どうして雑誌の広告は減少しているのか。どうして読者は雑誌を買わなくなったのか。30年間、広告を見続けてきて、この春休刊となった老舗雑誌「広告批評」の編集長である河尻亨一氏に、広告の現状、そして雑誌の今後、自身の今後などを語ってもらった。

河尻 亨一(かわじり こういち)
2000年「広告批評」に参加。企画、取材したおもな特集に、「エコ・クリエイティブ」「歌のコトバ」「箭内道彦 風とロック&広告」「Web広告10年」「日本映画はいま」「ワイデン+ケネディ」「表現者たち‐女の巻‐」「中国のクリエイティブ」「FASHION COLLABORATION」「漫画☆新世紀」「テレビのこれから」「オバマの広告力」「NUDE by KISHIN」などがある。

 河尻氏は雑誌向け広告の不調の原因として、ネットの影響で部数などが減少し、広告メディアとしての魅力を失っていると同時に、企業が広告の有効性を疑り始めた点が大きいと指摘する。消費者の成熟と細分化により、広く商品やサービスを認知してもらうことを目的とした広告を、雑誌などマスメディアに掲載しても効果がないという認識があるという。このため、企業は自社製品やサービスを詳しく掲載できる新たなメディアとしてネットに注目しているのだ。しかも、マスメディアへの広告費が減少しているのは、不況だからではなく、時代の流れだとも。雑誌業界は不況が終われば広告も増えると思ってはいけないということだ。

 まず、テレビCMを中心に、マスメディア向け広告の全般の現状を概説してから、雑誌の話をさせていただければと思います。ここ2、3年くらいでしょうか。広告だけでは企業の伝えたいメッセージが届かないという声をよく聞くようになりましたし、僕が日々広告をウォッチする中でも、自信なさげというか地に足がついていないと感じるものが増えて来たような印象があります。HDD録画ではCMはスキップされてしまいますし、テレビの視聴者や視聴時間も減っていると聞きます。もちろん、ソフトバンクや資生堂『TSUBAKI』のような、広告効果の上でも、表現としてのインパクトの上でも大成功したケースはあるのですが、全体として考えた場合、広告はかつてほどビビッドに時代を映さなくなってきていると言えるかもしれません。

 「広告批評」では、広告学校というスクールを開校していましたが、CMプランナーのクラスを受講される人の数が明らかに減ってきたんですね。2000年ぐらいでは生徒が殺到して受講をお断りしているくらいだったのが、数年前、ついにコピーライターのクラスに逆転されました。コピーがブームになっているというよりも、若い人たちのテレビCMに対するモチベーションが下がっているんです。今、思えばこれは予兆でした。

 マス広告が衰退している理由はいくつかあると思います。一つ目は、ユーザーの成熟。今はテレビCMのメッセージを鵜呑みにする人はあまりいません。「買ってくれ」というメッセージに対して、人はうさん臭いと感じてしまう。結局、広告じゃないかと。ユーザーと共に商品の成熟化も進んでおり、短い15秒や30秒のCM時間で、他社の類似商品に比べてどこが優れているのかを説明するのは難しい。

 80年代や90年代なら、面白いCMを作り、それがヒットすれば商品も動くという公式、あるいは幻想があったのですが、近ごろではそう簡単にはいかないようです。テレビが登場してから約半世紀の時を経て、CMの表現も既にさまざまな手法が試みられていますから、みんなが目を見張るような斬新なクリエイティブを打ち出すことも容易ではありません。おまけに「YouTube」といった動画共有サイトが現れて、その気になればネットで世界中から集まった面白いコンテンツを無料でどんどん見ることができてしまう。CMで商品や夢(エンタテインメント)を売りにくい時代と言えそうです。