「『がん保険』を通して、お客様にお支払いする保険金・給付金は年々増加しており、平成19年度のお支払金額は、保険金・給付金合計で2951億円となりました。これは1営業日あたり平均12億円のお支払いをしている計算になります」
「がん保険」で有名な保険会社のディスクロージャー誌に、上記の記述がありました。
先月、この連載で「2人に1人がガンになる」というパンフレットのキャッチコピーに対して、60代前半までは約9割の人が罹患しない事実に触れましたが、「毎日12億円」という支払い実績は、想像以上に巨額だと感じます。
ただ、契約数も半端ではないはずなので、さっそく調べてみると、平成19年度末現在で1400万件を超える契約があります。保険金の支払い件数については、ディスクロージャー誌には載っていないので、直接、保険会社に問い合わせてみたところ、「ざっくりとした数字ですが」と断った上で、「保険証券単位」つまりお客様の数としては年間26万件、営業日数換算で1日約1000件の支払いが発生していることになる、とのことです。
やはり高い頻度で支払いが発生しているのだと感じます。ただし、支払いを受けている26万件が、1400万件を超える全体の契約件数に占める割合を計算すると、約1.8%です。「保険金支払いは、100人の契約者に対して、毎年2人も発生しない」とも言えます。加えて、244日という年間営業日数で割ったデータの表記を、お客様にとっての1年はあくまで365日として再計算すると、1日あたりの支払い金額は12億円から8億円に、件数は1000件から700件余りにと、少し小さくなります。
とはいえ、概算でも数字が把握できたことは本当に良かったと思います。「数字が大きく感じられる発表の仕方だな」と言いたくなる人もいるかもしれませんが、「毎日1000人というのは、他人事とは思えない」と感じる人もいるでしょう。このように、各自、判断できる材料が揃うことが好ましいのです。
私がとりわけ注目したいのは、一営業日当たり、1000人のお客様に12億円ということから「1件あたり約120万円」の支払いがある、と計算できることです。この数字には、「がん保険」の場合、診断一時金が100万円ほど付加された契約が多いこと、手術を伴う入院が多いことが関係しているからでしょう。
私自身は、がんは、「高齢になってから急増する病気」という認識でいいと考えています。したがって、40代くらいまでに100万円ほど医療費に備える貯蓄を作っておけば、何が何でも「がん保険」に入るべきだとも思いません。ただ、「60代前半まで10人に1人を超える罹患率は、やはり怖い。月々数千円の負担で、1件当たり120万円ほどの保険金が支払われる契約が機能しているのならば、安心料として納得できる」と考える人がいても、おかしくないと思います。
いずれにしても、保険金の支払い実績をもとに、保険活用の必要性について判断できると、多くの人がすっきりした気分になれるのではないでしょうか。ぜひ、各社とも、がん保険に限らず「保険が役に立っている実態」を公開して欲しいと思います。
後田亨(うしろだ・とおる)
1959年、長崎県生まれ。長崎大学経済学部卒業後、アパレル・メーカー勤務を経て、日本生命に転職。 10年間、歩合制の営業職員として働く。2005年に独立し、(株)メディカル保険サービス取締役に。 07年に刊行した「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)で、業界を知る立場から生命保険業界が 抱える問題点をあげて、評判に。近著は「“おすすめ”生命保険には入るな!」(ダイヤモンド社)。
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