最近、ある編集者との談議で、イタリアン・ホラーの巨匠ルチオ・フルチの名作ゾンビ映画『サンゲリア』に話が及んだときのこと。編集氏いわく、
「昔、ある映画誌に載った『サンゲリア』のストーリー紹介が今でも謎なの。ほら、漂着したヨットに乗ってたゾンビに噛まれて死んだ警官が、死体安置所で甦るシーンあるじゃないですか。その雑誌じゃ、そいつのせいで増えたゾンビに、警官隊が銃撃戦で応じる描写が紹介されてたんですよ」
『サンゲリア』に、そんな嬉しいシーンは存在しない。あの作品もいろいろバージョンが存在するし、海中でゾンビがサメ相手にバッコンバッコン格闘する場面があるくらいだから、ひょっとしてシーンは存在したものの、カットされたという可能性もある。
恐らくその記事を書いたライターは、初稿のスクリプト(脚本)を参考に『サンゲリア』のストーリー紹介を書いたのでは? というのが我々の結論。実際そういうケースはよくある話で、例えば『ダイ・ハード2』なんかも、プログラムに書いてあるストーリー紹介が映画本編と少し異なる。これは作品を観るより先に原稿を要求されたライターが、スクリプトを参考に書いたパターンだろう。まあ、最近じゃDVD市場が充実し、映画ソフトのコンテンツとして未公開フッテージやオルタネイト・エンディングなどの映像特典がバンバン収録されてるし、アメリカじゃ映画のワークプリントがテレシネ流出され、それを無断で売っているブートレッグ業者もいる。スクリプトだって、それこそ没作品から初稿まで容易にインターネット上でダウンロードできるワケで、昔のように「幻のシーン」や「未公開シーン」で大騒ぎすることが、マニアの特権じゃなくなった気がする。件の『サンゲリア』だって、その気になればどの段階で誤解が生じたのか、[ロストフッテージ]の正体を調べることも難しくないだろう。ただ『サンゲリア』にそこまで入れ揚げるファンがいればの話だけど。
そういえば、かって『インデペンデンス・デイ』が国内公開されたとき、先行して本作を観ていたオタキング・岡田斗司夫氏が「大統領がクロゼットからメットを取りだすシーンがない!」と主張したことがあったっけ。これなんかはロストフッテージ・マニアにはたまらない発言だった。結局、件のシーンは岡田師匠のたくましい想像力が生みだした妄想だったんだけど、こういうケースも多いんで、『サンゲリア』もあながちライターの妄想が生んだ「夢のシーン」だったのかもしれない。
(初出誌:ワールドフォトプレス「フィギュア王」2001年3月号)
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