2009年5月15日 11時7分 更新:5月15日 12時28分
やっと司法に思いが届いた--。福岡市東区で06年8月に起きた3児死亡事故で、15日の福岡高裁判決は1審・福岡地裁判決を覆し、量刑の重い危険運転致死傷罪を適用した。厳罰を願い続けた3児の両親、大上哲央(あきお)さん(36)、かおりさん(32)夫妻は判決後、会見で3児の遺影を抱いて万感の思いを込めた。しかし、控訴審は判決言い渡し時に出廷の義務はなく、元同市職員の今林大(ふとし)被告(24)の姿は法廷になかった。【江田将宏、近松仁太郎、金秀蓮】
午前10時、福岡高裁501号法廷。大上夫妻は満面の笑みを浮かべた3児の遺影を抱いて最前列に座った。「被告を懲役20年に処する」。法廷に陶山博生裁判長の声が響くと、夫妻は目を見開き、遺影を持つ手に力を込めた。判決理由の朗読にじっと聴き入り、涙を浮かべて法廷を出た。
閉廷後の会見で、哲央さんは「私たち夫婦の思いがやっと司法に届き、胸がいっぱいになった」と、一語一語かみ締めるように語った。
かおりさんは「量刑については納得していないが、危険運転致死傷罪が適用されたことは評価できると思います」とある程度納得した様子。「この刑事裁判に求めていたのは、彼の行為が過失なのか故意なのか、だった。判決で、罪に服す際の彼の意識が変わってくれるのではないか」と涙をこらえながら話した。
今林被告は姿を見せなかった。法的には出席する必要はないが、哲央さんは「判決を受け止め、反省してほしい」。かおりさんも「私たちのつらい思いを分かってほしくて、家にある一人一人の遺影を持参したのに、それさえ見てもらえなかったことは残念。反省が期待できず、かける言葉はない」と言い切った。
被害者代理人の羽田野節夫弁護士は「今林被告は口では謝罪しながら、居眠り運転や急ブレーキなど被害者に過失があるような主張を繰り返した。いわれのない過失をあげつらった姿勢が夫婦をいかに傷つけたか」と、被告側の姿勢を厳しく批判。「被告は夫婦に責任転嫁せず、民事上の賠償問題も速やかに解決し、誠意を示して」と呼び掛けた。
一方の今林被告。07年6月20日の保釈以降、福岡市東区内の自宅で両親と共に暮らしているとみられる。この日は玄関の鍵が閉められ、中に人の気配はなかった。
被告をよく知る男性は「犬の散歩を見ることはあるが元気がない。あいさつしても『あいさつなんかしなくて結構ですから』とひどく恐縮していた」と語る。「漁師の仕事もしているようだが、ほとんど顔を見ない。外出しないのが反省の方法なんだろう」と推し量る。
今林被告は地裁初公判(07年6月)で「ご遺族にどうおわび申し上げていいのか」と謝罪したが、「運転困難になるほどの飲酒はしていない」と起訴内容を否認。同9月の被告人質問でも「飲んでいた時の記憶もはっきりしている」などと深酔い状態を否定していた。