本稿は洋泉社『映画秘宝』誌の特集コーナー「イエスタディ・ワンスモア トップガン&フラッシュダンス」のテクニカルサポートコラムとして掲載される予定だったが、当コーナーの町山智浩氏によるテキストが文字数を大幅に超過し、やむなく削られたものである。町山さんの論旨がブラッカイマー完全否定だったことを思うと、載らなくて幸いといえば幸いだったが、まぁ、ここで陽の目くらいは…。



 アメリカ海軍航空基地のエリートパイロット[トップガン]を目指す訓練生たちの物語。恐らく飛行機映画として、もっとも多くの人がこれを思い浮かべるであろう、戦闘機映画のマスタピースだ。

 なによりトム・クルーズがハリウッドを代表するマネーメイキング俳優となり、ロックサウンドとMTV的ビジュアルエッセンスで、後のジェリー・ブラッカイマー製作ムービーの基となった記念碑的作品でもある。
 軟派な男が一人前の飛行機乗りとなる古典的ストーリーも、F−14トムキャットの目の回るドッグファイトシーン等でカバー。その発展線上に『エネミー・ライン』があることを考えると、後の飛行機映画への影響もとてつもなく大きい。あまりに好戦的で中身の薄く軽薄な主人公を演じた反動か、トムは『7月4日に生まれて』といった反戦色の強い作品をフォロー、演技派を強くアピールし始める。



“MTV毒”“ハンバーガーフィルム”……アメリカ映画の墓標のようにクソミソ言われる『トップガン』だが、先に述べたとおり「空戦描写の臨場感を追及した作品」として、後続の戦闘機映画に与えた影響は計り知れない。

 監督のトニー・スコットと撮影監督のジェフ・キンベルは、F−14戦闘機のスピード感を画面に出すために『ライトスタッフ』(83年)のX−1飛行シーンを徹底研究した。というか当時、超音速レベルの飛行描写を捉えたビジュアルは空軍の試験フィルムくらいで、映画の演出効果という意味では『ライトスタッフ』しか参考にできる作品がなかったのだ。

 そして視覚効果も『ライトスタッフ』を担当したUSFXに依頼。ドッグファイト・シーンは合成処理を使わないライブ撮影を徹底し、編集は模型がバレない配慮として、4秒以上のショットを排した1〜3秒のカットテンポを維持。このおかげで以後、映画の体感速度そのものが飛躍的にアップした。
 さらにはドリルの振動を利用した“ぶれ”のカメラアクションも画期的だった。この手法をクローズアップさせた『プライベート・ライアン』(98年)に先んじること12年前である。

 また本作はスーパー35フィルムで撮影され、上映プリントはワイドスクリーン(シネスコ)の画角に切り取り、ビデオはTVサイズに切り取ってテレシネが施されている。
 これをよく「副次収益も念頭に置いた、周到なブラッカイマー戦略」と言うが、それは誤解だ。ワイドスクリーン用のアナモフィック(圧縮)レンズと、そのマウントを持つパナビジョンカメラがF−14飛行時のGに耐えられず、コクピット内のワイドスクリーン撮影が不可能だったのだ。


 ちなみにトニーはスーパー35の有用性を兄であるリドリー・スコットに説き、リドリーは『ブラックレイン』(89年)でそれを導入。ああ美しき兄弟愛と言いたいところ、兄ちゃんは画の粒子の荒さがイマイチお気に召さず、品質改善を待って『グラディエーター』(2000年)まで使い渋るのである。



(未発表原稿 2003年執筆分に補筆)











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