観測が強まっているが、V字回復の確証はない。日本メーカーには、数や量を追い求めるのではなく、従業員と消費者との共存を第一にする思い切った経営のかじ取りを望みたい。
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