ここから本文エリア 若手医師が減っていく2009年05月14日
地方の若い医師が減り続けている。地方の大学を卒業後、都市部で就職する医学生が増えているためだ。広島と福岡の両大都市圏に挟まれている県内は、医学生が県外に流出しやすい地勢もあり問題は深刻。現場の医師や県は危機感を募らせ、「引き留め」を図るが、有効な手だては手探りの状況だ。 ◆医学部卒後、県外で臨床研修・就職 先月22日、山口大医学部付属病院(宇部市南小串)の一室であった「総合診療部」の実習。同付属病院卒後臨床研修センターの指導医チーフ、原田唯成助教(地域医療学講座)が、5年生5人にそうアドバイスした。県内に研修医として残ってもらいたいとの思いからだ。 5人はうなずきながら真剣な表情で聴き入っている。大学を卒業すれば、研修先を選べる2年間の臨床研修に移行する。研修を終えれば、進路の選択は自由だ。自分で勤務する病院を選ぶことになる。 5人はまだ進路を決めていないが、下松市出身の国居由香さん(23)は県内で研修、就職するつもりだ。「知っている先生も多く、必要とされているほうがうれしい」。広島県出身の坂英樹さん(29)も知人の多さから「山口は魅力的」と話す。 だが、下関市出身の古田貴士さん(22)は「指導員や患者の症例の多さを重視する。県内にはこだわらない」。那覇市出身の久保田喜秋さん(26)も、県内外にはこだわらず、自分の診療科が決まった段階で、その診療科で有名な病院を選びたい考えだ。 佐賀県出身の一瀬仁美さん(23)は「県外がいい」ときっぱり。3年生の時、大阪府の小児専門病院の実習で貴重な経験ができた。「特殊な病院は都市部が多い。特殊なところを見てみたい」と話す。 原田助教は研修で「自分の所に勉強に来てほしい」と思いを込めた。しかし、「学生は全国を視野に入れ、スキルアップにはどこがメリットがあるのかを考える。一方で、慣れ親しんだ場所というアドバンテージ(有利さ)を生かすことも考えている」と分析する。 ◆山大・県、引き留め策強化 ◇ 県地域医療推進室や県医師会によると、06年度の人口10万人に対する医療施設従事医師(病院、診療所の医師)の絶対数は、県内は227・6人で、全国平均の206・3人を上回り、医師不足はそこまで深刻ではない。 ところが、これを年齢構成の割合で見ると、20〜40代は全国平均を下回り、逆に50代以上は上回る。例えば、20代は7・2%(全国平均9・9%)で、70代の8・7%(同7・4%)よりも少なく、県内は若い医師が少ないことを示している。 医師の高齢化も年々進んでいる。06年度の調査で割合が最も高かったのは40代で25・6%(同25・7%)だが、98年度までさかのぼると30代の25・2%(同27・9%)が最多だった。02年度と比べて年齢分布のピークは5歳上がり、20〜40代の医師数は68人も減少していることになる。 一方、県は県内の医学生に支援金を出すなどの対策を強化している。だが、山口大医学部が昨年から今年にかけて行った学生への聞き取り調査では「県内は小規模の病院ばかりで、基幹施設に集約できていない」「人口20万人以下の中小都市ばかり。道路は立派だが、車なしで生活できない」など地勢的な不満もあった。 福岡、広島県に挟まれる県内からは患者も県外へ流れ、医師が扱える症例も減ってしまう現状があるという。山口大付属病院卒後臨床研修センター長を務める鈴木倫保教授は「半分は地勢的な問題、半分は病院の問題。医師が喜んで働ける魅力ある病院に生まれ変わる必要があるだろう」と話す。 ■臨床研修制度■
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