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左足まひ賠償訴訟控訴審

2009年05月14日

左足に神経まひの症状が残ったのは手術ミスだとして、元トラック運転手の男性(39)が医療法人と医師を相手に損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が13日、仙台高裁秋田支部(竹花俊徳裁判長)であった。

一審判決は病院の説明義務違反を認め、計600万円の支払いを命じたが、男性と医療法人の双方が、判決を不服として控訴していた。

控訴理由書などによると、男性側は「手術や術後の治療は適切だった」とした一審の判決について、「手術中に大量出血したのは、医師が手術に向けて十分な準備をしなかったため」と主張。今後、第三者の医師に手術や治療法の鑑定を依頼する。

医療法人側は「難しい手術だという説明が足りなかった」とした一審判決に対し、「手術内容を正確に説明した。それ以上のことは予見できなかった」としている。

一審の判決文によると、05年6月、医療法人青嵐会が運営する本荘第一病院の人間ドックで、男性の骨盤内に腫瘍(しゅ・よう)がみつかった。医師は「手術後、1カ月で仕事に復帰できる」と話した。手術3日前、医師は大量出血する可能性を説明。男性は「1カ月で復帰できる」との当初の説明を頼りに手術を決めた。

男性は手術中に出血、医師が止血のため患部を100分にわたり圧迫。一審判決は、その影響で、まひが残ったと認定した。「手術や術後の治療は適切だった」として手術ミスは認めなかった。

 今回の裁判で争点のひとつとなっているのがインフォームド・コンセント(IC)だ。ICとは、医師が患者に十分な医療情報を伝え、患者が納得したうえで治療法を選択することだ。

 医療訴訟などで、医療行為の鑑定や分析を第三者の医師が行う民間団体「医療事故調査会」(大阪府八尾市)の代表世話人の森功医師は「IC不足による医療過誤は多い」と話す。

 調査会が95年から医療過誤の可能性があると鑑定した805件のうち、「IC不足」が医療過誤の原因になった事例は32・8%で、「医療知識・技術の未熟性」に次いで多い。手術のリスクについて患者が納得するまで十分説明しないと、手術による合併症を患者は医療ミスだと判断してしまいがちだという。

 調査会は一般的に医療事故を起こした病院が患者に取るべき行動として、(1)事故の早期検出と影響緩和(2)過失の有無に関係なく、結果に対する誠実な謝罪(3)病院内で原因を分析し、説明する(4)賠償も含め検討し実行する(5)責任医師への再教育を含めた再発防止策――などを提唱している。

 「生きるために控訴した」。控訴審を前に、男性は取材にこう答えた。1日のほとんどを自宅のリビングの一人がけのソファで過ごす。「後遺症で左足のひざから下に激しい痛みがあり、力が入らない。足首に保護具を付け、つえを使ってやっと、すり足で歩ける状態だ」と話す。

 妻(29)と小学生の娘2人の4人家族。仕事は退職した。今は契約社員として働く妻の約10万円の月収と母親からの借金が頼りだ。年収は4分の1になった。

 「娘が大きくなるのに生活のめどが立たない。こんなことになるなら手術はしなかった」と話す。

 一方、医療法人の弁護人は取材に対し、「簡単な手術だと受け取られるような説明はしていない」と話した。「出血を伴うことや手術せずに経過観察もできることを説明したうえで、男性が積極的に手術を望んだ」という。

 また、「手術の難しい位置に腫瘍があることは開腹して初めて分かったことで、手術する前に医師が予見することはできない」と主張。出血の量は骨盤内の腫瘍を取り除く手術としては、多すぎることはないとした。

 男性の運動機能については「車の運転ができるまでに回復している」と話した。

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