「大相撲夏場所4日目」(13日、両国国技館)
横綱朝青龍は豪風を押し出して1敗を死守した。痛めている左ひじを顧みない強烈なエルボーアタックで相手の体勢を崩すと、一気に前進し勝負を決めた。前日12日に亡くなった師匠の高砂親方(元大関朝潮)の母、季喜(すえき)さんへの弔い星とした。大関戦3連勝の新関脇豪栄道は大関日馬富士に上手投げで敗れ初黒星。全勝は横綱白鵬、日馬富士に平幕の稀勢の里、高見盛の4人。
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獣のように襲いかかった。右張り手から続けざまに左ひじを相手の右ほおにたたき込む。左手をつかないフライングぎみの立ち合いから繰り出したワンツー攻撃で相手の体勢を崩すと、左からすくって一気に前へ。安美錦に立ち合い負けした3日目とは別人の、厳しい取り口。食らった豪風の口からは血が流れた。
前日までのテーピングに変わって、左ひじにはサポーターが巻かれていた。勝ち名乗りを受ける際も患部を曲げ伸ばしして状態を確認。支度部屋では「気にしない、気にしない、気にしない」と繰り返した。「土俵に上がれば痛いとか気にしないんだ」と自らに言い聞かせるように話した。
決着後には頭をはたかれ、相手もろとも土俵下へ落ちた。観衆の目も気にせず豪風をにらみ、鬼の形相で言葉を発した。「(何も)ねえよ。一瞬、目があったけどな。礼をすれば終わったことだ」と内容は明かさなかったが「どっちも(けがをする)リスクがあるから」と不満げな表情を見せた。
朝青龍がここまで入れ込んだのには理由がある。12日に亡くなった師匠・高砂親方(元大関朝潮)の母・季喜さんに、どうしても白星をささげたかった。入門以来、毎年初場所、春場所に部屋で訪問を受け、励ましてもらっていた。「笑顔がオヤジ(高砂親方)そのままだった」と、さしもの“お騒がせ横綱”も神妙に故人をしのんだ。
場所中のため告別式には参列できない。献花を手配し取組に集中した。さらに土俵下には勝負審判として師匠が座っていた。「気合入ったよ。オヤジも審判だったしな」。悲しみを力に変えた朝青龍が弔い星をもぎ取った。