フランス印象派の巨匠モネは、日本人が最も好む画家の一人だろう。代表作といえる「睡蓮(すいれん)」の連作は、後半生の四十三年間を過ごしたジベルニーで制作された。
昨秋、パリの北西約八十キロに位置するジベルニーを訪れる機会があった。柳の枝が水面にしだれ、スイレンが浮かぶ「水の庭園」は、モネの絵画世界そのもの。散策しながら、移ろいゆく光を追い求めた名画の数々をまぶたにだぶらせた。
そのモネの大作「睡蓮―草の茂み」を香川県直島町の地中美術館が新たに収蔵したと先日、本紙が報じていた。既に四点の「睡蓮」シリーズが並ぶ「クロード・モネ室」に恒久設置するという。
地中美術館へは何度か足を運んだ。真っ白な壁面、二センチ角の大理石を床に敷き詰めた展示室。柔らかな自然光が白い空間に充満し、作品が絵巻物のように並ぶ。画面にみなぎる自然の生命力、光と水の戯れに吸い込まれるようだった。
新収蔵の作品も睡蓮と水がつくり出す世界を描いている。モネが集中的に睡蓮の大作に取り組んでいた七十歳代の作。三十一日からの日本初公開が楽しみだ。
瀬戸内海に浮かぶ“アートの島”として脚光を浴びる直島。五年前の地中美術館オープンをきっかけに観光客が急増している。島の活性化に与えた芸術文化の力は侮れない。