美人マジシャンと天才化学者のコンビが、世の胡散臭い伝説や怪奇現象を徹底的に暴き出す!! いつも『映画化決定!』とかフェイントをかましていたあの『トリック』が、なんと本当に劇場長編ムービーになってしまったのだ。そこで「ひん曲がり」尾崎は、そんな『トリック』のブレインともいえる人物。今や映像を志す者が最初にその名を挙げる当代きってのブランドディレクター・堤幸彦監督にインタビューを敢行したのだ!!
尾崎 『トリック』すごいですね。TUSTAYAとか行っても「貸出中」の札がベッタリですよ。
堤 僕が借りてるからね(笑)、マメに行って。
尾崎 そりゃ大変だぁ(笑)。で、映画版の『トリック』ですが、HD24Pのデジタルシネマですね。
堤 うん、なによりセッティングも簡単だし、やってる状態もTVドラマと全く変わらず、同日に24pにカメラを換えて「じゃあ劇場版の撮影に入ります」って、そのままレギュラー版が続いてるかのような感じで撮影状態を作ることができたのは利点かな。けど24pって、質感を映画っぽくするには隠れた努力が相当必要な、難しいハードなんですよ。10年前にハイビジョンでNYでオノ・ヨーコさんの映画撮ったんだけど、これも当時はまだローテクで、地下鉄走ると画が曲がるみたいな初期トラブルがあった。あの頃にくらべればだいぶん良くなってきたものの、それでも35ミリの映画的ダイナミズムを表現するにはちょっと情報量が少なすぎるよね。
尾崎 HD24Pで撮った他の作品は観ました? 『スターウォーズ・エピソード2』とか『ミスタールーキー』とか。
堤 『ミスタールーキー』はちょっと色が浅い感じがしたぞ。
尾崎 え、ご覧になったんですか『ミスタールーキー』を(笑)
堤 うん(笑)。でも例えば『スターウォーズ』に関して言うと、合成が多くて既に狙ってる画なワケだよね。そういうデジタル処理のためには必要なハードかもしれないけど、ただやっぱり初期の『スターウォーズ』と比べて発色が良くなくて、ちょっとくすんだように見えるのは俺だけかな? やっぱアナログ合成してたときの方が禍々しくて『スターウォーズ』っぽいっていうのがあるもん。だからエピソード1にしろ2にしろ、凄く合成がクリアで良くできてるんだけども、10分で目が馴れて驚きが薄れていく。金かけてる割にはもったいないよね。
尾崎 なんだかテクニカルな話になってしまって(笑)。あと物語的な部分では、あの奈緒子と上田の仲にケリつけちゃってるというか。
堤 あの二人って、ヒーローでも何でもないわけですよね。どこまで行ってもダメ人間。特に上田に至ってはもう“変身しないクラーク・ケント”っていう感じで、飛びたくても飛べないキャラだし、奈緒子は顔は綺麗だけど、全然何をやっても受動的な主人公。でもそれが愛すべきキャラクターであって、その二人がふとした瞬間に「もしかしてこの駄目人間同士がくっつくと、いいメルヘンだよね」ってなるってのは、『トリック2』の一番最後でちょっと匂わせて流してみたんですよ。それが意外と好評だったんで。
尾崎 あと嬉しいのは、竹中(直人)さんが『東京イエローページ』テイストなキャラ全開で、レギュラーだと生瀬勝久さんがかっての劇団そとばこまち時代(槍魔栗三助)の頃の演技をやってるけど、これも監督の意向で?
堤 やっぱり竹中さんっていえばあの芝居を見たいじゃない。アドリブがほとんどで段取りだけ説明させてもらって、衣装もこれでと状況だけ作らせてもらって、「竹中さん、一つ見せてくださいよ」っていう感じの(笑)。当然もう先祖返りっていうかね、久々見たなこの感じっていうのは凄い楽しかった。生瀬さんは、何ら本編に関わることなくヅラネタだけで最後まで行くかっていうのが一番大きな狙いで(笑)、ある時はやっさん(横山やすし)になってもらったりね(笑)。「今回やっさんで行きましょう!!」「やっさんってどんなだったかなぁ?こう、動きからじゃないっスか?」とか(笑)。尾崎 監督の作品って一枚絵としての映像センスにも長けてるけど、ご自身のビジュアル体験ってのは?
堤 僕はどっちかっていうと本業が音楽だから、それこそビジュアル体験は『ウッドストック』に始まって『レット・イット・ビー』とか『レッド・ツェッペリン熱狂のライブ』とか。多感な時期にゴダールやらアラン・レネやらルイ・マルやらを観てれば、またちょっとは違う人生になってたかもしれないけど、映画には全く興味がなかった、でも映像専門学校に入ったときに、そこの教師がコッポラの『ゴッドファーザー』でもなく『地獄の黙示録』でもなく『ワン・フロム・ザ・ハート』薦めてくれて。これがガツンときた(笑)。
尾崎 監督との距離が縮まったなぁ。オレもコッポラはあれが一番ですよ。
堤 すごいよね、デジタル以前にスタジオ一個潰して完全セット撮影だもん。あと、秋元康さんと会社を作ったとき、ちょうどレンタルビデオ屋が流行り始めた頃で、作品を作ったりCMをやるにしても、プレゼンの段階で映画って共通言語だから、いかに映画を知ってるかによって勝ち負けが決まっていくかみたいなところがあって。「アレ観た? アレ観た?」の応酬で「観てない」っていうの悔しいし、そのために新作が出るとまとめて寝ないで見るってのを2年くらいやったの。(笑)その段階で千本くらい観て、無理矢理詰めこんだって感じのビジュアル体験かな。
尾崎 千本ノック状態ですね(笑)
堤 でも、それだけ観ても未だに『ワン・フロム・ザ・ハート』を越える作品はなかなか出てこないよね。
尾崎 素晴らしいですよねぇ。
堤 ベスト1っスよ。そういえばこの前、『インソムニア』のクリストファー・ノーラン監督と対談したときに、お互い好きな映画は?って話になって、彼は『ブレードランナー』だとか言うんだけど、僕は悪いけど『ワン・フロム・ザ・ハート』とリチャード・レスターの『ナック』だよって言ったら、「『ナック』って観たことない」って。よっしゃ!!(一同爆笑)
尾崎 あと「オレこのジャンルやっとかなきゃ」ってのは?
堤 そりゃ最後の理想は『ワン・フロム・ザ・ハート』じゃないけど、やっぱり音楽映画かな。でも当たらないし流行らないんだよね、日本で音楽映画って。
尾崎 じゃあ最後に『トリック劇場版』監督なりの見所っていうか、ここはちょっと俺的ポイントだよみたいなところは?
堤 え〜、見所はですね、いろんな神様が出てくるんですけど、どんな神様も、トランプで勝負をかけてくる(笑)。どんな大仕掛けや大魔術になるのかと思いきやトランプで勝負という、ここが見所です。
尾崎 今回の映画は監督の中で“完結編”っていう意味合いはあるんですか?
堤 全然ないです。『トリック』ってのは“預言する作品”なんですよ。TV1作目のときに「パート2希望」って野際陽子さんの書道教室で子供に書かせたんですけど、『トリック2』が実現し、『トリック2』においては「映画化希望」と書かせて映画になり、映画では「パート3やりたい」と書いてありますから(笑)。テレビ朝日最強のキラーソフトとして、『はぐれ刑事』シリーズを凌駕する作品になって、延々と寅さんみたいにやってたいなってのはあるけどね(笑)。
(初出誌:ワールドフォトプレス「フィギュア王」2002年11月号)
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