新型インフルエンザの陰に隠れて、もうひとつの感染症が静かに拡大しています。百日咳の患者発生数が先月中旬までに、過去最多だった2008年を上回っており、これから6月にかけてさらに増加することが予想されます。昨年同様、20歳以上の成人患者が40%近くに達しており、新生児や乳児にうつす恐れがあるので心配です。
国立感染症研究所感染症情報センターによると、定点観測をしている医療機関(小児科)からの百日咳患者の報告数は4月中旬までに累計で1462人に上り、2000年以降最高数だった昨年同期の1246人より多くなっています。
百日咳患者はわが国では以前は年間10万人以上がかかり、その10%が死亡していましたが、1968年以降、3種混合ワクチン(百日咳、ジフテリア、破傷風)の定期接種が行われるようになり、激減しました。
しかし、3種混合ワクチンの接種が一時中断されたこともあり、また接種した人でもワクチンの効果(免疫力)が弱まってきたため、最近になって百日咳患者が増える傾向にあります。
特に問題なのが大人の患者の増加。20歳以上の患者は2000年には2.2%だったのが、年々この割合が増え、2009年では38%を占めています(いずれも4月中旬までの小児科定点からの数字)。
大人の場合は、咳が長期にわたって続きますが、典型的な発作性の咳を示すことは少なくやがて回復します。軽症のため風邪などとして見逃されることも多いのです。しかし感染力が強く、ワクチン未接種の新生児や乳児に感染すると、重症化しやすいので無視できません。
百日咳の発生数は例年、6月にかけてピークを迎えますのでしばらくは注意が必要です。これまで減少が続いていた0歳児の患者報告割合も2008年より増加しています。厚生労働省では感染予防のため、生後3カ月以降からの3種混合ワクチンの接種を勧めています。また近くに感染者がいる場合は、抗生物質の予防投与が行われる場合がありますので、医療機関や保健所などに相談しましょう。