九万人近い死者・行方不明者を出す未曾有の大惨事となった中国・四川大地震から十二日で一年を迎えた。復興に向けた取り組みが急ピッチで進むが、再生への道のりはまだ遠い。
四川省中部の〓川県を震源地として発生したマグニチュード(M)8・0の巨大地震。地震のエネルギーは阪神大震災の約三十二倍相当といわれ、被災面積は四川省を中心に約五十万平方キロに達した。被災者は四千六百万人余りで、約六万九千二百人が死亡、行方不明者も約一万七千九百人に上った。
中国政府は昨秋、三年かけて被災地のインフラ復旧や住民生活の安定を目指す再建計画をまとめ、今年三月には一年繰り上げて目標を達成する方針を表明した。復興費用は総額一兆元(約十四兆円)規模とされる。
今年、建国六十周年の節目の年を迎える中国。被災地の復興作業は国の威信をかけて展開されているようだ。一時は約千百万人の被災者が仮設住宅での暮らしを強いられていたが、恒久的に居住できる復興住宅の建設も進みつつあるという。
しかし、勤め先の店舗や工場が倒壊したり、金融危機の影響などで失業した被災者の就職難は深刻だ。震災で農地を失ったり、復興に伴いわずかな補償金で農地を強制収用された農民も多いという。将来の生活不安が増大しており、生活再建の道は険しいと言わざるを得まい。ハード面の整備だけでなく、手厚い助成措置や就労対策など被災者が自立できる生活支援に力を注ぐ必要があろう。
多くの学校が倒壊し、大勢の子どもが犠牲になったのも、今回の大地震の特徴だった。「手抜き工事が原因」と指摘する声が上がったが、四川省当局者は「建築の質が原因だった例は見つかっていない」とはねつけた。公安当局は手抜き工事が原因と追及する親への厳しい監視を継続しており、最愛の子を失った親らは出口のない苦しみにさいなまれている。
街や農村の風景を一変させた大地震は被災者の心にも深い傷を残した。四川省民政庁によると六百三十人の震災孤児が確認されており、中には地震のショックから心を閉ざし、ほとんど口を利かなくなった孤児もいるという。心に不安を抱える人には継続的なケアが不可欠だ。
阪神大震災からの復興のノウハウを提供したり心のケアを支援するなど、日本も息の長い支援を重ねたい。さまざまな協力を推し進めることで、日中間の信頼のきずなも深まろう。
(注)〓はさんずいに文
任期満了に伴う全国知事会の次期会長選で、麻生渡会長(福岡県知事)の無投票三選が決まった。他に立候補の届け出がなかったためで、十八日に開かれる全国知事会議で正式に選任される。任期は二年である。
麻生氏は二〇〇五年の会長選で勝って初当選し、〇七年は無投票で再選された。活発な選挙戦を通して地方分権論議を深めてほしかったが、二回続けて無投票当選となった。残念ではあるが、知事会を手堅くまとめてきた麻生氏の続投を求める声が多かったようだ。
かつてサロン的な親睦(しんぼく)団体といわれた知事会は、地方分権が徐々に進む過程で、国にもの申す「闘う知事会」と評価が高まった。ただ、最近は勢いが低下した感は否めない。
宮崎県の東国原英夫知事は、三選を決めた麻生氏に対し「これまでの知事会ではいけない。役割、存在感、国から権限を取ることについて、覚悟を持ってやっていただきたい」と注文を付けた。
同感である。分権で権限や財源などを手放したくない中央省庁の抵抗は極めて強いとされる。麻生氏には中央と闘う姿勢を鮮明にし、成果を勝ち取るような力量を望みたい。
麻生氏は消費税や地方消費税の税率引き上げ要求、国直轄事業負担金の将来的廃止などの方針を表明している。知事会内でも意見の違いはあろうが、大局的観点から結論を集約し、国に提案する必要がある。
今後、政府の地方分権改革推進委員会が、地方税財政改革を柱とする第三次勧告を出す。国の出先機関統廃合など、過去の勧告をあわせ「新地方分権一括法案」の国会提出が予定される。分権のヤマ場を迎える。「地方の顔」として知事会を率いる麻生氏が担う責任も重い。
(2009年5月13日掲載)