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インターネット大好き小池さんのブログ

2009-05-13

女子高生とセックスしたら逮捕?条例はそうなっていません。

女子高生とみだらな行為 20歳大学生を逮捕 - MSN産経ニュース

 女子高生とみだらな行為をしたとして、千葉県警印西署は12日、県青少年健全育成条例違反の疑いで、千葉市中央区蘇我私立大学3年の荻野隼容疑者(20)を逮捕した。同署によると、荻野容疑者は容疑を認めているという。

 同署の調べでは、荻野容疑者は昨年9月上旬ごろ、自宅マンションで、会員制サイト「mixi(ミクシィ)」内の出会い系サイトで知り合った同県白井市の県立高校3年の女子生徒(17)が18歳未満と知りながら、みだらな行為をした疑いがもたれている。


まず結論

 この記事の良くなかったところは、女子高生とみだらな行為をした疑い」とだけ書いたため、千葉県条例が「不当な手段による」または「単に自己の性的欲望を満足させるための」「...性行為」という要件を課していることが伝わらず、成人による女子高生とのセックスすべてが禁止であるかのような印象を与えた ところにあると思います。

 成人が女子高生とセックスしたらみんな違法?いいえ、次に見るように、千葉県条例はそうなっていないのです。だから、事実はおそらく、 ”女子高生とセックスした”から逮捕されたのではなくて、”騙したり威迫したりして女子高生とセックスした”から逮捕されたのだと思います*1。産経の記事からはこの点が読めず、読者の誤解を生んだようです。その結果、「20と17なんて普通じゃね」「女子は16歳から結婚できる事実と不均衡では」「18歳まで自由恋愛(SEX)禁止とかどんだけ」みたいな感想のブコメがたくさんついちゃった*2。以下条文を引いて説明を書いてみます。


成人による女子高生とのセックスすべてが禁止されているわけではない

千葉県条例にあたると、

○千葉県青少年健全育成条例

(みだらな性行為等の禁止)

第二十条 何人も、青少年に対し、威迫し、欺き、又は困惑させる等青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段によるほか単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められない性行為又はわいせつな行為をしてはならない。

2 何人も、風俗営業法第二条第六項第一号から第三号まで又は第七項第一号に規定する営業に関し青少年を客に接する業務に従事させる目的で、青少年に性行為又はわいせつな行為を教え、又は見せてはならない。

http://www.pref.chiba.lg.jp/reiki/33990101006400000000/41790101005600000000/41790101005600000000.html

と規定されています。つまり単にセックスするだけで逮捕されるというわけではないんです。

  • 「威迫し、欺き、又は困惑させる等青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段による」か
  • 「単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められない」*3

「...性行為又はわいせつな行為」

だけが禁止されているのです。だから、例えば婚約者間での和姦や、彼氏彼女間での和姦は禁止されていません。


福岡県青少年保護育成条例事件の判例法理

 この冗長にも思える規定の仕方にはわけがあって、昭和60年以来の判例法理が根拠になっているんですね。それは、単に「青少年と淫行をしてはならない」とだけ書いてあった福岡県条例に違反するとされた被告人が争っていた事件で、「淫行」の定義について、最高裁の多数意見が以下のように示したものです。長く引用しますが、

福岡県青少年保護育成条例事件(最大判S60.10.23 刑集39巻6号413頁)

...本条例10条1項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものを含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目にして単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。

これを重く受け止めて、多くの県の県条例では、

「何人も、青少年に対して、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。」

みたいな曖昧な規定の仕方をやめて、金品供与や周旋のあった場合や、脅しや欺罔のあった場合や、単に性欲のはけ口としてだけの目的でセックスする場合などに限定しています。

 なお、実はこのような限定を加えることで、刑法177条の強姦罪の規定との調和を図っています。条例は法律の範囲内でしか定められない(憲法94条)からです。刑法177条では、13歳以上の女子とのセックスは、暴行又は脅迫によらなければ、刑事罰の対象にならないように規定してあります。条例が17歳女子とのセックスを禁止することになると、この法律に反するのではないかという疑いが生じます。この疑いを乗り越えるために、法律と矛盾しないのだよという体裁を整える目的で、上記判例法理と現行の多くの県条例の規定の仕方があるということです。

