最後に話してくれたのは、やはり今後の計画。当然、Webを使ったものになるようだ。河尻流のネット時代のサバイバル術を聞いてみよう。
もし、今後なんらかのアクションを起こすなら、Webを使う可能性は大ですね。ただ、雑誌がそのままWebに移行しても、正直うまくいかないケースが多いです。メディアとしての機能や求められるものが根本的に違うわけです。どちらかと言うと、「広告批評」のようなレビュー・ジャーナリズムのほうが、Webへの移行もやりやすそうですが、今度はビジネスとして成立できるかという問題がつきまといます。海外の「広告批評」的なジャーナリズムでは成功していると思われるものがあるとはいえ、比較的潤沢な資金とインフラ、ニュースソースを基に、手堅く運営している印象を受けます。
後、これは「広告批評的」なレビュー・ジャーナリズムや本来の意味での雑誌では難しいと思いますが、もしマス的な成功を意図するならば、雑誌の今後の一つの可能性として、メディア・メルティング(=ある世界観を全方位に伝えていく)なアプローチはアリじゃないかと思っています。伝えたいフィロソフィー、あるいは目的がしっかりあるならば、さまざまなメディアを横断して展開することで、マスに匹敵するパワーを持てる場合がありますね。
「ガールズウォーカー」がその成功例だと思います。携帯サイトから出発して、いまではパソコンサイトはあるし、「TOKYO GIRLS COLLECTION」といったイベントもかなり盛り上がっていますし、ショップやブランドも経営してトータルに一つの世界を作っている。単なる通販のファッション誌としてスタートしたら、ああいった影響力は持てなかったでしょう。ガールズウォーカーを運営するブランディングの社長、大浜史太郎氏はもともとテレビにかかわっていたと聞いていますが、ガールズファッションに造詣が深く、若い女性が興味を持てるコンテンツを提供できたのが成功の理由だと思います。
雑誌の成功は内容だけでなく、広告との兼ね合いもありますからね。電通が今年発表した『2008年広告費』によれば、雑誌の広告出稿量は前年比88.9%に落ちこんでいます。この傾向が続くならば、いよいよ厳しくなると言わざるを得ないでしょう。でも、休刊や廃刊のニュースばかりがクローズアップされる中、健闘している雑誌だってあるし、がんばっている編集者もたくさんいると思いますよ。広告に関しても同じことが言えると思います。雑誌というメディアを愛している読者もかなりの数おられるわけで、そういった部分がもっとクローズアップされるといいですね。個人的にはむしろこちらを応援したい気持ちが強いです。
商業的成功は大切ではあると思いつつ、そのプレッシャーが自由な雑誌作りをしばっている側面もあります。自由な雑誌ということで思い浮かぶのは、例えば、広告クリエイターの箭内道彦さん(風とロック)は、「月刊風とロック」というフリーペーパーを、赤字であるにもかかわらず個人で毎月出し続けていますが、作り手の息づかいが伝わるとてもいい誌面になっていて、ファンにはこたえられないものだと思います。今、一番欠けているのは、雑誌へのこういったピュアなアツさじゃないでしょうか。僕より上の世代の方たちが担ったのだと思いますが、雑誌が元気なころはそういったものがあったと思うんです。伝えたいことがあるから、徹夜も厭(いと)わず、一生懸命作って届けようとする。この1年で僕はそこの気合いだけは負けたくないと思ってやっていました。大変だけど、やっていて楽しかったですね。
でも意外に、今はこの“原点”を見つめ直す時期かもしれません。売れないからと言ってその場しのぎの策を連発していると、読者に見放されてしまうことになりかねない。その意味では、作り手も覚悟を決めなきゃいけないんでしょうね。雑誌も広告も、もうちょっと相手の目を見て話すスタンスでやるといいと思うんです。