★No.31 『市民ケーン』アメリカ版DVD★

 非クロノロジカルな編集やディープ・フォーカスなど、映画の革新ともいえる話法と技法で構成された映画史上最高傑作『市民ケーン』。AFI(アメリカ映画協会)が選出した《アメリカ映画ベスト100》で堂々第1位に輝くこの超名作が、先日アメリカでようやくDVD化された。
「日本じゃとっくにIVCから出てるじゃん」という声もあるが、この国内版を観た人は、その画質に思いっきり失望したに違いない。というのも、『市民ケーン』は残念なことに1950年代にオリジナルネガが失われてしまい、ビデオマスターは既存のデュープ・ポジからトランスファーされ、発売元によって画質に大きなバラツキが生じているのだ。
 そんな状況にあっていちばん美しい画質の『市民ケーン』は、米クライテリオンが1991年にリリースした公開50周年バージョン。UCLAフィルム&テレビジョン・アーカイヴが保管するファイン・グレイン・ポジ(オリジナルネガから焼いたマスタープリント)よりテレシネされたマスターを使用したものだが、それ以外のビデオ&LDは黒がベタつぶれで、グレッグ・ト−ランド撮影による白黒コントラストの美しさが台無しになっている。これでは至高の傑作も泣こうというものだ。

 そこで冒頭に戻るが、先日リリースされた米DVD版『市民ケーン』は、公開からちょうど60周年となる記念版として、クライテリオンでも使用したファイン・グレイン・ポジを再度テレシネマスターに、見事なデジタル・レストア作業を施したものだ。結果、これまで最高クオリティとされてきたクライテリオン版を凌駕する画質を実現してしまった。そのクオリティたるや、仮にオリジナルネガが現存し、それからテレシネしたものと比較しても決して「遜色なし!」と断言できるほどだ(『ウルトラQ』のDVDを観たときの感動に近いか)。
 だが、名作が名作としての風格にふさわしい画質となって蘇ったにも関わらず、残念ながら日本では前述したIVCが権利を持っているので、今回の米ワ−ナ−版の国内リリースはちょっと難しいだろう。
 いや、これってオレ的に歓迎して然るべき風潮なのだが……。だって、みんな既に忘れてるだろうけど、オレ【画質の悪いDVD愛好会】の会長だからして。




『市民ケーン』米DVD版ジャケット。2枚目に収録されているドキュメンタリーが面白いが、クライテリオンLDに収録されていたリドリー・スコットやブライアン・デ・パルマらのリスペクト証言集“The Legacy of CITIZEN KANE”を再録して欲しかったなぁ。


(初出誌:ワールドフォトプレス「フィギュア王」2001年11月号)






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