★No.21 『エクソシスト/ディレクターズ・カット』の真実★

「やっぱり呪われた映画?」「前代未聞の珍事!」と映画業界を震撼させた『エクソシスト/ディレクターズ・カット』公開延期事件。封切り直前の2日前に起こった突然のアクシデントは、外資系配給の落とし穴や監督の強権発動など、さまざまな理不尽を浮き彫りにしてしまった。
 配給元のワーナーはこの突発的事態に対し、オフィシャルHPでウィリアム・フリードキン監督本人を招聘しての弁明チャットを実施したものの、900人近くがアクセスして大混乱。監督は、
「日本で上映するプリントのコントラストが、創作上の意図に反するものだった」
 と後説プリプリなコメントでお茶を濁し、メチャ歯切れが悪い。

「日本での公開規模に不満があったのでは?」とか「話題作りのための策略」などと憶測も飛び交ったこの騒動。ここだけの話、原因はもっと単細胞で、もっと致命的だったりする。

 今回の『エクソシスト』は、正確にはフリードキンによってファイナル・カットされる前段階のバージョン。BBCの制作した『エクソシスト』25周年ドキュメンタリー(国内版DVDに収録)が契機となり、復元へと至ったものだ。当然、未公開シーンの復活で作品は新たな商品価値を持ち、劇場リバイバルへと始動。公開1週間のボックス・オフィスは全米第2位のヒットとなる。
 ところが観客の反応は初公開時とまるで違っていた。若い連中はリーガン(リンダ・ブレア)の首がグルリと回転したり、スパイダー・ウォークでひょいひょい階段をかけ降りるシーンで、なんと大爆笑してしまったのだ。

「オカルトスリラー映画史上、最も恐ろしいと評された作品が『最終絶叫計画』のようにゲラゲラ笑われている!!」

 かって『シンドラーのリスト』が公開されたとき、劇場でストリート・ギャングの黒人少年たちが、マンハントのシーンで大笑いするという事態が起こった。曰く、
「銃で撃たれた人間が、あんな死に方するかよ」
 それを気にしたスピルバーグは3年後、『プライベート・ライアン』でこれでもかとシューティング描写を徹底させた。
 だが、暴君フリードキンの弔い合戦は違う。クリエイターにとってまさに屈辱ともいえる事態に怒りとショックを抑えきれず、現在公開中の作品に容赦なくメスを入れるのだ。 本当にプリント修正だけならいいのだが。来春、観客が26年前と同じ『エクソシスト』を観るハメにならないことを祈るばかりである。


(初出誌:ワールドフォトプレス「フィギュア王」2001年1月号)






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