 ややこしい話になりましたが、このように、「20歳男と17歳女がセックスしたら、男はタイーホ!」と、ただちになるわけでは、ないわけです。


さいごに

 もちろん、ニュース記事には正確さの他に簡潔さも求められますから、端折らざるをえない情報があることはわかります。構成要件をいちいち全部書くことはできないと思います。ただ、この産経の記事にこれだけの注目とブクマが集まってしまった理由は、書く必要のある情報を捨象してしまった結果、間違った伝わり方をしたからなんじゃないかなと思って、このエントリを書きました。県条例への誤解も解けたらいいなあ。いちおう原典にあたりながら注意して書きましたが、もし何か間違っていたらごめんなさいね。


参考リンク

やや古いデータもあるけど、淫行条例関係のよいまとめ

淫行条例(都道府県別)

福岡県青少年保護育成条例事件(最大判S60.10.23 刑集39巻6号413頁)

判例検索システム>検索結果詳細画面

Wikipedia: 条例

条例 - Wikipedia

*1:もちろん現場にいたわけではないので事実はわかりません。ただ、県警に法の支配が及んでいるという前提からは、論理的にこうなります。

*2:僕自身も勘違いした(^^;;;

*3:この点について、およそ性行為は自分の性欲を満足させるために行うのが普通だという指摘もあります。例えば、福岡県青少年保護育成条例事件判例での伊藤正己反対意見で、「性行為そのものは、自己の性欲を満足させるために行われるのが通常であるから、それはほとんど限定の作用をいとなまず、結婚を前提としない青少年を相手方とする性行為のすべてを包含することに近いと考えられ、適当と考えられる限定とはいえない」とする指摘があり、説得的です。

minoru-nminoru-n 2009/05/13 22:01 条例まできちんと引用され,非常にいいエントリだと思います。
できれば刑罰法規としての明確性まで踏み込んでいただけると興味深かったと思いますが,小池さんの論旨ではそこまで踏み込む必要はないのでしょう。
今後のエントリも楽しみにしています。

kleinteichkleinteich 2009/05/13 23:18 > minoru-nさん
小池です。お誉めのコメントをどうもありがとうございました。
わざわざエントリで言及までしていただきうれしいです。
たしかに、明確性の話も書けるとよかったと思います。福岡県の事例でも、「淫行」の範囲が不明確だという話が上告趣意の中心でしたね。もっともです。
いろいろ勉強中の身ですがわかることを書いていこうと思います、よろしくお願いいたします。

matebumatebu 2009/05/14 02:24 条例や表に出ている判例はその通りのようですが、どうも他の話を聞いてみると、「青少年を誘惑して...性行為をした」ので逮捕または起訴という事例もあるようです。
つまり、
・本人同士は一応合意でセックスをしたのだが、18歳未満の女性がそれを両親に(当然)隠していて、ある日それが発覚。
・両親は、男が誘惑した、と警察に訴える
というパターンです。
女性は合意だということを強く主張できず、なんとなくセックスしてしまったと言い訳をして、男が起訴される。
「性欲のはけ口」と「恋愛関係」は、本人同士双方が「恋愛関係だ」と主張しない限り、なかなか区別がつきません。
付き合っていなくても、セックスフレンド、ということがあります。

ちなみにこの条例とは違いますが、私の若い頃、友人が17歳のときお互い合意のセックスだったのに強姦罪で少年院送りになりました。
その時はお酒を飲んでなんとなくセックスしたのですが、女性が朝帰りして両親に問い詰められてそれを話し、両親が強姦で訴えたのです。
女性も裁判で合意ではなかったと主張しました。

minoru-nminoru-n 2009/05/14 11:10 >>matebu様
>・本人同士は一応合意でセックスをしたのだが、18歳未満の女性がそれを両親
>に(当然)隠していて、ある日それが発覚。
>・両親は、男が誘惑した、と警察に訴える
>というパターンです。

