今回の星取りで取り上げた、古典的名作のレストアバージョン『E.T.20周年アニバーサリー特別版』。スピルバーグ・シンパのオザキとしては、ある意味『A.I.』や現在製作中の『マイノリティ・リポート』よりも強く言及したくなる作品っつーワケで、今回はちょっとこの場をお借りし、早々とオリジナルと特別版の差異に触れてみる。
まず今回の『特別版』の大きな特徴は、当時のメカニカルパペットでフォローしきれなかったE.T.の動きと表情が、CGアニメーションで補正されている点だ。人間に追われて宇宙船に戻ろうとするE.T.の全身ショットや、リアクションの激しい単独アップなど、ILMが約52カットにわたってレタッチしている。
そしてもうひとつは、追加された未公開フッテージの挿入。『E.T.』はスピルバーグ作品のなかでも編集時に大幅なカットをした映画として知られており、その代表的なものは以下のとおり。
【1】宇宙船が雲間から降下してくるシーン
【2】E.T.がお風呂で沈むシーン
【3】エリオットが保険室の黒板に回路図を書くシーン
【4】エリオットが校長先生に説教をくらうシーン
【5】ハロウィンの晩、車で迎えに来たママにガーティが
「お兄ちゃんは森へなんか行ってない」とウソをつくシーン
【6】別れの後のエピローグこのうち、今回の『特別版』には【2】と【5】が追加されている。初公開時の予告編で話題になった【1】、ハリソン・フォードが校長に扮している【4】、そして後の【3】【6】は残念ながら入っていない。これらはパイオニアLDCから出ていたスペシャルコレクションLD(現在廃盤)で見ることが出来るが、今回追加されたシーンは初蔵出しだ。なにより【2】は耐性に優れたE.T.の生物的側面を示し(蘇生への伏線)、【5】はドリュー・バリモア扮するガーティが「すぐ本当のことをしゃべってしまう子」であることを観客に呈示する、本編上きわめて重要な箇所なのである。
ただ今回もっとも賛否が分かれるのは、映画の中に写り込んでいる銃をデジタル処理で消していることだろう。
特に問題なのはクライマックス。エリオットたちを待ち伏せる警官の、ショットガンがアップになるカット(約2秒弱)をまるまる削除したため、当然ノンストップで鳴り響くジョン・ウィリアムスのスコアもブツ切りせざるをえず、最大の見せ場に入るタイミングとリズムが微妙に狂ってしまっているのだ。
「子供に銃を向けるのはよくない」と、スピルバーグは以前から当該箇所を修正する意向だったのだが、う〜ん、『プライベート・ライアン』野郎が何をいまさら…というか。まぁ、ビデオやDVDが普及した現在、何らかの付加価値がないとリバイバルも興行的には難しいだろうが、できることなら新たなバージョンを公式版として残すのではなく、オリジナル版も並行してキチンと残してくれる配慮を望みたい。たとえ表情に乏しくとも、あれはあれで当時の視覚効果クルーが呈示した最高の仕事なのだ。なんでもかんでもCGで駆逐しちゃ、カルロ・ランバルディの代表作が『REX恐竜物語』になってしまうじゃないの!!
(でも『E.T.』の今と昔に思いを馳せると、本当に感慨深いのは人生グルリと一回転したドリュー・バリモアだったりするんだが)
Universal Studios Licensing, Inc. All Rights Reserved.バアさんを山に捨てに行こうとする『楢山節考』のワンシーン…じゃなくて、『E.T.』のベストショット。ちなみにオザキが初公開当時に観た劇場は、今では飲み屋の雑居ビルになっています。泣くなエリオット!
(初出誌:ワールドフォトプレス「フィギュア王」2002年4月号)
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