2009年5月14日3時8分
【ジュネーブ=玉川透】世界保健機関(WHO)が、新型の豚インフルエンザの警戒レベルをいつ最高度のフェーズ6に引き上げるかで、難しい判断を迫られている。すでに感染は相当な規模の広がりを見せており、「世界的大流行(パンデミック)」を宣言して各国に最高レベルの警戒を促したいのがWHOの意向だが、「経済への悪影響を避けたい欧州諸国の抵抗が強い」と踏み切れずにいる状態だ。
WHO関係筋によると、先月29日に警戒レベルをフェーズ4から5に上げた直後から、WHO内では早急に6に引き上げるべきだとの意見が強まった。内部資料ではすでに現状を「パンデミック」とする表現も使われ、マーガレット・チャン事務局長によるパンデミック宣言の原稿も準備ができているという。
WHOの定義では、世界を6地域に分けたうちの2地域以上の複数の国で人から人、さらに人に感染する「3世代の感染」が見られることがフェーズ6の要件。WHOは感染がすでに広がっている北米大陸に続き、欧州で3世代感染が見つかればすぐにでもフェーズ6を発令する構えだ。
だがWHO幹部によると、欧州の抵抗は予想以上に強い。欧州の感染拡大を受けたパンデミック宣言となれば、貿易や運輸など経済活動への多大な影響は避けられない。WHO関係者は「地続きの欧州は『運命共同体』意識が強く、欧州連合(EU)が一丸となって抵抗している。パンデミック宣言はもはや政治の問題だ」と話す。
WHOにも決断を先延ばしできない理由がある。これからインフルエンザが流行しやすい冬を迎える南半球は、医療水準が低い途上国が多い。すでに南米で感染が確認されており、アフリカへの飛び火も時間の問題とみられている。わずかな判断の遅れが重大な結果を呼ぶ。