「一応合意」とは,合意の有無についてはなんともいえない感じがしますね。
子ども相手に断りづらい雰囲気を作ってなし崩し的に性行為に及んだ場合,男は「合意があった」というのでしょうが,女の子の方としては,「本当はしたくなかった」と言いたくなる側面があるような気がします(仮定ですが)。

特に,
>友人が17歳のときお互い合意のセックスだったのに
>その時はお酒を飲んでなんとなくセックスしたのですが、
これは合意があったかどうか疑わしいように思われます。

そのような曖昧な形で性交渉になだれ込む場合,やはり未成年者を保護すべき部分はあるように考えます(立法政策としてどのような手段をとるのか,刑罰をもってすべきかは別問題ですが)。

kleinteichkleinteich 2009/05/14 23:13 >> matebuさん
小池です。コメントどうもありがとうございました。いただいた情報とても参考になりました。
ご指摘の点、まったくそのとおりだと思います。
行為時には合意があって和やかにことが済み、事実として適法だったとしても、後に女性側が言を翻したりして、そのために警察に連れていかれるということはありそうですね。その場合でも、今日の社会事情では無罪の弁護は難しそうです。
本エントリでも、ある行為が条例に反し違法であるか否か(その状態)という点と、条例に反した疑いで現実に警察に逮捕されうるか否かという点は、別次元の話なので、はっきりと書き分けるべきでしたね。
また何かお気づきの点などありましたら、教えてくださると助かります。よろしくお願いいたします。

kleinteichkleinteich 2009/05/14 23:37 >>minoru-nさん
判断の難しい限界事例はたくさんありそうですね。
エントリでは千葉県条例の条文の意義に論旨を絞っていますが、警察実務や裁判での事実認定のされ方についても考察が必要ですね。深い部分については、公的機関の中の人でないと正確なことはわからないし、守秘義務情報でしょうから、おそらく表には出てきませんが(^^;

Spawning_PoolSpawning_Pool 2009/05/14 23:40 一つだけツッコミを。
>>婚約者間での和姦や、彼氏彼女間での和姦
「和姦=男女の合意の上での姦通=所謂不倫行為」なので、「恋愛関係にある男女の和姦」というのは成り立たないと思うのですが…。

kimtetsukimtetsu 2009/05/15 00:40 三番目の注釈はかなり大事なことをいっているとおもいます。
例えば、「単に自己の食欲を満足させるための飲食」という日本語は普通ありえませんよね。食事行為は食欲を満足させるために行なうのが当たり前だからです。

同じ理屈で考えれば、未成年との「単に自己の性欲を満たすための性行為」を禁止することは、結局は未成年との性行為を全面的に禁止していることに他ならないのではないかとおもうのですが。

matebumatebu 2009/05/15 00:58 >kimtetsuさん
私もそこに引っ掛かっていました。
「単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められない」
というのは、つきつめると「18歳未満は快楽のためのセックスをしてはいけない」
と同義ですよね。
お互いが合意していることは前提で、

1. 双方愛し合っている確認としてのセックス
2. 性的欲望のためのセックス

合意でも後者はダメよ、といっているような気もするんですが。健全ではないよと、セックスは18超えてからね、と。
仮にですよ。娘の両親が訴えた。男と娘は合意だったことを主張。でも恋愛関係ではなく、その場でその気になったから、と言ったら、どうなるんですかね。

kimtetsukimtetsu 2009/05/15 01:38 というよりかは、その1.と2.は同じものではないのかなと。

そもそも、恋愛も結婚も、安定的に性欲解消のためのセックスできる相手を確保するために行なわれることではないかなとおもう訳です。あまりおおっぴらに語られることではないですが、そういう暗黙の合意は社会全体にあるんじゃないですかね。

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